ダンジョン攻略:後編
何かが砕ける音がして、やったと思ったその瞬間、その音の方から霧と花粉と花弁を乗せた暴風がオレを襲ってきた。
「『風の防壁』!」
咄嗟に魔具を取り出し防御するが、
ビシビシビシッ!!
目に見えるほど大きな亀裂が防壁に入り、今にも砕けそうだ。
「『風盾』!『風の防壁』!」
バキンッ、パリィン!ビシィッ!!
自前の防御魔法も合わせて展開したが、それはほとんど意味を成さず、防壁も保ちそうにない。魔具にストックされた『風の防壁』はあと3回。これを凌いだ後も戦闘があると考えるのが妥当だ、無駄使いはできない。
メキメキ……バキィンッ!
「『風盾』、『風の防壁』」
パキンッ、ドォンッ!
勢いはかなり緩み、破壊にも時間がかかっているが、それでも突破されてしまうだろう。『風の防壁』が半円を塞いでいて、後ろは壁だ。横に避けるのはリスキーで、『風盾』で受け流すのは流石に厳しく、このままではもう一度『風の防壁』を使うしかないだろう。
(時間が無ければの話だがな!)
「『風纏』、『風集』」
ミシミシミシ……
防壁が壊れていない間に纏う風を集めていく。『風集』は最大限発揮するために溜めが必要で勝手が悪い。時間はかかるが、その分強化された魔法を扱える。
ビシッ、ビシビシッ!
亀裂は大きくなり、崩壊まですぐだ。
(だが、準備はできた!)
纏っていた風が完全に集約し、オレを囲むようにそれは拡がっていく。
バキィンッ!
「『風籠』」
『風の防壁』を遥かに上回る防御魔法。身体が完全に包まれるが、圧倒的な防御力を誇る鉄壁のカゴ。
ドォンッ!
突風が直撃しようと『風籠』は壊れたりしない。今のうちにと魔法薬を飲んで体力と魔力を回復する。飲み終えたところで風が収まり、『風籠』を解除し、暴風を放ってきた方を見た。さあ何が出てくるんだと弓矢を構えていると
[[キャッははははっ♪]]
二重に聞こえる不快でかん高い笑い声、その声の主は、羽根を持った幼女のような見た目の2匹だった。
[[キャはっ♪]]
そいつらは羽ばたいて風の刃を放ってきた。速度はそれなりで数もそこまで多くない。余裕を持って躱すことができたが、オレを狙った風刃が花を切り裂き赤い花粉が舞った。
「『風跳』」
魔獣の出現に備えて魔法で跳躍するも、魔獣は出てこなかった。
(出てこない?ボスはそこまで調整できるのか?)
[[キャッキャッ♪]]
空中にいるオレを挟み込む形でボスは風刃を繰り出してくる。
「『風纏』」
ビュンッ!ズバァッ!
[キャアアアアア!?]
軽量化と一瞬の浮遊でそれを回避し、一匹の羽根を射ち抜いた。そいつはフラフラとした体勢を立て直そうとしていて反撃もしてきそうにない。
[キャはーッ!!!]
片割れがオレに大量の風刃を放ってくるが、1度見た攻撃など防ぐにも値しない。
[キャアッ!?]
オレを狙う風刃を誘導し、羽根を射抜いた方に当てる。これでかなり削れただろう、そう思ったのだが……
[キャフッ♪]
なんと羽根を射抜いたはずの奴が意気揚々と風刃を放ってきたのだ。
「嘘だろ!?」
危機一髪、風刃が肩を浅く切り裂いて通り過ぎる。ほとんど出血はしておらず、動きに支障は無いだろうが……幾度も体験した死の恐怖が脳裏によぎる。それでも冷静に、ボスを倒す方法を模索する。
(敵の攻撃を誘導して当てる方法は無意味どころか回復してしまった。となると各個撃破か……いや、ボスが意図的に回復してきたらどうしようもない。となると同時に射抜くしかないのか……)
殺す方法の面倒くささに思わず顔をしかめる。今のところボスは挟み撃ちの位置取りを保ち続け余裕そうにしている。
(まずはそれを崩さないとな……!)
ボスを誘導して少しづつ2匹の距離を近づけていく。最初は余裕を持っていた奴らも、いつまで経っても攻撃の当たらないことに苛立ちを募らせ、今ではなりふり構わず風刃を乱射している。しかしそんなデタラメな攻撃は隙を生むだけだ。
「射抜くっ!」
ヒュンッ、ドスッ!
二本の矢が、寸分違わずド真ん中を突き刺した。
「やったか!?」
ボスの攻撃は収まったが、突如霧が視界を遮ってきて、追撃はできそうにない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あーあ、また言っちゃった」
イアンは光の玉に映っているレネードを見てそう言った。
「フラグのことも教えてあげたほうが良かったかな……ま、これはこれでいい経験になるし別にいいか。頑張ってね、レネード。ラストスパートだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[[キャッはははァッ!!]]
「『風跳』っ!『風盾』!」
突如としてボスの鳴き声が聞こえ、同時に霧が一気に晴れた。かわりに色とりどりの花粉が舞って大量の雑魚モンスターが現れ、何匹かは死に絶え、数匹眠ってしまっている。レネードは咄嗟の跳躍でツタによる拘束を遅らせて、盾を出すことで一瞬だけ難を逃れた。
(まだあるのか!?)
すぐさま状態異常耐性の魔法薬を被ることで万が一に備え、敵を迎え撃つ。
ビィィィーッ!!
「はぁっ!」
ザンッ!、ビチュッッ!?
(まずは一匹)
キシャァ!、ギャギャァ!
「邪魔だっ!」
ギャッ!?、ギャアッ!?
迫ってきた鳥型の魔獣を矢で斬り、その勢いのまま後から来た魔獣たちを退ける。
[[キャふふっ!!]]
「『風纏』」
蠢く魔獣たちを吹き飛ばしながら迫ってくる暴風は軽量化によって避け、そのまま魔力を補充しつつボスを見つめた。
(さっきの傷と矢は無くなっているが……回復しているわけではない?同士討ちによる回復も全ての技に適応されるわけではなさそうだし、進んで回復しようともしていない)
相変わらず地上は魔獣で溢れている。鳥型の方はボスを囲うように羽ばたいていて、ボスの壁となっている。
(ならそれをぶっ飛ばす!)
魔獣の頭を踏んでボスに近づき、妨害してくる鳥型は羽根を斬って落とす。
「『風跳』」
飛び上がって魔獣の追撃から逃れ、狙うは壁の薄い脳天。
「『風穿つ道』」
ズバァン!ギャアアッ!?
壁を打ち砕いた瞬間に二本の矢を構え、
「いけ」
ヒュンッ、ド!ドスッッ!
[[キャアアアアアッ!?!?]]
射ち抜いたのは顔面、人間の顎あたり。
「『風纏』」
即座に浮いて魔獣から距離を取ろうとしたが、壁となっていた魔獣たちが突如として霧散し、ボスは項垂れふらついている。明らかな隙、罠だとしても、『風の防壁』がありカバーが効く。そう思いオレは迷わず矢を放つ。
ドスッ!ドスッ!
(まだ足りない!)
ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!
矢の8割以上を使ってボスへのダメージを蓄積させていく。『風纏』が切れる直前まで打ち込み続けたところでボスが気を取り直し始め、オレは疲労回復の魔法薬を急いで飲み込み、絨毯の如く拡がっている魔力結晶の上に降り立った。
ふと周りを見てみると、咲き乱れていた花たちは魔獣やボスが散々暴れたせいかほとんど散っていて、魔力結晶に乗られていることもあり押しつぶされている。もはや花粉を吐き出すことは出来ないだろう。周囲の状況を簡単に確認してボスに向き直る。
[[キャァッははははっ!!!!]]
ボスの叫び声による風圧に耐えていると、そこら中に転がっていた魔力結晶たちが地面に沈んでいっていることがわかった。全て沈み切ったあと、ボスの様子が変わる。ボスの体の何箇所かに花が現れたかと思えばそこからズルズルと花の付いたツタが現れ、それと同時に地面の花が息を吹き返し始めたのだ。しかし、前と違って赤い花は無くなっている。代わりに黄色い花と灰色の花が咲き誇っている。青い花と紫の花も顕在だ。
(もう勘弁してくれよ!!)
ここに来て初見の情報が3つ以上あることが確定した。そんなオレを嘲笑うかのようにボスはツタをめちゃくちゃに振り回してきた。
「『風の防壁』!」
咄嗟に魔導具の魔法で防ぐ。ある程度は耐えれそうだが、ツタの攻撃とは違った、細かな攻撃があることがわかった。
「『風纏』『風集』」
(この細かな攻撃は……灰色の花からか。長期戦はむりだ、速攻で射ち抜くしかない!)
状態異常耐性の魔法薬を飲んで弓矢を構える。
バキィンッ!
『風の防壁』が破壊されたその瞬間にボスを瞬時に視認し、右の方を一発で仕留めることに決めた。
「『風穿つ道』」
ズドォンッ!!
[キャアアアアアアアッッッ!!!???]
[キャアッ!?]
暴風を纏った矢に吹き飛ばされた右の方は完全に沈黙したが、左の方は少し動きが止まった程度だ。オレを狙いつつ仲間の回復のためにツタを伸ばしていく。
「『風の防壁』!!」
バチィンッ!
右の方に射った矢に付けていた魔導具を発動させてツタの進行を妨害する。
「『風穿つ道』」
[キャァッ……]
射ったのは、鳴くことすら許さない音速の一撃。一つ息を吐いてボスの消失を見届けた。




