第七話 悪童からも好かれてしまう件
未海の髪が薄い青色になってから、俺は彼女のことが気になっていた。
これが――アニメ効果!?
「えへ……ふ、藤堂君、て、テンカラ持ってきたよ」
「お、まじか! ありがてえ……」
放課後、未海が『異世界転生したらカラビナでした』のグッズを詰め込んだ袋を手渡してくれた。
見たくてしょうがないぜ。
パッケージには可愛い美少女と鉄製のカラビナが描かれている。
ふむふむ、こういうヤツね。
「そそそそ、それじゃあまた……えへ」
「ああ、またな」
わざわざ俺のためにひと気のない所で渡してくれたのだ。
彼女はいい奴だ。
さて、とりあえず帰ろうか。
最近はひよのさんが俺のことを監視しているので、帰るのに時間がかかったりする。
燐火と会うと遊びに行こうとせがまれるので、どうにか上手く切り抜けていち早く帰ろう。
今は周囲の評判をあげるより、自分の趣味を優先するのだ。
◇
普段は通らない校舎の裏庭。
草木が生い茂っている所をみると、あまり手入れもされていないんだろう。
このルートなら、あの二人にもバレないはずだ。
イーヒヒヒヒっ! 楽しみ、楽し――
「太郎、てめぇ舐めてんだろ? なあ!」
「そ、そそんな、や、やめてよお!」
リーダー格の一人と、金魚の糞が二人。
お腹を殴られて地面に倒れた眼鏡くんが一人。
うーん、どうみてもいじめっ子といじめられっ子。
これは――あれか。
原作で見たことがある。
確か……いじめっ子の名前は、悪童くん。
雑魚二人はどうでもいいとして、いじめられっ子の眼鏡くんは……太郎? だったかな。
確か……いや、そういえば俺が率先して虐めていたはずだ。
悪童はその二番手みたいな感じで、横に立っていたはず。
「おらぁ! 太郎ぉ!」
「や、やめてくれ……」
うわー……。やりすぎでしょ……。さすがにあれはひどいな……。
本来なら俺はあの立ち位置にいたのか、マジで終わってんな藤堂充。
で、ここで天堂司が現れて助けるはずだが――いた。
「…………」
しかし、天堂くんは――見て見ぬふりをした。
なぜだ……原作と違う……。
「ほら、太郎。犬の鳴きまねしてみろよ」
……さすがに我慢ができない。けど、悪童は俺ほどじゃないにしても体格ががっちりしている。
腕力ステータスも、かなり高かったはずだ。
それに……ただ、怖い……。
俺の外は藤堂充だが、中身は違う。
ただの……引きこもりだ。助けるたって、どうしたらいいんだ?
でも……ひよのさんの時は足が動いた。
頑張れば……いけるはず。
「うぬら、何しとるど?」
「ああん? って、藤堂かよ」
ん? あれ、悪童くんって、確か藤堂の部下的な存在だったよね。
もしかして、改変してる……?
「何だその口の利き方は?」
おお、なんか思ったよりそれっぽいフレーズが飛び出た。
やはり転生したおかげか。
けれども、悪童くんはビビることなく睨みつけてきた。
「ああ? なんだと? 藤堂、知ってんぜお前」
「あ?」
え、何!? 何知ってるの!?
「てめえ……ひよのさんと一緒に帰ってんだろ! 朝も一緒に登校しやがってよ! 俺は……ゆるせねえんだ!」
そ、そういうことー!? 悪童くん、ひよのさんのことが好きだったんだ……。
あ、だから俺の傘下に付いてたのか。本来は天堂くんを虐めるためにいるキャラクターだ。
つまりその矛先が、俺に来てしまっているということか。
驚きすぎて、思わず前世の俺が強く出てしまった。
切り替えなければ。
申し訳ないが、太郎は戦力として皆無。
眼鏡を武器に使ったとしても、大したダメージは見込めないだろう。
それどころか、目に致命的なダメージを負う諸刃の剣。
眼鏡だけが持つ技、「うわ! お前のせいで眼鏡壊れたやんけ!」という、小学生中学生くらいまでは通じるなんかメンタルを揺さぶってくるスキルも、おそらく悪童には通用しない。
戦闘になれば……1vs3……勝てるのか?
「おいお前ら、藤堂を囲め」
「へ、へい!」
「は、はい!」
ふむ、しかし雑魚二人は怯えているみたいだ。
彼らはひよのさんが好きではないのだろう。そこに付け入る隙がある。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、という言葉を思い出す。
つまり考えるべきは悪童ではなく、雑魚二人。
「てめえら、俺が誰だかわかってんのか? 藤堂充様だぞ。もしここで俺が負けたとしても、次はどうかな? 夜道は? 朝の登校は? 常に気を張ってられるか?」
渾身の一撃……なるか?
「す、すすすすいませんでしたー! も、もう俺には無理です!」
「だ、だ駄目だ俺も!」
「おいてめえら、びびってんじゃねえ!」
そして雑魚二人は去っていった。
これで悪童くん一人。タイマンなら、何とかなるかもしれない。
「どうした悪童、お前だけになったぞ」
「ちっ、あんな雑魚。初めからあてにしてねえよ」
どうやら退かないようだ。頼む、下がってくれ。
戦いたくない、いや、戦うのが怖いのだ。
「なんで助ける? もしかして正義の味方か?」
「……いや、太郎は俺の獲物だ。てめえにはやらねえってだけだ」
ごめん太郎君。そんなつもりはないよ。怯えてるけど、ごめんね。
本当に手は出さないから、今だけは許してね。
「ちっ、くそがよ!」
悪童くんは、右拳を振りかぶって俺に向かってくる。
俺は――サラリと避けようとしたが、見事右頬にヒット。
しかし体重差があるらしく、俺は微動だにしない。
「今のがお前の全力か?」
いってえええええええええええ。痛い、痛い、痛すぎる。ナニコレ、マッスルパンチ過ぎない!?
歯とか取れたんじゃないのこれ?
「くそ……余裕かましてんじゃ――」
「落ち着け、今度、ひよのさんの弁当を食べさせてやる。だから、この獲物は俺に譲れ」
そして俺は、そっと耳打ちした。ていうか、怖いから戦いたくない。
なんとかひよのさんに説明して、悪童くんに手料理を作ってもらおう。
罪を憎んで、人を憎まずだ。
「ま、まじですか」
「ああ、大真面目だ。その代わり、太郎は許してやれ」
「で、でもコイツ……」
「弱いもの虐めはよくないだろ」
「わかりました……」
悪童くんは、こうして俺の仲間になった。
太郎君、成敗できなくてごめんよ。
「で、なんで虐めてたんだ?」
「コイツが悪いんですよ」
太郎は震えていた。こんな眼鏡くんが悪いわけがない。
悪童くんの性根を変えるべきだ。
「太郎、地元の小学生の子供たちからカツアゲして、後、五人ぐらい女を寝取ってポイポイ捨ててるんです。スパスパもするし、この前、お婆さんから財布を盗んだんすよ。だから俺、性根を叩き直してやりたくて……」
「え、そんな悪いことしてるの? 太郎?」
衝撃的な発言を聞いて太郎に顔を向ける。
「えーと、はい。まあ、そうですね……で、でも、カツアゲは週に一回だけで、女も……四人しか寝取ってないんで……」
「悪童くん、やっちゃっていいよ」
「え? でも、暴力はダメって……」
「いいんじゃない? ちょっとぐらいやらないとわからない人もいるし」
「そ、そうっすよね! おい太郎! てめぇ!」
「ひ、ひいいい!?」
人は見かけで判断するのは良くない。
後から知った話だが、太郎は本当に最低な人間だった。数日後、退学になった。
実はこういう裏事情があったとは。
「兄貴、着いていきやすぜ!」
「あ、ああ」
「そういえばその袋に入ってるのは何なんですか?」
「黙ってろ。詮索するな」
「へ、へい……」
原作通り、悪童くんが傘下になった。
藤堂充の評判が、著しく下がった。
一歩進んで、四歩下がった。
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