↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/28

第六話 オタクにも好かれてしまう件

「ふふふふ、はははっはははは! 最高、最高じゃないか!」


 俺――藤堂充《ふじどうみつる》は、悪役転生したことを喜んでいた。

 最高だ。最高すぎる。


 こんな、こんな嬉しいサプライズがあるとは……!



 今日は日曜日。学校は休み。


 電車に揺られながら、満面の笑みを浮かべていた。

 ちなみにさっきの台詞は、超小声である。


「ねえ、あの怖そうな人なんか笑ってない?」

「ほんと……犯罪でもしそう」


 外を歩けばこの有様。だが、気にしない。

 あと数駅で、最高の目的地に辿り着くのだから。


 ◇


「にゃんにゃん喫茶どうですかー? ……怖っ」

「ご主人様だにゃ……ん……怖っ」


 駅を降りると、猫耳の女性たちが暖かく出迎えてくれた。

 ここはゲームの世界。

 とはいえ、現実世界と変わりはない。

 

 もしかしたらと思い、前世の趣味であるアニメ、漫画、小説をネットで検索してみたのだ。

 すると、出てくる出てくる知らない名作の数々。


 つまりこの世界では、独自のコンテンツを築きあげているのだ。

 もちろん、前世で見ていた作品は見られなくなってる。そこは悲しい……。


 とはいえ、新しい作品に出会えるのだ。

 これほど嬉しいことはない。


 こんな時、どんな顔をしたらいいのかわからない?


 ――笑えば、いいと思うよ。


「ふっふふふふはははははは!」


「ねえ、あっちいかない? あの人、やばいよ」

「そうだね、怖いからあっちいこ」

 

 周囲のヒソヒソ声など、もはや耳に入らぬ。

 

 探索《バトル》スタートだ。



「何だこれ……転生したらカラビナでした。だと? 累計発行部数一千万!?」


 アルメイトと呼ばれた大手ショップに入店。

 すると、出てくる出てくる知らないタイトルの数々。

 こんな楽しいこと……あるのか? 思わずよだれが出そうだ。


 興奮しながら手あたり次第、まるで俺は読み上げボットのようになっていると、ラブコメ王道テンプレ、誰かと手がぶつかる。


 しかしそのタイトルは「あんあん、いやんいやん、百合百合物語」だった。

 ロマンチックは皆無である。


「ふぇえ、す、すいま……ふ、藤堂……君!?」

「ん? ……もしかして、水藤未海《すいどうみう》か?」


 そこにいたのは、同じクラスメイトの女子生徒だった。

 名前は水藤未海《すいどうみう》。

 キャラクター属性は、陰の陰の陰キャラクターだ。

 

 ゲーム内での人気はあまりなかった。その理由として、変わった特性というか、趣味がある。

 それはもうオタクなオタクで、オタクなのだ。


 BL、GL、NL、TL、何でもござれ。

 アニメ、漫画、小説、映画、全てを網羅している限界オタクだ。


「えへ……どうしてここにいるの? えへ……」


 野暮ったい手入れのされていない黒髪ボブカットに、垂れ下がった前髪は、目を覆いつくしている。

 黒ぶち眼鏡は標準装備。

 もちろん、目線は合わせてくれない。


 前世のゲームでは熱狂的なファンがいるものの、人気投票では下のほうだ。

 かくいう俺も攻略はしていない。

 確か、藤堂充からいじめられたりしてるときもあった。


 俺は――こんな小動物みたいな彼女に悪いことをするのか。


 しかしふと気づく。


 彼女はこの世界の住民。

 つまり、オタク先輩。

 名作、駄作、そして隠れた名作、何もかも知っているの……では?


 極悪の俺のイメージを払拭するにもちょうど良い。いや、それよりもオタクの友達がほしい。


 この奇跡の出会い、見逃すわけにはいかない。


「実は……前からオタクの趣味があったんだ」


 ジャブとしては上出来だろう。

 彼女の攻略法としても正攻法だ。。

 未攻略とはいえ、ある程度の知識は持っている。


「ええ!? そ、そうなの……。えへ、……何が好き?」


 未海は嬉しそうだった。少し引き笑いが気になるが、これもまた個性。

 可愛げもあるし、何よりも尊敬する先輩。

 俺は数少ない、いや、一つしかない引き出しを取り出す。


 失敗すれば、彼女と仲良くなれない。

 頼む――成功してくれ。


「て、転生したらカラビナが好きで――」

「ええええええ!? 好きなの!? 藤堂くん、テンカラが好きなの!?」


 すると、未海は店内で叫んだ。構わず叫んだ。

 興奮気味に、そしてガブリと食いついた。


 テンカラ? 


「あ、ああ。そうそう」

「いいよね、テンカラ! わ、わたしね、あの『耐荷重1200kg だと!?』っていうシーンが好きで……たまんないんだよね!」

「あ、ああ。わかる、わかるぞ。……ってすまん、まだそこまで見てないんだ」

「そ……そうなの……だ、だだだ、だったら、か、貸そうか? わ、わたし、漫画も、小説も、アニメも、ドラマCDもあって……め、迷惑かな」

「まじか!? いいのか!?」


 最高の提案をされて、俺は思わず未海の手を掴む。


 神、あなたが神か!


 未海は思い切り頬を赤らめる。声にならない声をあげながら、しろどもどろに口を開いた。


「ふ、ふふふふふ、藤堂くん!? てててててて、てが……ふふふ、れてるよ……」

「ああ、ありがとうな。俺のためにそうやって言ってくれて。もちろんいつでもいいから、楽しみに待ってるぜ」

「えへ……わ、わかった……えへ……」


 未海は、嬉しそうにえへえへ笑う。それから俺たちは、アルメイトを見て回った。

 おすすめの作品を手に取り、彼女の言う通りにチェックしながら名作のメモを取る。


 少し恥ずかしそうに、それでいて楽しそうに未海は教えてくれた。

 俺も色々なことを質問できたし、仲良くなれて本当に嬉しい。


「おおー、この子可愛いな。髪の毛が薄い青色で、目元もぱっちりしてて好みだ」

「ふ、藤堂くん、こ、こんな子が好きなんだ……」


 俺が思っている以上に、彼女は真っ直ぐでいい子だった。


「えへ……ふ、藤堂くん……、あ、あ、あ、ありがとう、ば、ばいばい」

「いや、こちらこそありがとうな! めちゃくちゃ楽しかったぞ」


 夜も遅くなったので、俺たちは駅で別れた。

 大量の漫画と小説、親からもらったお小遣いがすぐに吹き飛んでしまったが、最高の買い物が出来た。


 とはいえ、自宅で見ていると何か言われるのかもしれない……悪の化身が突然オタクに……傍から見れば怖いだろう。

 とりあえずそっと家に帰り、奥の棚に隠しておいた。

 夜か、休みの日か、ゆっくりと見よう。


 ◇


「じゃあね、みつにぃ! 今度、デートしようね?」

「ああ、またな夜宵」


 翌朝、部活へ行く妹を見送る。

 今日はさすがにいないよな……と思っていたら、家から外に出た瞬間、ひよのさんが電信柱の横で立っていた。


「おはようございます、充さん」

「あ、はい。おはようございます」


 ちなみに、俺は昨日と出発時間をずらしている。


 一体何時からいるのか、もしかして朝からずっと待機しているのか?

 正直、怖くて聞けません。


「お! なんやまたひよのおるんか」

「おはようございます。何か問題でも?」


 校門で、燐火が壁に背を持たれて俺を待っていた。

 相変わらず二人の仲はよろしくない。困ったもんだ。

 ばちばちしている間に、俺はそそくさと教室へ向かった。


 ドアを開けると、なにやら騒がしい。

 誰かが、何かをした、みたいな会話をしている。

 何かしたっけ?


 不思議な気持ちのまま着席すると、見知らぬ人から声をかけられた。


「……おはよう」


 見たことがない女子生徒だ。いや、でもそんなことありえない。

 なぜなら、俺はこのゲームをやり込んでいた。

 それなのに、知らない女性が……?


 髪の毛が薄い青色で、目元がぱっちりしていて、アニメのキャラクターでいえば俺好み。

 なのに何で覚えていないんだろう。


「あ、あ、あ、あ、あ、ふ、藤堂君、えへ……おはよう」


 その瞬間、気づく。

 その声、その口調、彼女は――水藤未海《すいどうみう》だ。

 俺は驚きのあまり叫びそうになるが、何とか堪える。

 その変貌ぶりが気になって、小声で訊ねた。


「ど、どうしたんだ? その、格好?」

「えへ……ふ、藤堂君の、こ、好みだよね……だ、だから……その……どうかな」


 まさかだった。いや、まさかすぎる。あの後、帰りに染めたのだろうか?

 髪の毛もばっさり切っている。しかし、思っている以上に可愛い。


 周囲も、誰あのかわいい子? と声を漏らしている。


 ――俺好みだ。


「可愛い……」

「えへ……えへ……嬉しい……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。