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こっちか!  作者:
本編
3/6

 そうかそうか。そうだよな。うん。

 そういえば今私が着てるドレスも赤と黄金で、まんま竜と同じ色合いだしね。


 ……うん。


 恥ずかしいいいい! 最初に言っといてよ! 勘違いしちゃったじゃんか!

 すっかりあのイケメン陛下が相手だと……ああああ死ねる羞恥で死ねる!

 馬鹿め。あんな良い男が私ごとき相手にするとでも思ったか。……思ったわ!

 仕方ないじゃないか! 異世界召喚とかいう超常現象に、ちょーっと頭に花が咲いてまう事もあろうて!



『待っていたぞ……我が花嫁』


 盛大にのたうちまわりたい欲求を堪え、微笑の形に表情を固定していた私をその瞳に映し、竜が囁いた。

 落ち着いた重低音が傷心中の胸に染みる。

 あ。この声、凄く好み。

 というか、竜って良いよね。二次元生物の中で一番好きだったりするんだよ実は。

 やっぱ格好良いしさ、憧れちゃうよね!

 こうして現実で見られるとか、すごい幸運というか奇跡というか……


 ……あれ?

 何か、がっかりする必要なくね?

 だってさ、だってさ、考えてみたら、竜の花嫁ってオイシイ立場じゃん!

 恋愛系の物語において、唯一人を愛し続ける一途な生き物として描かれる事が多い竜。

 そして、たいてい人化する……それも、大層な美形であるのがセオリーというやつだ。

 そう思い至った瞬間、またも浮上する機嫌。我ながら単純な精神構造である。


 あらためて竜に目を向ければ、ばちりと会う視線。

 熱の籠った視線の強さに、何だか気恥かしさを感じて少し俯いた。

 ふっと短く吐き出された吐息が前髪を撫でる。

 笑った? ちらりと伺えば、愛おしげに細まる黄金の瞳。


『あぁ……可愛らしいな、我が花嫁は』


 甘さを多分に含んだ囁きに、ドキリと胸が鳴った。


 悪くない! 悪くないぞ!

 悪くないけど……あれだな。私って意外とちょろい人間だったんだな。

 何か、わりと尻軽な思考しとる自分に凹みそう。


『触れたいが……「このまま」では壊してしまいそうだ』


 キ タ 。

 きたぞ人化フラグ!

 自分のちょろさに僅かに落ちたテンションが、ぎゅいんと急上昇した(やはりちょろい)。

 いつでもこい! きたれ美形!


 期待に満ちた目を向ける私の前で、竜の体が赤い光を帯びる。


 そして。



 幻想的な光景に見惚れる私へと、光が降り注いだ。


 ……あれ?

 脳内に疑問符が浮かぶ。


 すうっと浮き上ががった、私の体。


 え? え?

 脳内が疑問符で埋め尽くされた。


 赤い光が体内に流れ込み、私の体を変質させていく。


 …………。

 疑問符で飽和状態になった脳は、活動を停止。


 カッ!


 変化を終えた私の体内から、薄青く色を変えた光が放出された。


 閉じていた瞼が自然に開き、見下ろす形で世界を「観る」。

 瞳に映る「色」の多様さに見惚れ、読み取れる情報の深さに圧倒される。


 ばさり!

 ひとりでに背中の翼が広がり、風圧で光を散らした。


 滑らかな鱗は、空を映し青く輝く。だが、それ自体は色を持たない「透明」。

 そこに映る瞳は「水色」。純水を凍らせ、幾重にも重ねた時、現れる色だ。


「なんと……美しい」


 陛下の声が聞こえた。

 思わず漏らした、といった様子の、小さな声。

 陛下だけではない。あちらこちらから感嘆の声があがっている。

 その全てを、妙に聞こえの良くなった耳が拾った。


 声に含まれる感情から、それが本心からの声だと、

 この姿に、本気で感動しているのだと理解する。


 が、嬉しくない。


 美しい、とは思う。

 その色彩を純粋な気持ちで評価するなら。

 ……自分の体であるとさえ思わなければ!


 ああ、そうか。変化するのは


『こっちか!』


 叫んだ口から、ぶしゃっと冷水が噴き出した。


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