3
そうかそうか。そうだよな。うん。
そういえば今私が着てるドレスも赤と黄金で、まんま竜と同じ色合いだしね。
……うん。
恥ずかしいいいい! 最初に言っといてよ! 勘違いしちゃったじゃんか!
すっかりあのイケメン陛下が相手だと……ああああ死ねる羞恥で死ねる!
馬鹿め。あんな良い男が私ごとき相手にするとでも思ったか。……思ったわ!
仕方ないじゃないか! 異世界召喚とかいう超常現象に、ちょーっと頭に花が咲いてまう事もあろうて!
『待っていたぞ……我が花嫁』
盛大にのたうちまわりたい欲求を堪え、微笑の形に表情を固定していた私をその瞳に映し、竜が囁いた。
落ち着いた重低音が傷心中の胸に染みる。
あ。この声、凄く好み。
というか、竜って良いよね。二次元生物の中で一番好きだったりするんだよ実は。
やっぱ格好良いしさ、憧れちゃうよね!
こうして現実で見られるとか、すごい幸運というか奇跡というか……
……あれ?
何か、がっかりする必要なくね?
だってさ、だってさ、考えてみたら、竜の花嫁ってオイシイ立場じゃん!
恋愛系の物語において、唯一人を愛し続ける一途な生き物として描かれる事が多い竜。
そして、たいてい人化する……それも、大層な美形であるのがセオリーというやつだ。
そう思い至った瞬間、またも浮上する機嫌。我ながら単純な精神構造である。
あらためて竜に目を向ければ、ばちりと会う視線。
熱の籠った視線の強さに、何だか気恥かしさを感じて少し俯いた。
ふっと短く吐き出された吐息が前髪を撫でる。
笑った? ちらりと伺えば、愛おしげに細まる黄金の瞳。
『あぁ……可愛らしいな、我が花嫁は』
甘さを多分に含んだ囁きに、ドキリと胸が鳴った。
悪くない! 悪くないぞ!
悪くないけど……あれだな。私って意外とちょろい人間だったんだな。
何か、わりと尻軽な思考しとる自分に凹みそう。
『触れたいが……「このまま」では壊してしまいそうだ』
キ タ 。
きたぞ人化フラグ!
自分のちょろさに僅かに落ちたテンションが、ぎゅいんと急上昇した(やはりちょろい)。
いつでもこい! きたれ美形!
期待に満ちた目を向ける私の前で、竜の体が赤い光を帯びる。
そして。
幻想的な光景に見惚れる私へと、光が降り注いだ。
……あれ?
脳内に疑問符が浮かぶ。
すうっと浮き上ががった、私の体。
え? え?
脳内が疑問符で埋め尽くされた。
赤い光が体内に流れ込み、私の体を変質させていく。
…………。
疑問符で飽和状態になった脳は、活動を停止。
カッ!
変化を終えた私の体内から、薄青く色を変えた光が放出された。
閉じていた瞼が自然に開き、見下ろす形で世界を「観る」。
瞳に映る「色」の多様さに見惚れ、読み取れる情報の深さに圧倒される。
ばさり!
ひとりでに背中の翼が広がり、風圧で光を散らした。
滑らかな鱗は、空を映し青く輝く。だが、それ自体は色を持たない「透明」。
そこに映る瞳は「水色」。純水を凍らせ、幾重にも重ねた時、現れる色だ。
「なんと……美しい」
陛下の声が聞こえた。
思わず漏らした、といった様子の、小さな声。
陛下だけではない。あちらこちらから感嘆の声があがっている。
その全てを、妙に聞こえの良くなった耳が拾った。
声に含まれる感情から、それが本心からの声だと、
この姿に、本気で感動しているのだと理解する。
が、嬉しくない。
美しい、とは思う。
その色彩を純粋な気持ちで評価するなら。
……自分の体であるとさえ思わなければ!
ああ、そうか。変化するのは
『こっちか!』
叫んだ口から、ぶしゃっと冷水が噴き出した。