2
どれくらい意識を失ってたかは不明だが、
目を開けたらアラビアンナイトだった。
いや、夜ではないけど。
世界観的な話ね。時間帯的には真昼だよ。太陽がさんさんと輝いてるよ。
って太陽光強っ!
日陰に居るにもかかわらず、照り返しだけでも目がああああってなるんだけど!
うわ、目ぇ瞑っても眩しい! 暑いし!
「ようこそ、花嫁様」
そっかー。目の調子が整うまで待っててもらえないのかー。
そっと薄眼を開け、声の主を確認する。
頭から足元まで真っ黒な布を被り、首からじゃらじゃらとオリエンタルな飾りを下げているお婆様……えと、占い師さんですかね?
ところで、花嫁様というのは誰の事です?
振り返ってみても、後ろにはドデカイ鏡があるだけ。
はて、と首を傾げれば、鏡の中で『アラビアンなドレスを着用した自分』が一緒に首を傾げた。
・・・・・・。
って、いつのまに着替えた私!?
びくりと体を揺らせば、あちらこちらに施された装飾がシャラリと涼しげな音を鳴らした。
身じろぎするたびに、幾重にも重ねられた薄布がするすると肌の上を滑る。
赤を基調とした中に黄金がちりばめられた豪華なドレス。
派手な色合いだが、意外と似合うじゃないか自分。
良く見れば、化粧までしてある。なんだ。私ってば、ちゃんとすれば見れるようになるんだな。
妹に見せたら何て言うだろ?
カメラ無いのか、カメラ。是非とも写真に残しておきたい。
「皆様がお待ちです。どうぞこちらへ」
まんざらでもない気分で鏡を眺めていた私の肩を、皺だらけの手がワシッと掴んだ。
「ほぅ!?」
我ながら意味不明な悲鳴(?)を発した私の腕を引っ張り、お婆様が歩き出す。
ちょ、待って、まだ状況理解が追いついてないから!
そうだった、綺麗なドレスにうはうはしてる場合じゃなかった。
えーと、まず花嫁様ってのは私の事なんだね?
できれば否定したかったけど状況的に認めるしかないから仕方なく認めますよええ!
って事は結婚するのか私。いや、誰とだよ!?
突然知らん場所に連れて来られて、結婚とか無茶ブリが過ぎるだろ!
いやまず連れて来られた手段からして無茶だったもんな。
どこぞのマンガか小説か! っていうね。
ん? 小説っていうと……召喚のち嫁って展開の場合、結婚相手って王様とか王子様ってのが王道だよな。
当然、美形の。
……うん。
どうしよう。『あれ? 悪くないかも』とか思っちゃってる自分が居る。
いやほら、普通に生きててそんなハイレベルな人物を捕獲できる可能性なんて皆無なわけで。
そもそも今の時点で『彼氏なんざいたこともないぜ☆』状態な私にとって、結婚じたいできるかどうかって話なわけで。
権力と実力を兼備えた美形な旦那様に貰ってもらえるというのなら、むしろ、ありなんじゃねコレ?
なーんて、本当に二次元に生息するような完璧超人な王様または王子様が出てくるなんて事は――――
「陛下、花嫁様をお連れいたしました」
老婆の声とともに開け放たれた扉。
恐らく扉の向こうは外なのだろう。強い光と熱風が一気に室内に流れ込んで来た。
眩い光の中に佇むのは、恐らく私を娶ろうとしているであろう「陛下」。
身にまとった衣装の色は、私のドレスと同じ、赤。
ただ無造作に立っているだけに見えるのに、王者の風格というか、何というか、凄く威厳がある。
逆光によって細部ははっきりしないが……
燃えるような真っ赤な髪も、褐色の肌も、彫の深い顔立ちも、適度に引き締まった体つきも、全部
ド ス ト ラ イ ク !
――――あった。
あったよ! まさかのイケメンキタコレ!
待て待て、落ち着け。逆光補正で格好良さげに見えてるだけかもしれん。
思い出せ。逆光でギターかき鳴らしているアーティストに『格好ええええ!』って胸キュンした直後、明るいところでの映像に切り替わった瞬間に『あれ?』ってなった事あったろ。あれだ。光の魔法ってやつだ。
「良く来てくれた。さあ、こちらへ」
力強くも優しさを感じさせる絶妙な力加減で手を引かれ、光の中へ。
強すぎる光に負け、ぎゅっと目を瞑った私の耳に、わぁっと盛大な歓声が飛び込んできた。
思わずびくりと体を跳ねさせれば、クスリと笑い声が降って来る。
何とも言えない羞恥心を感じつつ見上げた先には。
髪と同じく真赤な瞳を細め、悪戯っぽく微笑む美形が居た。
はい。明るいところで見ても、まごうことなきイケメンでした。
あ、やばい、惚れそう。
あれ? 良いのか? この人に嫁入りするんなら、むしろ惚れた方が良いのか?
今まさに、私が恋に落ちようとした、その時。
くるるるるるるる……!
まるでそれを咎めるかのように、甲高く、澄んだ音が響き渡った。
何事かと顔を向け、目に飛び込んできたその存在に、息を飲む。
竜だ!
燃えるような赤い鱗に、煌めく黄金の瞳の、ドラゴンですよ!
ありきたりな表現になっちゃったけど、じっさい鱗の一枚一枚の中に揺らめく炎が見えるからまさに燃えてるようだし、瞳孔が伸縮するたんびに光が散って本当に煌めいてるんだよ! 比喩じゃなく!
見えているのは頭だけだが、その頭だけでも私の身長の二倍はある。
頭だけしか見えないのは、今私が立ってる場所が竜の首あたりの高さにあるからだ。
どうやらバルコニ―的な部分に居るらしいと、そこで気付いた。
「友よ」
竜を友と呼び、その鼻先に手を添え微笑む「陛下」。
くうううう竜に寄り添うイケメン! イイよ! すごくイイ!
ああ、これが私の旦那様になるなんて――
「良かったな、ようやくお前の花嫁が来てくれたぞ」
―― お 前 の ?
花畑状態の思考が、ぴしりと凍りついた。
嬉しげに竜を撫でる「陛下」。
黄金の瞳に私を映し、酷く満足げに喉を鳴らす竜。
ああ、うん。花嫁って……
こっちのか!




