第2章 再会 ― 風のような声 ―
柊と環とともに訪れた、凪くんの実家・凪メディカルクリニック。
そこに待っていたのは、想像を超えるスケールと、懐かしい空気。
外来フロアの空気は、思ったよりも静かだった。
白と淡いブルーの光に包まれた空間に、
どこか潮の香りを含んだ風が、ゆるやかに流れていた。
環は案内板の前で立ち止まり、目を細める。
「……明るいですね。病院って、こんなに穏やかな場所なんだ。」
凪が少し笑う。
「父さんの方針なんです。
“治療だけの場所にはしたくない”って。
この辺り、母さんが設計に関わった部分もあるんですよ。」
そのとき、背後からやわらかな声が響いた。
「――陽翔くん?」
凪は振り返り、目を見開いた。
そこには白衣をまとった女性が立っていた。
落ち着いたまなざしに、どこか懐かしさを宿した微笑み。
「……村中先生。」
澪は軽く頷き、穏やかに笑った。
「まぁ、覚えていてくれたのね。もう何年ぶりかしら。」
「10年……いえ、もっとかもしれません。
先生、全然変わってないです。」
「あなたこそ。お母さんに似てきたわ。
目の奥が、同じ光をしてる。」
凪は少し照れたように視線を逸らす。
その表情に、環は小さく息をのんだ。
“お母さん”という言葉が出た瞬間、
彼の中の空気が、ほんの少しだけやわらいだ気がした。
柊が軽く会釈をする。
「はじめまして。アークシステムズの如月です。
今回はご依頼ありがとうございます。」
「あなたが柊くんね。噂は陽翔くんから聞いてるわ。
そして……あなたが環さんね?」
「はい。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。
お母さん――美鈴先生がね。
“病院のシステムも、いつか心を運べる道具になればいい”って、よく話していたの。
あなたたちが来てくれて、
あの人もきっと喜んでると思うわ。」
凪は少し俯き、静かに頷いた。
「……そう言ってもらえると、うれしいです。」
澪は腕時計をちらりと見て、柔らかく言った。
「お兄さんたち、もうすぐ医局に戻ると思う。
その前に、少しだけ屋上を見ていく?」
「屋上……ですか?」
「ええ。あなたのお母さんが一番好きだった場所。
患者さんやスタッフをよく連れて行ってね、
“ここなら風が優しい”って言ってたの。」
凪は小さく息を吸い、頷いた。
「……行きます。」
澪の背を追って歩き出す。
外来フロアの奥、光の差す階段の先に、
微かに潮の香りを運ぶ風が吹き抜けていた。
その風は――どこか、懐かしい声のように聞こえた。
“人を治すことはできても、癒すのは人の心だけ”
その言葉に込められた想いが、凪くんの原点を静かに照らす。
家族の時間が、少しずつ動き出す。




