エピローグ 風の記録 ― ありがとうの場所 ―
全てが終わったあと、凪くんは再び屋上へ。
風と光と香りが、あの日と同じように包み込む。
午後の陽射しが、やさしく屋上を包んでいた。
風に揺れるハーブの香りが、どこか懐かしい。
“美鈴ガーデン”のプレートのそばに立つ凪は、
静かに空を見上げた。
遠くに見える海が、光を反射してきらめいている。
手すりの向こうには、季節を告げる白い雲。
――その全部が、母と過ごした記憶と重なって見えた。
「母さん。
“ありがとうが響く場所”を、ようやく作れたよ。」
風がひとすじ、頬をなでていった。
まるで「聞いているよ」とでも言うように。
「失敗もあったけど……
でもね、母さんの声があったから最後まで進めた。
父さんも、兄さんたちも、少しずつ笑ってる。
病院の空気が、ほんの少しあたたかくなったよ。」
柊と環が屋上の入り口に姿を見せる。
環が手を振りながら言った。
「凪くん、風が気持ちいいですね。」
凪は振り返って笑った。
「はい。……まるで母さんが吹かせてるみたいです。」
「だったら、あとはもう心配いらないな。」
「はい。
僕の中で、ちゃんと“風”が流れていますから。」
3人で並んでベンチに腰を下ろす。
屋上の隅で、風鈴が小さく鳴った。
「……なんだか、ぽかぽかですね。」
「そうだな。
やっぱりこのチームは、風通しがいい。」
凪は微笑んで空を見上げた。
「母さんの“支え合う心”が、ここまで届いたんですね。」
陽光が、3人の肩をやさしく照らす。
その光の中で、凪は静かに目を閉じた。
――データの中の声も、風の中の想いも、
全部、今につながっている。
遠くで誰かが笑う声がした。
たぶんそれは、あの“voice_log”の中の笑顔のひとつ。
凪は胸の奥で、もう一度そっとつぶやいた。
>「ありがとう、母さん。」
風が吹いた。
ぽかぽかとあたたかく、
それは“記録”ではなく“生きている声”のように、
彼の頬を撫でていった。
――そして物語は、静かに次の季節へと進化していく。
「ありがとう、母さん。」
その一言が、すべてのシステムをやさしく再起動させた。
――風は続く。ぽかぽかと、あたたかく。




