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何でも知ってる石井さん(下)

すみませんとしか……

昨日、メグに告白された。


「ヒロ君、ずっと好きだったの。付き合って下さい」

「……ごめん、今までメグの事、友達としか見て無かったから……」


そう言ってくれたメグだったけど、僕はメグの事を友達だと思っていた。話も趣味も合う、親友見たいに思ってたんだ。

正直にその事を告げると、メグはあっさりと返事を返してきた。


「知ってる」


そこからは僕の好みの女性を聞いてきた。少し泣かれるんじゃないかなんて身構えていた僕を置いてたくさんの質問をしてくるメグに呆気に取られてしまった。


「好きな髪」

「好きな服」

「好きな話し方」

「好きな仕草」

「好きな…好きな…好きな…」


正直、どれほど質問されたか覚えきれなかったし、なんども同じ質問をされたような気がしてとても疲れた。女の子の告白を断ってしまったという負い目がある僕は正直に答え続けた。


「うん。全部そうする」


僕にはメグの言っている意味が分からなかった。僕を見つめるメグの目が、何だか黒々として呑み込まれるようだった。


「だから、オタメシで良いから、付き合ってみてよ? なんでもするし、なんでもさせてあげるから」

「なんでも?」


嬉しい気持ち、怖い気持ち。頭がこんがらがって、まるで熱でも出てるんじゃないだろうか?


「そう、なんでも」


メグが自身の唇を舐める。チロリと覗いたそのピンクの舌が艶めかしく、僕を激しく動転させる。


「オタメシだから、何をさせてもしてもいいけど、やっぱりダメでも文句、言わないよ?」

「そんな……そんな不義理な事、出来ないよ」


そう言って抵抗してみようとするポーズを僕は取って見せるけれど、答えはきっとメグには分かっているんだろう。それはとても魅力的な誘惑だった。


「……ヒロ君は優しいから大丈夫だよ」


何が大丈夫か分からないけれど、熱に浮かされたようになってしまった僕は一つ生唾を呑み込んで、コクリとうなずいてしまっていた。



本当に何でもしてくれる。

メグの提案を受け入れた次の日、彼女はすっかり変わった見た目で僕の前に現れた。

真っ黒な髪を頭の下の方で一つくくりにしていた髪は、すっかり明るい栗色のカールがかったものになり、

校則通りだった制服の着こなしも、いまどきっぽい少し着崩した形にと変わっていた。少しメイクも施され、正直メグはこんなに可愛かったのかと驚いてしまった。ちょっとおしゃれしてる女の子の方が僕の好みなんだよね。


「どう? アタシ可愛い? 他に直すところがあったらすぐ言ってね? 何でもさせたい事が有ったら言ってよ?」


話し方までくだけた物にと変貌していた。まるで昨日まで居たメグが完全に別物に代わってしまったようだった。


「はははっ……じゃあ、足でも舐めてよ」


冗談だった。そんな事をする訳ないって思ってたし。


「うん、分かった。靴の上から? 裸足になる?」


それなのにメグは、すぐさま僕の足元に跪いたんだ。上目づかいで僕を見上げて。昨日まできっちり閉められていたシャツのボタンが二つ目まで開けられていて、チラリとのぞく下着は薄いピンクだった。


「ご、ごめんっ! 冗談だよっ! 立って! すぐ!」

「? じゃあ立つね?」


不思議そうに僕を見ながら立ちあがるメグ。本当に?本当に何でもするつもり?



今日は珍しく、メグと一緒じゃない。どうしても外せない用事があるらしく、申し訳なさそうに先に帰っていった。久しぶりに友人とでも遊ぼうかと思ったが、何だかメグに悪い気がして真っ直ぐ家に帰る事にした。

別れる前にメグに甘えられたので、少し可愛がった記憶と共に帰ろう。


家に戻ると、どうやら来客がいるらしかった。母親の笑い声が玄関まで聞こえてきた。ずいぶん盛り上がってるね?


「あら、ヒロおかえり。こんなかわいい彼女がいるなんて、早く教えてくれたら良かったのに」

「ヒロ君おかえりなさい」


リビングに入ると母と談笑していたのはメグだった。


「ヒロ君って靴履くとき、絶対右から履くんですよ」

「癖なのかしら?」

「この間も一人で………テストの点が………」


母はアラアラと楽しそうだ。でも僕はテストの点をメグに教えた事は無いし、聞かれた事も無い。一人でいった場所の話だってしてないよ?


ハッと気付くとメグがあの黒い目で僕を見つめている。ああ、まるで黒い穴を覗いているようだ。


「ホントにヒロはメグちゃんがいて良かったわね?」

「え? あ、うん」

「大丈夫ですよ、お義母さん。しっかり見てますから」


メグと母が笑いあっている。



メグが僕のやりたいことを受けとめてくれた後の事だった。


「ヒロ君、この間、女と楽しそうに話してたよね?」

「あ、うん。委員会の連絡が有ったから……」

「……ふーん。あんまり嬉しくないな……」

「もちろん必要な時以外は話してないよ」


最近はメグさえいればいいんじゃないかとさえ思ってきた。


「この間、一人で帰らせた時、家に着くのが二十分遅かったよね?」

「ゴメンね。立ち読みしてた」


なんで知ってるのか疲れた頭では思いつかないけど、ゴメンね。


「気をつけてね?」

「わかってるよ」



「ちゃんとアドレス整理してヒロ君は偉いね」


メグのやりたいことを手伝わせてもらった後の事。ぼおっとしていた僕の耳元で囁くように褒められた。別に報告しなくたって、メグにはお見通しだね。


「うん。もうスマホには、メグのアドレスしか入ってないよ」

「必要ないもんね?」

「そうだね。なんで今まで入ってたんだろうね?」


本当に不思議だ。僕にはメグがいればいいのに。普通、誰かと会ったり話したりするヒマが有るならメグと過ごすよね?


「メグとずっと一緒に居たいな」

「もう少ししたら準備完了するから、少しだけ待ってね?」

「少し待てばいいんだね?」

「フフフ……後少しでお片付けが終わるからね」


さすがメグだなあ。僕のやりたいことを先回りしてまでやってくれるんだもの。メグがいれば他に何もいらないってメグが言ってたけど、メグがいれば他に何もいらないね。

ハートフルだと思って頂けましたら、感想等よろしくお願いいたします。

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