22.再会
「ここよ」
清香の部屋で決断を下した後、彼女に案内されて行人はとある場所にやってきた。そこは、
「ホテル?」
「ええ」
行人の隣に立っている清香が頷く。そこは、地元でも割と大きめな一軒のホテルだった。
「さ、行きましょ」
清香はそう言うと、ホテルに向かって歩き出した。
「……」
行人はその後を何も言わずについていった。その顔は固く、苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。
ホテルに入った二人はとあるフロアで降りた。そして、そのまま清香の先導で歩を進めると、程なくとある部屋の前に辿り着く。
「ここよ。話は通してあるから」
「……」
後ろを振り返り固い表情の行人を一瞥すると、清香はドアをノックした。
『はい』
程なくして、中から返事が返ってくる。
「堀です」
『……』
少し時間を置いて、施錠が解除されてドアが開いた。中から顔を出したのは、六人の中で一番上の咲耶だった。咲耶は清香を見るとペコリと頭を下げる。そして奥にいる行人に顔を向けた。
(ん?)
行人はその咲耶の表情にちょっとした違和感を感じた。それが何かを考えたが、すぐにあることに思い至る。
(怒気が…ない?)
そう、それが違和感の正体だった。今の咲耶の表情からは怒りの感情が見受けられないのだ。
無論、日を置いたということで怒りが収まったという可能性がないわけでもないが、それでも今日ここで再会する前の最後、【寄生虫】呼ばわりしたときにあれほどの怒気を纏っていたとは思えないほど今日の咲耶は落ち着いていた。
(落ち着いた…と言うよりは、端的に言えば元気がないと言うか暗い?)
今の咲耶を表現するにはそれがピッタリの言葉のように行人には思えた。確かに以前のような明るさは影を潜め、同一人物かと思えるほど暗かったのである。
「どうも…」
行人に顔を向けた咲耶が、清香にしたのと同じようにペコリと頭を下げた。
「あー…うん」
どう返したらいいかわからず、とりあえず行人も無難な返事に終始する。
「入れてもらえる?」
「あ、はい」
取り敢えずお互いに挨拶が終わったところで清香が切り出すと、咲耶もそれに同意して半開き状態だったドアを開けた。
「どうぞ」
身体をずらして道を開け、二人を中へと進める。
「ありがと」
「……」
清香の後を無言で行人が続く。無言なのは別に無視をしているわけではなく、何を話していいかわからなかったからだ。だがそれは咲耶も同じだったようで、嫌味や愚痴や恨み言を言うでもなく、ドアをロックして二人の後に続いたのだった。そしてすぐに三人は奥に辿り着く。
そこには、咲耶を除く残りの五人が緊張した面持ちでそれぞれ寛いでいた。が、
『お兄ちゃん!』
行人の姿を見た途端、走り寄ってくる二つの人影があった。そしてその人影は、ほぼ同時に行人の脚にしがみつく。
「っと!」
余り宜しくない精神状態に加えて不意を突かれたこともあり行人はよろめいたが、何とか倒れずに済んだ。もっとも、
「大丈夫ですか?」
行人がバランスを崩しかけたのを見て、慌てて後ろから支えた咲耶のおかげでもあるが。
「ああ。ありがとう」
「あ、いえ…」
背後の咲耶に礼を言うと、行人は足元に視線を向ける。そこには、茅乃と宮乃の姿があった。
「お前たち…」
その姿…というか、二人がしがみついていることに行人は驚きを隠せなかった。ここで再会する前の最後、二人は行人に罵声を浴びせて泣きながら人ごみに走っていったからである。あんな、言ってしまえば最悪な別れ方をしただけに、再会してこんな態度を取られるとは思っていなかったのだ。
その間も泣きながら、二人は行人の脚にしがみついて離さない。
「いい子にするから!」
「お勉強もお家のお手伝いもいっぱいするから!」
『だから、あの家に帰さないでぇ…』
流石と言うか何と言うか、二人はそこで声を合わせて一層泣き始めてしまった。




