サーナ、クレメンスの館に到着する
「素敵なとこ!!」
サーナはクレメンスの館に到着するや否や、大興奮したように両拳を握って叫んだ。
ロジーナは突然のサーナの大声に驚き、一瞬怯んだが、すぐに気を取りなおして微笑んだ。
「クレメンス先生、初めまして。グリンテル門下のサーナです。よろしくお願いいたします」
出迎えたクレメンスに向かって、サーナは礼儀正しく挨拶をした。クレメンスは優しく微笑みながら頷くと、ルーカスを紹介した。
アリアは挨拶と自己紹介を交わす間が待ちきれない様子で、落ち着きなくそわそわと身体を揺らしていたが、一通りの挨拶が終わると、
「サーナちゃん。案内してあげる」
と、サーナの腕を引っ張るようにして、自分の部屋へと誘っていった。
「ほんと、落ち着きないんだから……」
アリア達の後ろ姿を眺めながら苦笑するロジーナを、クレメンスは「フフフ」と笑いながら眺めていた。
***
アリアの部屋についたサーナは、飛びつくように窓へと移動すると、アリアに断って窓を開けた。
軽く目をつぶり、窓の外に向かって両手を大きく広げ、
「お友達がたくさんっ」
と、うっとりした声で感嘆のため息を漏らした。
「お友達って?」
アリアの問いにサーナは満面の笑みを浮かべながら振り向いた。
「動物さんたちです。ここは私のところにはいない種類のお友達がたくさんいます」
目を輝かせ軽く顔を上気させながらサーナは再び窓の方に向くと、上半身を窓から乗り出し、外の空気を味わうかのように空気をいっぱいに吸い込んだ。
アリアはそんなサーナの背中をしばらく眺めていたが、ふとロジーナの言葉を思い出し、
「ねぇ、サーナちゃん。村を案内しようか?」
と、提案した。
「いいんですか!! 」
サーナは飛びつくように振り向いた。
「うん」
アリアはサーナのテンションに少し気後れしつつもニッコリ微笑んだ。
*****
「ただいまぁ~」
「お帰りなさい」
心なしかゲッソリした様子のアリアと、それとは対照的なニコニコ顔のサーナに、ロジーナは首をひねった。
アリアは無言で、少しヨロヨロと自室へと歩きだす。サーナはロジーナに向かってニッコリとお辞儀をすると、
「この村はとても素敵です」
と、言って軽い足取りでアリアの後をついて行こうとした。その後ろ姿をなんとはなしに眺めていたロジーナだったが、サーナの足元をみた途端、
「ちょ、ちょっと、サーナちゃん」
と、慌てて引き止めた。
「あなた、泥だらけじゃない! 靴はどうしたの?」
サーナの足元は、まるで沼にでもハマったようにドロドロだった。しかも、靴は片方しか履いていない。よく見れば、足元だけではなく、サーナの服はところどころに泥がこびりついていた。廊下には、サーナの足跡がくっきりとついている。
「ああ、サーナちゃん。お外で待っててっていったのに……」
ロジーナが声に振り向くと、タオルを持ったアリアが泣きそうな顔で立っていた。
「とりあえず、お風呂、お風呂」
これ以上廊下を汚されてはたまらない。
ロジーナはニコニコ顔のままキョトンとしてるサーナを持ち上げると、猛スピードで風呂場へ移動させた。
***
「アリア、何があったの?」
サーナを強制的に風呂に追いやったロジーナは、サーナの着替えを持ってきたアリアに尋ねた。
「サーナちゃん、急に『お友達っ』って言ってタデタ沼に……」
「え? まさか、入ったの?」
アリアは眉間にシワを寄せながら大きく肯いた。
タデタ沼は村の外れにある底なし沼だ。見た目は静かに澄んだ湖にみえるが、まかり間違ってハマってしまったら抜け出すことは容易ではない。たまに観光客がハマって大騒ぎになる。村人は絶対に近寄らない沼だった。
「よく無事で……」
「徳丸屋さんが助けてくれて……」
徳丸屋は村一番の大きな温泉宿で、そこの主は気さくで世話好きな人だ。徳丸屋や仕事柄もあり、よく沼にハマった観光客を救出していた。
「後でお礼に行かなきゃ……」
もしかしたらサーナは、ロジーナが思っていたようなしっかり者ではなく、とんだ問題児なのかもしれない。
ロジーナはサーナのニコニコ顔を思い浮かべ、軽くため息をついた。




