ツツジのなかで 後編
ルーカスとコーネリアは無言でツツジの中を歩いていた。
コーネリアはうつむきながらも、こっそりルーカスを盗み見る。
ずっとドキドキしっぱなしだった。
なんだかさっきからおかしい。
違う。
朝からずっと。
違う。もっと前から。
上級魔術師試験の時から?
違う違う。
もっと、もっと前から……。
コーネリアは思わず足を止めた。
「どうかなさいましたか?」
ルーカスは立ち止ると、心配そうにコーネリアを覗き込んだ。
「なんでもありません」
コーネリアは首を左右に振った。
「大丈夫ですよ。すぐに合流できますよ」
ルーカスはそう言って微笑んだ。
コーネリアはルーカスの優しい微笑みに引き込まれそうになり、ハッとしてうつむいた。
好き。
そう、好きなんだ。
ルーカスのことが好き。
そう気がついたとたん、胸がキュッとしめつけられ、コーネリアは片手で胸をおさえ、浅い息をはいた。
「ご気分でも悪いんですか?」
ルーカスの心配する優しい声に、コーネリアはうつむいたまま無言で首を左右にふった。
恥ずかしくて、胸が苦しくて、何も言えなかった。
「すみません」
ルーカスの沈んだ声がした。
コーネリアは驚いて顔をあげた。
「僕がもっとしっかりしてれば……」
ルーカスは沈痛な面持ちで視線を落とす。
二人の手が離れる。
「不安な思いをさせてしまってすみません。僕って本当に頼りないですね……」
ルーカスは苦しげなため息をついた。
「そんなことない」
コーネリアはフルフルと首を左右にふった。
「すごく頼もしいよ……。ルーカス君がいなかったら、私、私……」
コーネリアは両手で胸をギュッとおさえ、切ない吐息を漏らす。
「……好きなの」
コーネリアはあえぐように言った。
「私、あなたのことが好き」
コーネリアは瞳を震わせながら、じっとルーカスを見つめる。
ルーカスは驚きで目を見開いた。
「コーネリア先生……」
ルーカスは熱に浮かされたようにコーネリアを見つめ、かすれた声でつぶやいた。
二人はしばらく無言で見つめ合った。
「僕、ずっと、ずっと先生のことが好きでした。ずっと前から……」
ルーカスは静かに語り出した。
「先生は覚えてらっしゃらないでしょうが、僕がエルナンド先生に破門されたとき……」
「覚えてるよ」
コーネリアはポツリと言った。
「あの時のルーカス君、とっても悲しそうだった」
コーネリアは瞳を潤ませる。
「僕、あの時、先生の笑顔に救われたんです。もしあの時、先生じゃなかったら、僕、きっと……」
ルーカスはうつむき、すぐに顔をあげた。
「僕、まだ上魔になったばかりで先生には遠く及びません。でも、一生懸命修行します。僕と付き合っていただけませんか?」
ルーカスは真剣なまなざしでコーネリアを見つめる。
「嬉しい。ルーカス君、よろしくお願いします」
コーネリアは真っ赤になって微笑みながらペコリとお辞儀をした。
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さっきから、アリアはそわそわしながら、ツツジの前でルーカスとコーネリアが消えていった先をみている。
「アリア。そのうち戻ってくるから、いいの」
ロジーナはつかつかと近寄るとアリアの腕を掴んで、ツツジから引きはがした。
アリアはロジーナに引かれて歩きながらも、顔はツツジの向こうをを凝視していたが、すぐに観念したように、大人しくロジーナに従っていた。
ロジーナは気を緩めてアリアから手を離した。
一、二歩ばかりそのまま進んだアリアだったが、突然、サッと身を翻すと、ツツジの中に一目散に駆けて行った。
「あ、こらっ」
ロジーナは慌てて後を追う。
アリアを捕まえようと手を伸ばしたが、道が曲がりくねっていたために、すんでのところで逃げられてしまった。
「アリア。待ちなさい!」
怒鳴りながらも、ロジーナは内心舌を巻いていた。
整備された道とはいえ山道だ。
アリアはスピードを落とす気配もなく、全力疾走している。
アリアの体力は以前と比べ見違えるように向上した。
やはり朝練をさせることにして正解だった。
前を走るアリアが急停止した。
アリアにぶつかりそうになったロジーナは、文句をつけようと口を開いた。
「あぶな……」
言いかけたロジーナの目に、見つめ合うコーネリアとルーカスの姿が映る。
二人は怪訝な様子でゆっくりと顔をこちらに向ける。
「ご機嫌よう」
ロジーナはにこやかな作り笑いを浮かべると、うっとりと二人を眺めているアリアの首根っこを掴み、ずるずると引きずりながら、もと来た道を引き返えしていった。




