ロジーナ、つつじを見に行く
ロジーナの住む村から少し山を下りたところに、ツツジの群生地がある。
ヤマツツジやレンゲツツジ、ミツバツツジなどが元々は自生していたのだが、そこに村人たちが手入れをして、知る人ぞ知るツツジの名所となっていた。
ロジーナは毎年クレメンスとともにツツジを見に行っていたが、今年はアリアとルーカス、そしてコーネリアを誘って行くことにした。
村からは、すこし傾斜が急な山道を下って行く。
向こうの岩場にはヤシオツツジも見ることができ、ツツジ三昧のハイキングが楽しめた。
一時間半ほど歩き、一行は目的の通称『つつじヶ原』に到着した。
この辺りは、霧が良く発生する場所で、この日も薄靄がかかっていた。
しかし、『つつじヶ原』は傾斜もほとんどなく、道もそれなりに整備されていたので、多少視界が悪くてもそんなに心配するような場所ではなかった。
「うわぁ」
アリアは一目散にツツジの中に駆け込んで行った。
ツツジはアリアの背丈よりも高く、狭い道に左右から押し寄せてきていて、まるでトンネルのようだ。
「きれい」
アリアは左右をキョロキョロ見回した。
朱色からオレンジ色、紫色の花は薄靄の中で蛍光色のようにも見えた。
アリアは夢中でツツジのトンネルの中を進んでいく。
不意に横から腕を掴まれ引っ張られた。
思わず声を出そうとしたアリアの口を、誰かが後ろから手をまわしておさえた。
「しぃー」
耳元で声がした。
アリアは視線をキョロキョロと動かした。
口の前で人差し指をたて「しーっ」としているクレメンスの姿が目に入った。
アリアはホッとして、クレメンスを見ながら頷いた。
アリアの口をおさえていた手が緩む。
振り向くとロジーナがニッコリしながら立っていた。
「お師……」
アリアの唇をロジーナの人差し指がおさえた。
ロジーナは「静かに」と声を出さずに言った。
アリアは頷き、小首をかしげた。
「アリアちゃ~ん」
コーネリアの声がすぐ近くでする。
振り向いたアリアの腕をロジーナが掴んだ。
アリアはロジーナの顔を不思議そうに見る。
ロジーナは「ダメ」とでも言うように、首を左右に振った。
アリアは再び、今度はゆっくりと声のした方をのぞき見た。
ツツジと薄靄の向こうに、ルーカスが歩いていく姿が見えた。
アリアは振り返り、ロジーナとクレメンスの方を見る。
二人とも楽しそうにニコニコしている。
意図に気がついたアリアは、満面の笑みを浮かべる。
クレメンスは目で頷くと、くるりと向きを変え歩き出した。
アリアもロジーナに促されて後に続いた。




