アリア、飛ぶ
クレメンスは何かを唱えながら指先を動かし、アリアの方を向いた。
指先に現れた魔力の塊をアリアに向かってひと吹きする。
魔力の塊はアリアにぶつかるとパンと弾け、一瞬輝いた。
アリアの全身が淡い光に包まれ、アリアの足元が地面を離れる。
「ふぇっ」
突然の浮遊感に、アリアは驚いて木の枝を握った。
「体内の魔力の流れを行きたい方向に動かせば、自由自在に飛べるはずだ」
クレメンスの言葉に、アリアは魔力を上に動かしてみる。
ふわぁっと身体が上昇した。
「ほんとだぁ」
アリアは嬉しくなって、いろいろな方向に動いてみる。
「アリアさん、上手ですね」
ルーカスは軽く旋回した。
アリアも真似してみる。
結構難しい。
アリアは何度も挑戦してみる。
と、崖の方から強い風がアリアに向かってふいてきた。
「きゃっ」
「アリアさん」
風に飛ばされそうになったアリアの腕を、ルーカスが慌てて掴む。
「すみません」
「いえいえ」
しゅんとするアリアにルーカスはにっこりと笑いかけた。
クレメンスはそんな二人の様子を眺めていたが、ふと思いついたように自身にも飛翔の術使った。
「ルーカス殿、アリアを頼みます」
そう言い残し、崖の向こうへ消えて行った。
ほどなくして、クレメンスは戻ってきた。
「もう安全です。さっそく仕事にとりかかりましょう」
クレメンスの言葉にルーカスは頷くと、背負い籠を崖のすぐ近くに移動した。
「心配はいらない。しばらくは風が吹いてくることはない」
その場から動こうとしないアリアに向かってクレメンスが言った。
「本当ですか?」
「本当だ。結界を張っておいた」
アリアは崖の縁まで行き、恐る恐る下を覗いた。
先に降りていたルーカスの姿が見える。
ルーカスはアリアに気がつくと、持っていた青い花を掲げて指さした。
「この花を摘んでください」
アリアは頷くと崖の下に降りようと、視線を動かした。
崖の下は霞んでいて、底が見えない。
もしも、操作に失敗して落ちたら……。
アリアは行こう、行こうと思いながらも、なかなか決心がつかなかった。
ドン。
突然後ろから押された。
アリアは声も出せずに思いっきり空中にダイブする。
落ちる。
アリアは手足をばたつかせながら、必死に上にあがろうと意識した。
すぐに身体が急上昇する。
アリアはホッとすると振り返り、さっきまで自分のいた場所を確認する。
クレメンスが腕を組んで立っていた。
「旦那様ぁ、ひどいですぅぅ」
「ん?どうかしたのか?」
クレメンスはしれっとした顔で言うと、下の方に行ってしまった。
アリアはしばらくブツブツと文句を言っていたが、はっと我に返ると、ルーカスの近くへ行き、花を摘みはじめた。




