目的地に着く
突然、パッと視界が開けた。
明るい日差しの向こうに山々がみえる。
心地よい風が小さな花々を揺らしていた。
「うわぁ」
アリアは嬉しくなって駆けだそうとした。
ところが、後ろからクレメンスにリュックを掴まれて前に進めなかった。
「アリアさん、この先は崖になってますから気を付けてください」
ルーカスが振り向いて言った。
「崖?」
アリアがそう言った途端、前方から突風が吹いてきて、アリアの髪の毛を舞い上げた。
確かにこの先には何もないようにみえる。
アリアは急に怖くなって後退りした。
「ここが目的の場所ですか?」
クレメンスがルーカスに向かっていった。
「はい。あの崖の斜面に咲く白い茎の淡い青色の花をとってきていただきたいのです」
「状況を確認したいのですが」
「そうですね」
ルーカスはこくりと頷くと、背負い籠をおろした。
穏やかだった風が、また一瞬だけ強くなった。
「アリア。お前はここで待っていなさい」
クレメンスはそう言い残し、ルーカスと崖の方に向かった。
アリアは近くの木につかまっていた。
言われなくても、ここから動くつもりはなかった。
ルーカスとクレメンスが崖の下を覗いて何やら話し込んでいるようだった。
ときおり先ほどのような強い風が、崖の方から吹いてくる。
少しひんやりとした強い風は、アリアの恐怖心を駆り立てた。
飛ばされたら大変だ。
アリアは身体中に力を入れて踏ん張っていた。
しばらくすると、二人は何やら話しながら戻ってきた。
「飛翔の訓練は?」
「少しだけしましたが、見込みがないと言われました」
ルーカスはうつむき加減で言った。
「師に上魔は無理だと……」
「そうでしたか」
クレメンスは腕を組み何か考えているようだった。
アリアはそんな二人の様子を眺めていた。
なんだかとても深刻そうで、口を挟んではいけないような雰囲気だった。
クレメンスは視線を上げるとルーカスに言った。
「では、飛翔の術をやってみましょう」
「え?いや、できませんよ」
ルーカスは目を丸くして、顔の前で手を左右にふった。
「できるところまでで構いません。後は私がサポートします」
ルーカスの動きが止まった。
真剣な顔をしてクレメンスをじっと見る。
クレメンスは力づけるように頷いた。
「よろしくお願いします」
ルーカスは深々とお辞儀をした後、大きく深呼吸して呪文の詠唱に入った。
アリアは目を皿のようにして、ルーカスの様子をじっくりと眺めていた。
ロジーナとクレメンス以外の者が魔術を使うところを、こんなに間近でみることはほとんどない。
ロジーナもクレメンスも、訓練以外では瞬時に術を完成させてしまう。
見ていても、何が起こっているかも分からないうちに終わってしまうのだ。
だが、ルーカスはそうではない。
どんなふうに魔力を操作していくのか、アリアは興味津々だった。
ルーカスの魔力がどんどん凝縮していく。
普通の人間には分からないが、ある程度訓練された魔術師ならば、魔力の流れはまるでモノを見ているかのように感じることができる。
アリアはわくわくしながら眺めていた。
ルーカスは手際よく、廉廉をきっちり押さえ、確実に魔力を練り上げていく。
わりと大雑把なアリアとは大違いだ。
どうやったらあんな風にきっちりとできるのだろう。
いつかは自分も、あんな風にしっかりと操作できるようになりたい。
ルーカスの動きが鈍くなった。
どうやら、ルーカスができるのはそこまでのようだ。
クレメンスの魔力がルーカスの魔力を包み込む。
魔力が混ざり合い、凝縮し密度を増していく。
パンと魔力が弾け、ルーカスの身体が輝き、淡い光に包まれた。
ルーカスの目が見開かれる。
「よくやった」
「ありがとうございます」
ルーカスは顔を輝かせ、クレメンスに深々とお辞儀をした。
「ルーカスさん、すごい!!」
アリアは思わず拍手をしていた。




