ロジーナ、断念する
夜、アリアが食事を持っていくと、ロジーナはむくりと起き上がった。吐き気もおさまったらしく、だいぶ顔色がよくなっていた。
「アリア。ごめんね。明日の朝までには意地でも全快するから」
ロジーナは明日がアリアの初実習の日ということを忘れていなかったようだ。
クレメンスがため息をつく。
「その身体では無理だろ。明日の実習は私が付き添う」
「いいえ。私が行くわ。アリアの初めてのお仕事なのよ。大丈夫よ、ほら」
ロジーナはよろよろと立ち上がる。
「お師匠様……」
ロジーナはゆらゆら揺れながらアリアの方に来ようとする。アリアは両手を前にだし、こちらにやって来るロジーナを支えようとかまえた。
「アリアが戸惑ってるじゃないか」
クレメンスがロジーナをベッドに引き戻す。
「そんな状態のお前に、アリアは任せられない」
「でも……」
ロジーナは起き上がろうとする。
「お前はいい。だが、アリアに何かあったらどうするんだ。今のお前にアリアが守れるのか?」
ロジーナは無言でうつむいている。
「お師匠様。私は大丈夫です。旦那様が付き添ってくださいますし。私のことより、ご自分のお身体を大事になさってください」
「アリア」
ロジーナはアリアを見上げる。
「お師匠様に何かあったら、私……私……」
アリアの目にみるみる涙がたまる。
「アリア。泣かないで。ごめんね」
アリアはフルフルと首を振る。
「お師匠様。早く元気になってください」
ロジーナはこくりとうなづく。
「クレメンス。アリアをお願いね」
「わかった。アリア、明日は早い。今日はもう休みなさい」
「はい」
アリアはうなずくと、もう一度ロジーナの顔を見る。
「お師匠様。お大事にしてください」
アリアはペコリとお辞儀をすると、自分の部屋に帰って行った。
アリアが退出すると、ロジーナはぐったりと身を横たえた。
「ごめんなさい。迷惑かけて」
「遠慮などするな」
クレメンスはベッドに腰掛け、ロジーナの頭をクシャクシャとする。
「でも……」
「私はそんなに頼りがいのない男か?」
クレメンスはロジーナを覗き込むようにして言った。ロジーナは驚いてクレメンスの顔を見る。
「そんなわけないじゃない」
「ならば頼ってほしい。こんな時ぐらい素直に甘えてくれ」
クレメンスの真剣なまなざしにロジーナの心臓がトクンとなった。ロジーナは顔を赤らめて視線を落とす。
「たまにはカッコつけさせてくれ」
クレメンスはそう言うと微笑んだ。
「嘘。いつもカッコつけてるくせに……」
ロジーナはクスクスと笑いだす。
「ばれていたのか」
「ばれてたわよ」
二人は顔を見合わせクスクスと笑った。
クレメンスがゆっくりと立ち上がる。ロジーナはクレメンスの裾を引っ張った。
「ねぇ……。今夜はそばに居て……」
振り向いたクレメンスは破顔する。
「もちろん、そのつもりだ」
クレメンスはロジーナの額に優しく口付けをした。




