サーナ、花を摘む
クレメンスはサーナの気配を確かめながら歩いていた。
先ほどまで、足元にはクマザサが生い茂っていたが、この辺りはそびえ立つダケカンバの影響もあってか、足元はもっと背の低い小さな草が多く、地面がむき出しになっているところもあった。
クレメンスは、これまでもこの山には何度か来ていたが、ここまで奥へ足を踏み入れたことはなかった。
ときおり、涼しい風が木立を揺らし、小鳥の声も聞こえてくる。
「先生」
サーナが姿を現した。
「素敵なところを見つけました」
にっこりしながらそう言うと、斜面を登っていく。クレメンスは後に続いた。
斜面を登りきると、一気に視界が開けた。
明るい日差しに、クレメンスは辺りを見回した。
低木とクマザサに覆われた先に、向こうの山並みが見える。
どうやら山頂に到達したようだった。
「こっちです」
サーナに促され、低木の間を進む。
目の前に緩やかな緑の谷が広がった。
サーナは谷を軽い足取りで下っていく。
クレメンスはサーナの後をついていく。
小鳥の声や、小さな虫の羽音が聞こえ、さらさらと風が草をなでる。
谷底には草原が広がっていた。
色とりどりの小さな花々が咲き乱れ、蝶が舞っている。
クレメンスは立ち止まり、思わず感嘆の息をついた。
「アリアちゃんにも見せたいです」
サーナは景色を眺めながら言ったが、すぐに視線を落とした。
「でも、アリアちゃん、お山はあまり好きじゃないみたい」
沈んだ声を出す。
「そうだな。確かにこの景色は見せることはできない。だが、花を見せることはできるのではないかな?」
「お花……」
クレメンスの言葉に、サーナは思案するかのように視線をさまよわせていたが、すぐにはっとした様子で顔を上げ、
「花冠作ります。おそろいの!」
そう宣言した。
「名案だ」
クレメンスはにっこりと笑いかけた。
サーナは嬉しそうに瞳を輝かせると、花々を確認するかのように辺りを見回した。
花が群生しているところへ小走りで向かうと、しゃがんで花を摘み始めた。
クレメンスは一心不乱に花を摘んでいるサーナの隣にかがんだ。
「私も手伝おう」
「ありがとうございます!」
サーナは満面の笑みを浮かべた。




