その5
私は再度、中枢の部屋にたどり着き、前と同じようにゼロで椅子に座る。
<正規ユーザーの確認を完了……臨時ユーザー現在1名、Aキーとを所持した臨時ユーザーの死亡を確認しました>
「ええ、彼は死んだわ、それで、鍵はカグラ一人の分しかないけど、動いてくれる?」
<はい、正規ユーザーは最優先の権限があります、尤も、然るべき理由がなければ動きませんが>
「然るべき理由?」
<惑星内での紛争の激化による人類滅亡の危機、他宇宙からの侵略者の襲来等、現状の文明レベルでは太刀打ち出来ない事態です>
「……要するに、世界の危機って事ね……」
「私の国は常に存亡の危機だよ」
<そうですか、国家レベルの事態に干渉するとよくないですので傍観しますが>
カグラのぼやきを拾ったアーカイバが冷淡に返す。
「薄情な!」
<下手に紛争に加担しても本艦の本来の任務に差し支える可能性が非常に高いですので、ご了承ください>
「残念だったわね?」
カグラをおちょくるように私は言う。するとカグラは「おのれ……おのれぇ」と、怨嗟の声を上げだし、リチェットのため息が拡声器から聞こえた。
「さてと……それじゃあ、元居た場所より深い所に、全員出たら潜ってほしいけど、いい?」
<はい、解りました>
「ありがと……でもあなた、気づいてたでしょ」
<何をですか>
「アレン達がよからぬ理由で、船を起動させようとした事よ、歴史の説明とか言ってたけど……時間稼ぎじゃないの?」
私は怪しいと思っていた、このAIは自分の意思がある……だとしたら、目覚めが速すぎだと、自分で判断したのでは……?
<はい、起動に関して不審な点が多いので状況を判断してました>
「やっぱりね……それで、歴史の話はどこまでが本当なの?」
<想像にお任せします。ただ、私は嘘つきではありませんよ?>
そうAIは返す……まぁ、本当だとしても嘘だとしても、ぶっちゃけ今の私には関係ないわね。
だけど、妙に気になることがひとつ、いいえ2つだけあった。
「……文明の崩壊の原因、貴方はそのデータは本当に存在しないの?」
まずはこの点そこ、私の夢の中のイドリスさんは人死にを止めたかった。
でも、今の彼女はただの変な道具屋……星主と呼ばれた人と同一人物かはわからない、ひょっとしたらその人の子供や末裔なんだろうけど、同一人物と仮定するのなら、何か、彼女が今の世界を見ても手を出さない理由があるはずだと、私は思った。
そしてそれは、文明の絶頂期から今の世界に転換する所であったとも。
<すみません、私が知りたいぐらいです>
「……本当に?」
<本当です>
「そう……じゃあ、もうひとつ聞くけど……この施設、私が来る前に起動した時はあるの?」
そしてもうひとつはこれ。何でかしらないけど、敵はこの施設が戦艦だということも、鍵が必要だということも知っていた。
でもこの船は起動したことはなかったのだ。
<ありませんよ?>
予想通りの回答、だとすれば、この船についての古文書があったのかしら?それとも……彼らに情報を流した「何か」が動いている?
考えるだけで寒気がした。
「ありがと、なら、まず潜る前に着陸はできる?」
けど、それを口には出さない。戦いは終わった、不安感を与える言動は慎みたかった。
<できます>
「ありがとう、ならそうして頂戴。まだ私達はやる事があるから」
「そうですわね……友軍との連絡はとってますの?」
「ええ、今連絡を行うわ……こちらデルタのキャロル、来夏にフジオカ隊長?中枢は何とか私が占拠したけど……状況はどう?」
キャロルにせかされ、私は音声通信を行う。全滅してなきゃいいけど……
「こちらデルタの来夏、ええ、現状フジオカ隊長達が頑張ってますから、何とかなってます」
「こちらジ特のフジオカ、ああ、現在交戦中だ……数が多いな、助けに来てくれ」
フジオカ隊長は割と余裕げな感じの声で返す……でも、ジパング軍に借りをあげすぎるのもアレよね。
「了解っと……さてと、リチェット、すぐに向かうわよ?」
「ええ、解りましたわ……それで、この娘はどうしますの?」
「カグラの事?」
「ええ、先ほどから黙ってぶつぶつと思案しているみたいですが……」
何を考えてるのかしら……?とりあえず、変に逃げだされても困るし来夏と合流したら来夏に押し付けよう、うん。
「とりあえず考えてる事は御見通しだと言っておいて……さてと、行くわよ?」
こうして私は椅子から立ちあがり、また仲間と合流しようと足を進めた。
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