幕間
トシザネ・マエダは逆卍党、対米国支部の幹部である。
表の顔はジパング帝国の少将、マエダ家の党首である彼は、血縁の力でその位置に達した。
だが、血筋だけの男ではなかった、親の七光りという周囲の声を振り払うかのように、アジア戦線では愛用の蒸機鎧と共に、撃墜数80という戦果を挙げたのである。
そんな彼は鬱屈とした軍人としての日々を占領したチャイナ領で過ごしていた、だがある時本国に戻った時時、大集会を開き啓蒙活動を行う若い青年……
亜道飛虎に出会い、彼の庶民の出とは思えぬ程に広い視野と知識、様々な政界に通じ、組織を爆発的に拡大させる政治力、そして彼の魅力に感服し、自らも逆卍党の一員になり、彼らの軍事面での補佐を一緒に入党した将校数名と共に務め、今に至る。
逆卍党の持つ要塞島、トシザネは自室に仕事を終えてくつろいでいた。
トシザネの自室は床は畳、壁は木造の純和室であり、士族の部屋らしい、豪勢な雰囲気を持っている。
米国のラジオを聴き、座布団に座り緑茶を飲む。
ニュースからは、自分たちが防備の薄い軍事基地を襲撃し壊滅させたことや、輸送の為の飛空艇を落とし続けたニュースがよく流れ、それを聞く度にトシザネは満足げな笑みを浮かべる。
我ら日本民族を搾取しようとした、白人共が苦しんでいる。
我ら日本民族を裏切った、豊臣と、帝という名の傀儡とその部下共が嘆いている。
嗚呼、何と心地いい気分だ。
嗚呼、この世でもっとも美しい女を抱き、尤も強い敵を殺すより、はるかに充実した気分になれる。
そう、ニュースを聞き、破壊司令を与えるたびに、実感する。
ふと、そこで扉が開かれる。
「失礼します」扉を開いて来たのは青年、まだ若さが残る感じではあるがジパング男児と言った容貌を持った男だ。
名前はジント・タナカと言う、ジパングの軍人、それも諜報部の二重スパイだ。
ここにも潜入という名目で来たという事になっているが、実態はジパング本国からトシザネの情報を隠蔽し、また、ジパング本国から来た情報を自分たちに流してくれている。
最初は卓越した蒸機鎧の腕や、何を考えているか解らない冷淡さからトシザネはジントを疑っていたが、今ではすっかりと信頼をしていた。
「ジントか、なぁに、貴様と私の仲だ、別に堅苦しくなくても構わぬ」
だが、相変わらずその堅苦しい雰囲気だけは妙にしっくりこないと、トシザネは考えていた。
「自分を殺すのが仕事ですので、仕事病と言うものです」
「よく言う、欧米人の娘2人を囲っていると言うのに何が仕事病だ?」
トシザネはジントが、自分達が拉致した少女2人を自分の部屋にて囲っている事を知っていた、どうにもジントが潜伏した学校の娘らしいが、彼らに情が移ったわけでもないのか、たまに叫び声が聞こえる。
かと思えば狂った笑い声が聞こえるとも評判があり、実態はよくわからないものである。
「公私は混合しないもので」
照れた笑みをジントは浮かべる、彼が何を考えているかは解らない、だが、たまにどこか不信感をトシザネは彼に感じていた。
「良い心がけだ、だが、何の用できた?」
「ええ、この書類と、あとは……今、大幹部様の演説が後40分後に来るとの話で」
ジントはそう言いながら手に持った書類の入った封筒を渡す、そして大幹部……名前はカグラ・タケダ、ジパングの軍事財閥が王、タケダ財閥の若き総帥にして、逆卍党対アメリカ支部の大幹部だ。
トシザネは彼女がイマイチ気に入らなかった、若い少女そのもの、頭は切れると言われているが持ち上げられすぎなのでは?と感じていた。
総統が資産家である彼女を適当に大幹部に登用しているだけにしかすぎず、それに意味があると納得しつつも不満に思ったトシザネは自分の部下を用い、彼女が死んだ時に財閥が他の逆卍党の同志の手で管理できるように仕向けてはいる。
それは彼女が嫌いであるのと、彼女を何時殺しても問題の無い存在にするためである。
党内での出世欲や野心で殺すのではない、単に生理的に気に入らないのである。
高圧的な声、中身の無い総統の意見を移しただけの演説や理念、何もかもがトシザネの気に障るのだ。
だからここでくつろぎ、演説にしてもぐうたらと寝転がり、寝過ごしたと言い切ればいいだろうと考えていた。
ジントを見る、特に意図した悪意は感じられない、それに彼にカグラが嫌いだなどとは言ってはいない。
「ふむ……小娘の演説に付き合うのは面倒だ、眠って構わないか?」
だが嫌な物は嫌だ、それはハッキリと伝えようとトシザネは考え伝える。
「ダメです、トシザネ様は幹部ですのですぐに出てください」
しかしジントにはそんな事は知る由もなかった。
「やはり無理か」
仕事バカめ、そう内心で思いながら立ち上がり、すぐに正装に着替え、部屋から出て、集会場の裏側にある準備室に向かう。
準備室には黒髪の長髪が特徴的な小柄な13程度の美少女……カグラ・タケダが居た。
「遅いぞトシザネ」
カグラはトシザネを見るや否や、不満そうな声を出す。
嫌な女だ、そうトシザネは考える、無理やり犯し屈服させるのなら、さぞ充実できるだろうか、いや、それでは情が移る、なら嬲り、その高圧的な態度すべてを謝らせるのもいいか。
悶々とトシザネは妄想する。
「ふむ……君の耳はあるのか?」
「あるが、何か?」
しつこいと、内心でトシザネは思う。
「まったく……返事をするのならしてほしいぞ」
呆れ顔をカグラは浮かべる。
「まだ開始5分前ではない、なので遅れた訳ではないのでな?どうせ貴殿の隣に立ち演説を聴くだけだろう?」
帝国の軍人、それも将軍クラスが自分の補佐を勤める、それは権限の誇示に他ならないと、トシザネは考える。
「ああもう、そうではあるが君にはいろいろ話したいことがあると言っただろう?まったく君はこれだから困る」
「話したいことか」
大体しょうもない内容だろう、そうトシザネは思う。
「ああ、今後の米国支部だが……大規模襲撃を行った後、どうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、敵国首都を荒らし、敵の中枢軍事施設を占拠、そこから遺跡の「鍵」或いはそれに関する情報を手に入れ、その後遺跡に向かい「鍵」を使いある遺産を手に入れるだけだろう?」
解りきった事を言わせるなとトシザネは考えながら言う、また、トシザネは逆卍党の総統直々に言われたこの命令を、喩え命を賭しても遂行すべきだと考えていた。
総統の話によれば、その遺跡は2つの「鍵」で入口が開き、その奥には古代文明の超兵器が眠っており、かのアメリカの南北戦争すら、この「鍵」を南北どちらの勢力が独占するかの争いであったと語っている、そしてトシザネはその総統の話を、信じていた。
「だからその「鍵」をどうやって手に入れるかと言う問題があるであろう?」
「軍中枢への強襲による、情報収集が失敗したのなら情報屋や、西部の荒事師に金を積ませればいいだけだ……全く、その程度の頭も回らぬように見えたのか?」
少し悪態の一つも突きたくなる、その傲慢な態度と裏腹に小心者で臆病な子犬のような内面がカグラからは垣間見え、それがトシザネの加虐心を刺激している。
彼女を嫌いと思う心理、それは全て、彼女を独占したいという、愛情にも似た歪んだものでもあった。
尤も、それについてトシザネ自身は自覚などしてはない。
「いやまぁ済まぬ……しかしまぁなるほど、確かに長期的だが、それなら失敗したとしても本国に戻りつつ、調査は外部に委託できるな」
「……ああ、総統閣下が万一、11月革命に失敗したとしても、援護に回りつつ調査は続行できる」
11月……来月の8日、そこで逆卍党は停滞したジパング政府に反旗を翻す為のクーデターを行う、それについてはトシザネとは別の将兵が多数参加しており、無数の名贋作や真作鎧を投入しての大規模な戦闘になるであろうと自覚していた。
「そうだな……さて、そろそろ時間になる、ついてきてくれ」
そうカグラが言う、トシザネは時計を確認すると、大集会の時間を迎えていた。
トシザネとカグラは、足を進め、集会場に現れ、カグラは演説台の前に立つ。
カグラの目の先には、彼女の演説を聞こうと党員たちが集まっていた。
「さて諸君……白人は嫌いかね?あの肥え太り八百万の神を冒涜し宗教家ども、忌々しく人を人と思わぬ、インドやチャイナを侵略し、アジアを凌辱した資産家ども、それらを正当化する教育を受け育った民衆、私は全部嫌いだ」
「そして白人の国アメリカ、彼らも同罪だ……だがジパング政府は何をやった!?彼らが内紛を起こしているからと、北部の人間を支援し技術提供を行った上に、事実上の同盟関係を結んでいるではないか!これはジパングの信念である白人からの世界の解放への反逆を、政府が行っているに他ならない!」
「故に我々逆卍党は、それらの同盟を破壊し、ジパング国民を啓蒙するために欧米攻略の本格化を行おうではないか!目的は2つ!一つは先ほど言ったように米国の首都爆撃による、首都機能の破壊!そしてもう一つは米国に眠り、その力の為に幾らもの血を流したと謂われる「遺産」の確保!その2つは我らが総統、阿道飛虎様の名により承れた使命であると!」
両手を広げ、カグラは尊大な雰囲気を醸し出し宣言する。
「おお……おおおおおおおおっ!」
そしてその威圧感に呑まれた党員たちは熱狂する。
薄っぺらな、叫ぶだけの、総統を小娘が真似ただけ、そう、トシザネはその光景を見て感じていた。
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