第24話 世界で一番、君を愛してる
「ミレーユ! 結婚しよう! もう、絶対にミレーユを離さないからね!」
ミレーユが、歩行補助なしに一人で歩けるようになったある春の日。
レオンは涙目で彼女の手を両手で包み込み、大声で求婚した。
突然の叫びに驚いたものの、リンドン伯爵家の一同は大賛成だった。
ただし、厳格な父・ギルバート伯爵からは「己の力でミレーユさんを守る証として、騎士爵を得てみせろ」という条件が課される。
それからのレオンの怒涛の快進撃は、騎士団内でも語り草になるほどだった。
ミレーユに背中を押されて第一騎士団へ完全復帰を果たしたレオンは、狂気に近い執念で手柄を重ね、なんとわずか一年で見事に自力で騎士爵を勝ち取ってみせたのだ。
そうして半ば強引に、けれど、とびきりの情熱でレオンに押し切られる形で、二人は晴れて結ばれた。
レオン二十二歳、ミレーユ二十四歳。ミレーユもまた、大好きな街の診療所へと無事に職場復帰を果たしていた。
◇
二人の新婚生活は、かつて暮らした市井の小邸には戻らず、リンドン伯爵家の邸内にある日当たりの良い離れで始まった。これは、レオン自身が、ミレーユの浮気の記憶の残る場所へミレーユとの新婚生活を始めたくないとの思いからだった。
結婚して間もなく、ミレーユの体に新しい命が宿っていることが判明した日のこと。
「本当に!? ミレーユ……!? あぁっ、嬉しい……!」
歓喜に震えたレオンは、思わずミレーユの身体をふわりと抱き上げた。
「きゃっ! ダメよ、レオン! お腹の赤ちゃんがびっくりしてしまうでしょう!?」
「あっ! ごめんっ! ミレーユ、大丈夫だった!?」
慌ててミレーユを優しく床へ降ろすと、レオンはそのまま彼女の前にひざまずき、まだ平らなお腹に耳を当てて真剣に語りかけ始めた。
「赤ちゃん、びっくりさせてごめんね。お父さんだよ。お母さんを世界一愛しているお父さんだからね! あと、お母さんは、お父さんのものだからね。忘れないでね」
「ふふっ。もう、まだ何も聞こえないわよ、レオン」
愛おしそうにお腹にすり寄るレオンの頭を撫でながら、ミレーユは幸せいっぱいの笑みをこぼした。
◇
それから月日は流れ——。
かつて二十歳で小隊長だった甘えん坊の青年は、二十二歳で結婚し、三十歳となった現在は史上最年少で第一騎士団の『副団長』へと上り詰めていた。
そして現在。双子の男女にも恵まれ、一家の幸せは絶頂を迎えている。
「ただいま! ミレーユ、帰ったよ!」
屋敷の扉が開いた瞬間、レオンが真っ直ぐにミレーユのもとへと突き進んできた。
「おかえりなさい、レオン。今日もお疲れ様——んふっ」
出迎えたミレーユを迷わず力強い腕で抱きしめると、レオンは彼女の細い首筋に顔を埋め、クンクンと愛おしそうにその甘い匂いを嗅いだ。
「あー、ミレーユの匂いだ……一日の疲れが吹き飛ぶよ」
「ちょっと、レオン。子供たちの前よ……!」
「お父様ずるい! ママは僕たちのママだよ!」
「そうよ! お父様ばっかりママを一人占めしないで!」
七歳になった双子のルーカスとライラが、ぷくっと頬を膨らませてレオンの足元にポカポカと抗議の拳をぶつけてくる。しかし、レオンはミレーユを抱きしめたまま、余裕の笑みを浮かべて愛娘と愛息を見下ろした。
「甘いね、二人とも。ミレーユは君たちのママである前に、僕の最愛の奥さんなんだから譲りません。ほら、今日はもうお祖母様たちの部屋で遊んできなさい」
「「ええーっ!?」」
見事な手際で双子を本邸の伯爵夫妻の元へと送り出したレオンは、手早く汗を流し、着替えを済ませると、離れの寝室の鍵を閉め、ミレーユをベッドの上へと押し倒した。
「レオンったら……子供相手に対抗意識を燃やすなんて、相変わらず子供ね」
「ミレーユが可愛すぎるのが悪いんだよ。昼間ずっと我慢してたんだから、夜くらい僕だけに甘えさせて」
副団長としての凛々しい顔はどこへやら、ミレーユの胸元に顔をうずめてスリスリと甘える姿は、昔と何一つ変わらない。
「ずっと好きだよ、ミレーユ。僕の命も、心も、全部君のものだ」
「ええ……私も愛しているわ、レオン」
耳元で甘く囁かれ、何度も重ねられる熱い口づけに、ミレーユは熱い吐息を漏らしながらその背中にそっと腕を回す。
遠回りをしたけれど、今の自分たちは世界で一番幸せだ。
一途で甘えん坊な騎士様の腕の中で、ミレーユは深く、甘い夜の幸せに満たされていくのだった。
ハッピーエンド
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