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納期遅れで死んだ俺、異世界では魔力の詰まりが見えるらしい 〜最弱Eランクだけど、術式を読み替えて世界の流れを変えていく〜  作者: 好山 雪
第1章 月影の森で目覚める

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第13話 実証区の灯り

第13話 実証区の灯り


ラドム・ヴェイルは逃げた。


だが、荷車の底に残された言葉は消えない。


「実証区」「灯り小路」「ヴァルド・グレイム」。


灯りを売っただけだと笑った男の背後に、もっと大きな流れが見え始めます。

今回は、シュウたちがその濁った流れの入口を探す話です。

 アルメリア支部の奥にある小さな調査室は、昼間だというのに妙に薄暗かった。


 窓は開いている。風も入っている。だが、机の上に並べられた補助環のせいで、空気そのものが重くなっている気がした。


 黒ずんだ金属の輪。


 焦げた魔石。


 切れかけた封印紐。


 そして、荷車の底板に隠されていた一枚の荷札。


 そこには、かすれた文字でこう記されていた。


 ――実証区二番。灯り小路。納入確認済。


 リリア・フォルンは、その荷札を見下ろしながら、無言でペンを走らせていた。


 カリ、カリ、カリ。


 静かな音なのに、なぜか責められているように聞こえる。


「ラドム・ヴェイルの登録商人証は、三年前に失効しています」


 リリアが淡々と言った。


「失効?」


 セリアが眉をひそめる。


「はい。少なくとも正規の行商人としては、現在この街で商いをする資格はありません。にもかかわらず、南市の古道具市に出入りしていた。さらに、今回の補助環には正規工房の刻印がありません」


「つまり、完全に違法品ってこと?」


「違法品、もしくは、違法品として処理されても困らない品です」


 リリアの声は静かだった。


 だが、その静けさが一番怖い。


 ミラ・フォルネは机の端で補助環を分解していた。小さな工具を金属枠に当て、魔石の周囲を慎重に開いていく。


「……これ、ひどいわね」


 ミラが低くつぶやいた。


「何がだ?」


 俺が聞くと、ミラは補助環の内側を指先で示した。


「入口は普通。外から魔力を受ける部分だけ見れば、そこまで変な作りじゃない。でも変換部が削られてる。安く作るために、安定板を抜いてるのよ」


「安定板?」


「魔力の波をならす部品。本来なら、灯りを一定に保つために必要なもの。それがないから、流れが暴れる。しかも出口に戻り止めがない」


 ミラは補助環を机に置いた。


 乾いた音がした。


「これ、灯りを強くする道具じゃない。周囲の弱い魔力まで吸って、無理やり灯りに回す道具よ」


 セリアの顔色が変わった。


「それって、使ってる人に影響が出るってこと?」


「長時間使えばね。頭痛、吐き気、倦怠感。魔力が弱い人なら、もっとひどい」


 俺は拳を握った。


(貧しい者には、多少濁った灯りでも十分でしょう――か)


 ラドムの言葉が、耳の奥にこびりついている。


 安いものには理由がある。


 買ったのは彼らだ。


 そう言って、責任だけを相手に押しつけた。


 けれど現場を知っている人間なら分かる。


 選択肢がない相手に、不良品を流すのは「選ばせた」とは言わない。


 追い込んだだけだ。


 カレン・ベルシアは荷札と封印紐を並べ、商会印を確認していた。


「ベルシア商会の印に似せていますが、これは偽物です」


「分かるのか?」


「ええ。うちの封印紐は、結び目の芯に青糸を一本入れます。これは外側だけ似せた粗悪なものです」


 カレンは細い指で紐をほどいた。


「ただ、厄介ですね。偽物と分かる者には分かる。でも、灯り小路の住民や低ランク冒険者が見れば、正規品の流れに見えるかもしれません」


「商会の信用を使われたってことか」


「そうです」


 カレンの目が、少しだけ冷たくなった。


「商流を汚されるのは、商人にとって喧嘩を売られたのと同じです」


 その言い方は穏やかだったが、内側に刃があった。


 エルネスト・ヴァイスは部屋の奥で腕を組んでいた。


 いつもの豪快な笑みはない。


「ヴァルド・グレイムか」


 低い声だった。


「知っているんですか?」


 俺が聞くと、エルネストは少しだけ目を細めた。


「表向きは流通改善を掲げる商人だ。貧民区や低ランク向けに、安価な魔道具を回している。評判は二つに割れる。助かったという声もある。だが、事故も多い」


「それでも止められないんですか?」


 セリアが食い気味に言う。


「証拠が薄い。品は間に何人も挟んで流れる。帳簿には別名義、荷札は偽装、売り子は使い捨て。今日のラドムみたいにな」


 エルネストは机の補助環を見た。


「それに、白環の守り手も動き始めるかもしれん」


 その名が出た瞬間、部屋の空気が変わった。


 白環の守り手。


 黒い流れを封じる者たち。


 だが、彼らがいつも人を救うとは限らない。


「動くって、助けてくれるってことですか?」


 セリアが聞いた。


 エルネストは答えるまでに、少し間を置いた。


「助ける場合もある。切り離す場合もある」


「切り離す?」


 俺の背中に冷たいものが走った。


「黒い流れに触れた地区を、街の流れから外す。人、物、魔力、すべてだ。被害拡大を防ぐには有効だが……そこに住む者にとっては、見捨てられるのと同じだ」


 俺は思わず視線を落とした。


(黒環会が濁った流れを流し込む。白環は汚れた流れごとせき止める。どっちも、理屈はある。でも、その間にいる人間はどうなる)


 胸の奥がざわついた。


 俺はこの世界に来てから、何度も「流れ」を見てきた。


 魔力の流れ。


 素材の流れ。


 依頼の流れ。


 金の流れ。


 でも、流れの中にはいつも人がいる。


 人を無視した改善は、ただの切り捨てだ。


 その時、調査室の扉が勢いよく開いた。


「た、大変だ!」


 飛び込んできたのはジノ・バレットだった。


 息を切らし、額に汗を浮かべている。


「ジノ?」


 セリアが驚いて立ち上がる。


「灯り小路で、補助環がまた光り始めた! いや、光ってるっていうか、変な揺れ方してる! 住民が集まってて、子どももいる!」


「場所は?」


 リリアがすぐに聞いた。


「東側の共同井戸の近く! 古い街灯柱があるところだ!」


 リリアのペンが止まった。


 ミラが補助環を掴む。


 カレンが荷札をまとめる。


 セリアは剣の柄を握り直した。


 俺も立ち上がる。


 エルネストが短く言った。


「行け。ただし、壊すだけで済むと思うな。流れを見誤れば、灯り小路全体に跳ね返るぞ」


「分かりました」


 俺はうなずいた。


(壊すんじゃない。詰まりをほどく。流れをつなぎ直す)


 何度も自分に言い聞かせながら、俺たちは灯り小路へ向かった。


     ◇


 灯り小路は、昼でも薄暗い場所だった。


 狭い路地。


 傾いた木造の家。


 壁に吊るされた古いランプ。


 そのいくつかが、不自然な明滅を繰り返していた。


 青白く光ったかと思えば、次の瞬間には灰色に沈む。


 光なのに、どこか湿っている。


 そんな嫌な光だった。


「おい、離れろ! 触るな!」


 ジノが住民たちに向かって叫ぶ。


 普段の軽口はない。


 怖い時ほど早口になるジノが、今は本当に必死だった。


「そっちの路地は狭い! 逃げるなら西側! 井戸の裏は行き止まりだ!」


 住民の動線を見ながら、逃げ道を指示している。


 ただ逃げ足が速いだけじゃない。


 ジノは、危ない場所からどう逃げるかを知っている。


 セリアが前に出た。


 剣を抜き、深く息を吸う。


 足の位置を少し変え、踏み込みを整える。


 身体強化の気配が、彼女の周囲に薄く広がった。


「シュウ、どうする?」


「まずは原因を見る。ミラ、あの街灯柱は?」


 俺が指さすと、ミラは工具を持って駆け寄った。


 古い街灯柱の根元には、補助環が三つ取り付けられていた。


 本来なら一つで十分なはずだ。


 それが、無理やり重ねられている。


「ひどい……これ、並列接続じゃない。流れが戻り合ってる」


 ミラが歯を食いしばる。


「外せるか?」


「雑に外したら逆流する。最悪、周囲のランプが一斉に破裂するわ」


 その言葉に、周囲の住民がざわめいた。


 小さな女の子が母親の服を握っている。


「お母さん……灯り、消えちゃうの?」


 母親は答えられなかった。


 その手には、縫いかけの布がある。


 夜に灯りがなければ、仕事にならないのだろう。


 俺は奥歯を噛んだ。


(これが、あいつらの売り方か)


 危険だと分かっていても、使わざるを得ない。


 灯りがなければ働けない。


 働けなければ食べられない。


 そこに「安い灯り」を流し込む。


 不良品ではない。


 罠だ。


 胸の奥に熱が溜まる。


 だが、怒りだけでは流れは読めない。


 俺はゆっくりと息を吐いた。


 細く、長く。


 視界の焦点を、目の前の街灯柱ではなく、その少し奥へずらす。


 魔力の入口を探す。


 出口を探す。


 心の中で、静かに言う。


(流れを見ろ)


 次の瞬間、視界の色が少し落ちた。


 人の肌の色も、壁の色も、空の色も、薄い灰色に沈む。


 その中に、青い線が浮かび上がった。


 街灯柱の根元。


 補助環の内側。


 そこから細い青い流れが入り、すぐに灰黒色の濁りに絡め取られている。


 流れは街灯へ向かっていない。


 地面の下へ潜っている。


 いや、違う。


 地面の下から吸い上げている。


「……井戸だ」


 俺はつぶやいた。


「井戸?」


 セリアが振り向く。


「この街灯柱、井戸の下にある古い魔力脈に繋がってる。補助環が灯りを強くしてるんじゃない。井戸周辺の魔力を吸い上げて、ランプに回してる」


「そんなことをしたら?」


 カレンが聞く。


「生活用の魔力が痩せる。水をくみ上げる魔道具、暖房石、簡易炉……全部に影響が出る」


 言いながら、目の奥がずきりと痛んだ。


 視界の端が揺れる。


 でも、まだ見る必要がある。


 灰黒色の濁りを追う。


 入口。


 変換部。


 出口。


 さらにその先。


 古い街灯柱の裏側に、小さな金属板が埋め込まれていた。


 そこから、糸のような濁りが路地の奥へ伸びている。


「ミラ、柱の裏に何かある!」


「分かった!」


 ミラが工具を差し込み、金属板を外す。


 中から出てきたのは、小さな記録石だった。


 カレンが目を細める。


「記録石……?」


「使用量を測っていたのね」


 ミラの声が震えた。


「灯りを売っただけじゃない。どれくらい吸い上げられるか、どれくらい住民が耐えられるか、記録していた」


 セリアの手が、剣の柄を強く握った。


「ふざけるな……!」


 その瞬間、街灯柱の補助環が甲高い音を立てた。


 キィィィィン。


 光が一気に強くなる。


「まずい、逆流する!」


 ミラが叫ぶ。


 俺は視界の中の流れを見た。


 補助環三つが互いに押し合い、灰黒色の濁りが膨らんでいる。


 今、壊せば破裂する。


 止めても跳ね返る。


 なら、やることは一つだ。


「ミラ! 一番上の補助環だけ、出口を絞れるか!?」


「絞る?」


「流れを一気に止めない。順番に細くする。元栓を閉めるみたいに!」


 ミラは一瞬だけ俺を見た。


 すぐにうなずく。


「できる。でも手が足りない!」


「セリア、柱を支えて! 揺らすな!」


「任せて!」


 セリアが踏み込んだ。


 呼吸を整え、剣を持たない手で街灯柱の支柱を押さえる。


 身体強化が足元から肩へ抜け、柱の揺れが止まった。


「ジノ! 住民をもっと下げろ!」


「もうやってる! おばちゃん、そこ危ないって! 荷物は後! 命が先!」


 ジノが住民を路地の外へ誘導する。


 カレンは周囲の商人たちに声をかけていた。


「毛布と水を! 具合の悪い方をこちらへ。後でベルシア商会が費用を持ちます。今は人を動かしてください」


 その声に、何人かの店主が動き出した。


 リリアは記録石と補助環の位置を素早く書き留めている。


「補助環三基、街灯柱東側、記録石一個。住民被害あり。証人複数。封印紐偽装の可能性……」


 静かな声。


 だが、確実に証拠を積み上げる声だった。


 ミラが工具を補助環に差し込む。


「一番上、絞る!」


 補助環の光が少し弱まった。


 だが、下の二つが代わりに震える。


 灰黒色の濁りが横へ逃げようとしている。


「二番目はまだ! 下から押し返してる!」


 俺は目の奥の痛みに耐えながら叫ぶ。


「先に記録石との線を切る! そこが濁りの逃げ道になってる!」


「分かった!」


 ミラが金属板の内側に工具を当てた。


 小さな火花が散る。


 キン、と音がして、記録石へ伸びていた灰黒色の線が途切れた。


 その瞬間、補助環の震えが弱まる。


「今だ! 二番目!」


「いく!」


 ミラが二つ目の補助環を絞る。


 光がまた弱まる。


 残った三つ目が、低い唸り声のような音を立てた。


 俺の視界がぐらりと傾く。


 吐き気が込み上げる。


(まだだ。ここで焦ったら、全部戻る)


 灰黒色の濁りは、最後の補助環の出口に溜まっていた。


 出口がない。


 逃げ場を失っている。


 無理に止めれば、破裂する。


「ミラ、最後は外すな!」


「じゃあどうするのよ!」


「灯り側に逃がす。弱い光でいい。燃やし切る」


 ミラは歯を食いしばった。


「乱暴ね」


「元の設計のほうが乱暴だ」


「それはそう!」


 ミラが最後の補助環の向きを変えた。


 セリアが柱を押さえ込む。


 ジノが住民をさらに下げる。


 カレンが毛布を広げ、リリアが証言を取る。


 俺は最後の流れを見続けた。


 灰黒色の濁りが、街灯へ向かう。


 ランプが一瞬だけ強く光った。


 そして、ふっと小さくなった。


 破裂はしなかった。


 街灯は、弱いけれど確かに灯っていた。


 俺は膝から崩れ落ちそうになった。


「シュウ!」


 セリアが支えてくれる。


「大丈夫……ちょっと見すぎただけだ」


「全然大丈夫に見えない」


「だよな」


 目の奥が痛い。


 頭も重い。


 でも、灯り小路は吹き飛ばなかった。


 それだけで、今は十分だった。


 ミラは取り外した記録石を布に包んだ。


「これ、解析すれば使用履歴が出るはずよ」


 カレンが封印紐を見つめる。


「流通経路も追えます。偽装印、荷札、記録石。ここまで揃えば、ただの違法販売では済みません」


 リリアがペンを止めた。


「証人も取れました。ラドム・ヴェイルは三度この地区に来ています。そのうち二度は、別の男と一緒だったそうです」


「別の男?」


 俺が聞く。


 リリアは住民の証言を書いた紙を見せた。


「灰色外套ではなく、黒い手袋の男。身なりは商人風。ラドムはその男を『グレイム様』と呼んでいたそうです」


 空気が止まった。


 ヴァルド・グレイム。


 名前だけだった影に、輪郭ができた。


 その時、ジノが街灯柱の裏から何かを拾い上げた。


「おい、これ……何だ?」


 小さな金属札だった。


 表面には、細い文字が刻まれている。


 ――V・G 検分済。


 裏面には、さらに小さく。


 ――実証区二番。反応良好。回収前に追加観察。


 セリアの肩が震えた。


「反応良好……?」


 カレンの顔から笑みが消えた。


 ミラは唇を噛んだ。


 リリアのペン先が、紙の上でぴたりと止まった。


 俺は金属札を見つめた。


 反応良好。


 追加観察。


 ここで暮らす人たちの頭痛も、吐き気も、灯りがない不安も。


 全部、誰かの観察項目だった。


(人を、工程内の不良率みたいに扱ってるのか)


 腹の底が冷たくなった。


 怒りは熱いものだと思っていた。


 でも、本当に許せない時の怒りは、氷のように冷えるのだと知った。


     ◇


 同じ頃。


 灯り小路から少し離れた大通りを、一台の黒い馬車が静かに進んでいた。


 中に座る男は、窓の外を見ていない。


 膝の上に置いた帳簿をめくり、細い指で数字を追っている。


 整った身なり。


 黒い手袋。


 商人らしい穏やかな口元。


 ヴァルド・グレイムは、向かいに座る部下の報告を聞いていた。


「灯り小路の二番柱、異常停止しました。記録石も回収できておりません」


「ラドムは?」


「所在不明です」


「役に立たない男だ」


 ヴァルドは帳簿を閉じた。


 怒鳴りはしない。


 眉も動かさない。


 ただ、不要な在庫を処分するような声だった。


「まあいい。ラドム程度なら、切り捨てても流れは止まらない」


「しかし、組合が動いています。例のEランクも現場にいたと」


 ヴァルドの指が、帳簿の表紙を軽く叩いた。


「Eランク……魔力の詰まりを見るという新人か」


「はい」


「面白い」


 ヴァルドはそこで初めて、薄く笑った。


「貧しい地区は、正規品を買えない。ならば未完成品でも流す価値がある。彼らは灯りを得る。我々は記録を得る。流れとしては合理的だ」


「ですが、被害が出ています」


「多少の副作用があっても、灯りがつくなら感謝するべきだろう」


 部下は何も言わなかった。


 ヴァルドは窓の外へ視線を向けた。


 遠くで、灯り小路の街灯が弱く光っている。


「だが、そのEランクが本当に流れを読めるのなら……次の実証には使えるかもしれない」


 馬車は音もなく大通りを抜けていく。


 その車輪の跡に、薄い灰黒色の濁りが一瞬だけ残り、すぐに街の喧騒へ紛れて消えた。


     ◇


 灯り小路の街灯の下で、俺はまだ金属札を握っていた。


 目の痛みは残っている。


 吐き気も少しある。


 でも、頭の中は妙にはっきりしていた。


 ラドムは逃げた。


 ヴァルドはまだ姿を見せない。


 黒環会の流れは、想像以上に街の奥へ入り込んでいる。


 白環の守り手が動けば、この地区ごと切り離されるかもしれない。


 どちらにしても、灯り小路の人たちは流れの端に追いやられる。


 俺は金属札をリリアに渡した。


「証拠として、お願いします」


「はい。確実に残します」


 リリアはそれを布に包み、丁寧に封をした。


 セリアが俺の横に立つ。


「シュウ、次はどうする?」


 俺は弱く光る街灯を見上げた。


 完全な灯りではない。


 でも、消えてはいない。


「流れを追う」


 俺は言った。


「ラドムだけじゃない。補助環を作った工房、偽の封印紐を用意したやつ、荷を運んだやつ、記録石を回収する予定だったやつ。全部、どこかで繋がってる」


 カレンがうなずいた。


「商流を洗います」


 ミラが記録石を掲げる。


「術式の癖も追えるわ」


 リリアが書類を抱える。


「証言と依頼記録を照合します」


 ジノが肩をすくめた。


「俺は……まあ、逃げ道と怪しい路地なら分かるぜ」


 セリアが少しだけ笑った。


「十分頼りになるよ」


 ジノは照れたように顔をそむけた。


 俺はもう一度、灯り小路を見た。


 詰まった流れは、放っておけば腐る。


 せき止めるだけでも、人は苦しむ。


 なら、やることは一つだ。


 ほどく。


 つなぎ直す。


 人が生きられる流れに変える。


(ヴァルド・グレイム)


 俺は心の中で、その名を刻んだ。


(お前の帳簿に、人の痛みを数字で書かせたままにはしない)


 弱い灯りが、路地の石畳を照らしていた。


 その光はまだ頼りない。


 けれど、確かにそこにあった。


第13話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、ラドムの背後にいるヴァルド・グレイムの影がはっきり見え始める回でした。

灯り小路は単なる被害地区ではなく、黒環会に「実証区」として扱われていた場所です。


次回は、補助環の流通経路、偽装された封印紐、そしてラドムの逃亡先を追いながら、ヴァルド・グレイムとの距離がさらに縮まっていきます。


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