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仕送り十万円ですのに、なぜ生活が破綻するのですわ?  作者: 櫻木サヱ
見守られていることを、まだ知らないですわ

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27/30

遠くから見守る影ですわ

 放課後の校門前は、いつもより少し騒がしかったですわ。

 部活動へ向かう生徒、友人同士で笑い合う声、スマートフォンを見ながら歩く姿。

 エレナはその流れの中を、鞄を胸に抱えるようにして歩いておりました。


「今日は……寄り道はせず、まっすぐ帰りますわね」


 バイトはお休み。

 冷蔵庫の中身も、まだ持ちそう。

 そんな計算を頭の中で転がしながら、校門を出た、その時でした。


 少し離れた通り沿いに、明らかにこの場所には不釣り合いな車が停まっておりました。

 黒く、艶やかで、無駄のない高級車。


 エレナは一瞬だけ目を留めましたが、すぐに視線を逸らします。


「……まぁ。立派なお車ですわね」


 それだけ。

 自分には関係のない世界だと、そう判断したのですわ。


 その車の中で、静かにエレナを見つめる三人がいるとも知らずに。


 後部座席に座る父、九条院 恒一は、窓越しに娘の姿を捉えておりました。

 姿勢、歩幅、表情。

 言葉ひとつ発さず、ただ確認するように。


 隣に座る母、九条院 雅は、手袋をした指をきゅっと重ねております。

 視線は、制服姿の娘から離れません。


「……少し、痩せたかしら」


 小さな声でした。

 それを聞いた父は、即座に否定も肯定もしません。


「だが、俯いてはいない」


 それだけを言います。


 助手席には、長年九条院家に仕える執事・鷹宮。

 バックミラー越しに、同じくエレナを見つめておりました。


「お嬢様は……しっかりと歩いておられます」


 その声は落ち着いていましたが、わずかに喉が鳴ったのを、雅は聞き逃しませんでした。


 エレナは知らず知らずのうちに、横断歩道の前で立ち止まり、信号を待ちます。

 鞄を持つ手を持ち替え、少しだけ肩を回す仕草。


「重いのね……」


 雅の胸が、きゅっと締め付けられます。


「声をかけましょうか」


 思わず、そう言いかけた母の言葉を、父は静かに制しました。


「今日は、様子を見るだけだ」


 それは冷たい言葉ではありませんでした。

 むしろ、覚悟の言葉でした。


 信号が青に変わり、エレナは歩き出します。

 背筋を伸ばし、前を向いて。


 その背中を、三人は最後まで見届けました。


 やがて、角を曲がり、姿が見えなくなったあと。


「……帰りましょう」


 父がそう言うと、運転席の運転手が静かに車を発進させます。


 母は、最後にもう一度だけ、振り返りました。


「ちゃんと、生きていますわね」


 その言葉に、鷹宮は小さく頷きました。


「はい。

 お嬢様は、ご自身の足で」


 エレナは、この日もいつも通り、アパートへと帰ります。

 何も知らず、何も変わらず。


 けれど確かに――

 見守られているという事実だけが、静かに、そこにありました。

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