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仕送り十万円ですのに、なぜ生活が破綻するのですわ?  作者: 櫻木サヱ
未来の選び方ですわ

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23/26

進路相談という名の戦場ですわ

朝の教室は、いつもよりざわついていました。

黒板の端に書かれた文字が原因です。


「進路希望調査 提出期限:今週末」


エレナは席に着き、その文字を見上げて静かに瞬きをしました。


「……戦場ですわね」


配られた用紙を前に、クラスメイトたちは迷いなく鉛筆を動かしています。

第一志望、第二志望。

将来の話題が、当たり前のように飛び交っていました。


エレナの用紙は、白いままです。


「……選択肢が、多すぎますわ」


放課後、進路相談室。

机を挟んで座る担任の先生は、落ち着いた表情でエレナを見ていました。


「希望、書けましたか?」


「……いいえ」


正直に答えても、先生は驚きません。


「進学、留学、就職。どれも可能性としてはありますね」


「全部、別の人生ですわ」


「だから、今決めなくていいんです」


先生は資料を指でなぞりながら続けました。


「あなたは、自分で生活を管理しています。それ自体が、大きな強みです」


「強み……ですの?」


「十五歳で、一人暮らしをして、学校と仕事を両立している。

それは、どの進路でも評価されます」


褒められているはずなのに、エレナは少し居心地が悪くなりました。


「特別扱いされている気がいたしますわ」


「特別なのは事実です」


先生は穏やかに、しかしはっきり言います。


「でも、それは不利ではありません」


帰り道、エレナはその言葉を何度も思い返していました。


特別。

お嬢様。

一人暮らし。


普通、という基準が分からないまま、選ぶ未来。


夜、アパートの共有スペースで大家さんと顔を合わせます。


「進路の顔してる」


「お見通しですのね」


「選択肢、多すぎ?」


「ええ。選べませんわ」


大家さんは、あっさりと言いました。


「じゃあ、減らせばいい」


「減らす……?」


「今すぐ決めなくていいものは、今は外す。

人生の選択肢って、後から増えるから」


その言葉に、エレナの肩が少し下がりました。


部屋に戻り、進路希望用紙を机に広げます。

第一志望、第二志望。

まだ、書けません。


エレナは、そこにこう書きました。


「未定」


「……今は、これで十分ですわね」


用紙を畳み、鞄にしまいます。


進路相談は、確かに戦場でした。

けれど、戦わずに立ち止まることも、

立派な選択なのだと、エレナは知ったのでした。


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