それがわたくしの生活ですわ
朝、エレナは少しだけ寝坊しました。
目覚ましを止め、時計を見て、目を瞬きます。
「……致命的ではありませんわね」
走るほどではない。
けれど、ゆっくりしすぎてもいけない。
その中間を選び、エレナは淡々と支度を整えました。
完璧ではありません。
ですが、破綻もしていませんでした。
学校では、提出物を出し、授業を受け、
休み時間には軽く会釈を交わす相手も増えています。
特別に仲良くなったわけではない。
けれど、孤立しているわけでもない。
「……悪くありませんわ」
放課後。
今日はバイトの日でした。
まんぷく亭では、忙しさも落ち着き、
エレナは自分のペースで動いています。
「こちら、お待たせいたしましたわ」
「ありがとう、嬢ちゃん」
その言葉に、軽く頭を下げる所作も、
もう自然なものになっていました。
山田さんが、ふと声をかけます。
「無理してない?」
エレナは少し考えてから、答えました。
「しておりませんわ。
もし無理になりましたら、相談いたしますもの」
「それなら安心」
そのやり取りが、
当たり前になっていることに気づきます。
夜。
アパートへ戻ると、廊下で大家さんとすれ違いました。
「おかえり」
「ただいまですわ」
それだけの会話。
けれど、そこには安心がありました。
部屋に戻り、エレナは机に向かいます。
家計簿を確認し、予定を見直し、
明日の準備をする。
「……できておりますわね」
一人暮らし。
仕送り十万円。
学校とバイト。
どれも楽ではありません。
けれど、破綻していない。
助けもある。
努力もある。
誇りもある。
エレナはノートの最後に、こう書きました。
「完璧ではありませんが、
これは確かに、わたくしの生活ですわ」
ペンを置き、椅子から立ち上がります。
灯りを消す前、
窓の外を見て、静かに息を吸いました。
「……明日も、やれそうですわね」
そう呟いて、
エレナは部屋の灯りを落としました。




