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ごめんなさい、お淑やかじゃないんです。  作者: ましろ


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子犬の恩返し 【後編】

「先程は申し訳ありませんでした。まさか領主様にこの様なことをしていただけるとは思わず、心より感謝申し上げます」

「私のお祖母様なのでしょう?」

「……いいえ。その様に名乗れるようなものではございません」


体がお辛いだろうに、細い体をしっかりと保ち、毅然と言い切る。


「私はお母様からお祖母様のお話を聞いた事があります」


3歳でお別れしてしまったこと。寂しかったこと。でも、とても優しい方だったこと。


「お母様はお祖母様を恨んでなどいません。だって仕方の無いことだったではありませんか」


大切な娘を置いて出て行かなくてはならないだなんて、一番悲しかったのは祖母だろう。


「……違うのです。私は本当に罪深い。


フローラが大きくなってから一度だけ会いに行ったんです。

どうしても、ひと目だけでも花嫁姿が見たくて……私は修道院を抜け出しました。

でも、娘の嫁ぎ先に着いた頃にはすでに式も終わっていて。当たり前です。結婚してからすでに一年以上経っていたのですから。それでも姿だけでも見たくて。

……でもあの子は笑っていなかった。

狭い領地です。噂話はすぐに回ってきました。あの子の夫は愛人を持ち、子供まで作っていると!

もう悲しくて悲しくて……でも、平民に落ち、貧しい私では何もしてあげられない……。

だから私は逃げたのです。見ているだけの自分が辛いから。辛い境遇の娘を置いて!


ね?あの子の母だなんて……あなたの祖母だなんて言えないでしょう?」


そう微笑んだ祖母は涙を見せなかった。


「抱きしめてもいいですか?」

「な……んで…、」


ずっとこんな悲しみを抱えて生きてきたなんて!

もう答えなど待たずに抱きついた。


なんて……細い体なのっ。


祖母の苦労が見えるようだ。


「だって仕方がないじゃないっ!

私だって知ってるわ。ずっと周りにろくな大人なんていなかったもの!父だって祖父母だって自分達の利益ばかりで私を雑巾の様に使う事しか考えない駄目軍団だったっ!!

類は友を呼んじゃうのよ!どいつもコイツも思い出すだけで腹が立つ!

あ、とりあえず腹立つゴミ共はエミディオ様が大掃除してくれたから安心して下さいな」


「……え?」


あ、お祖母様が困ってる。理解不能って顔をしてるわ。


「アリーチェ。気持ちは分かるが落ち着こうか。貴方はレーダ様、ですね?」

「は、はい。あの、なぜ私の名前を?」

「ずっとお探ししていましたから」


そう。エミディオ様は祖母を探してくれていたのだ。

実家の子爵家の悪事を暴き、まともな親族はいないのかと父方、母方の実家を調べ、共に似たようなゴミ箱一家で、仕方なくそこでも大掃除に精を出し。

下位の貴族とはいえ、3つもの家の不正を一気に暴いていった為、エミディオ様は財務局の悪魔という名で恐れられたらしい。

そんなエミディオ様に、お祖母様だけは優しい方だったと聞いていると伝えると、更に調査してくれた。

だが、残念ながら修道院から脱走していた為調査が困難で、子爵領に住んでいたことまでは突き止めたが、その後が分からなかったのだ。



「灯台下暗し。まさか我が領地にお住まいだとは。テオには本当に感謝しないといけないな」

「本当ね。でもそれはお祖母様がテオを助けてくれたからよ。素敵なお祖母様で嬉しいわ」


まだぼうっとしているお祖母様に明るく話しかける。


「あの……本当に?実家はもう……」

「いや、一応まだ残っているが細かいズルを沢山していてね。領地がだいぶ減ったからそのうち屋敷を売るかもしれないな」


エミディオ様ったらご自分のお仕事だけでもお忙しいのに……カッコイイなぁ。出来る男は。


「ねぇ、お祖母様。やっと会えたのですもの。謝罪ではなく、喜んでいただけると嬉しいわ」

「……本当に……いいの?私などが……」

「お祖母様、孫のアリーチェです。お会い出来てよかった!」


もう一度抱き着くと、恐る恐るお祖母様も抱きしめてくれる。

ああ、私にも血の繋がる素敵なお祖母様がいたわ。


お母様、見てる?やっと会えたよ──




◇◇◇




「シスターと仲直りできたかな」

「大丈夫だろ」

「……俺達……どうなるのかな。孤児院に連れ戻されるのかな……」


テオの表情が暗くなる。


「孤児院は嫌か?」

「……うん……」

「だよなぁ。俺も孤児院は好きじゃなかったな」


そこまで酷い環境ではなかったけど、好きかと聞かれると、違うとしか言えない。


「え、アベルも?」

「仲間だな、俺達は」

「そっか!……アベルはさ、誰かに引き取って貰えたのか?」

「……運良くな」

「そっかぁ。良かったね」


孤児院で一番辛かったこと。それは『いつか』を待ち続けることだ。

いつか両親が迎えに、いつか優しい人が家族に。

訪れるかどうか分からない奇跡を、いつかいつかと待ち続ける切なさが大嫌いだった。


「なぁ、今度俺の家に遊びに来ないか?」

「……いいの?」

「おう。すっごい美人の奥さんを紹介してやるよ」

「あー、わかった。会ったら『キレイなオネエサン』って呼べばいいんだよな?」


ちゃんとアリーチェの言葉を学習しているようだ。


「ああ。いつか『お母さん』って呼べる様に、お前のいいところをたくさん見せてやってくれ」

「!」

「これは俺の勝手な考えだ。今日会ったばかりだし、お互い知ってる事なんてほとんどない。

でも何でかな。お前を……家族に迎えたいって思ったんだ」

「……だって俺……悪いことした……。

悪い子は……迎えが来ないんだ!」


そう言って泣きそうになるテオの目の高さにしゃがむ。


「そうだな。けどちゃんと俺が止めただろ?間に合ってよかった。

もしまた間違えそうになったらちゃんと教えてやる。

それにお前は悪いことをしたんじゃない。大切なモノの守り方を間違えたんだ。もう次は大丈夫だろう?」

「うん!絶対に間違えない!誓うよっ!!」


元気に返事するテオの頭を撫でてやる。

俺が両親にしてもらって嬉しかったこと。


「なぁ、家族になろう」

「なりたいっ!」


それから、テオは俺にしがみついて泣いた。

それはとても静かな、声を押し殺した泣き方。


「またモニカを口説き落とさないとな」


勝手に約束したことは順番が違うと叱られるかもしれない。でも、こいつを守りたかった気持ちは分かってくれると思う。

たぶん、今言わないと駄目だと思った。

彼女曰く、そんな俺の野生の勘を信じてくれるだろう。


「ちょっと!どうしてテオが泣いているの?」


アリーチェさんが出てきた。話し合いは無事に終わったようだな。


「俺が家族になろうって言ったから」

「…………気持ちは分かったけど…………あ~~。うん。

テオ。貴方はそれでいいの?」

「……うん。そうなれたら、うれしい…です」


テオの頭をもう一度撫でる。大丈夫だって伝わるように。


「実はね。お祖母様……シスターはやっぱり今までみたいにここで暮らすのは難しそうなの。

一人での移動が難しいから、貴方達だけでお世話するのは限界でしょう?

だから、そういうお手伝いをしてくれる人がいる病院に移ることになるわ」

「……そしたら元気になる?」

「そうね。元気になることを祈ってる。

だから、明日には行ってしまうの」


それから、他の子供達とも話をした。

やはり俺の事が怖いのか、うちに来たいと言ったのはテオだけ。他の二人は信頼の置ける孤児院に移ることになった。

そんなにも何人もは引き取れはしないからホッとしつつも少しだけ傷ついた。俺ってそんなに怖いのか?




◇◇◇




「アベル。あなたの行動力と直感での行動は本当に驚くわ」


モニカがさすがに呆れている。

なぜなら。あのままテオを家まで連れて来たから。


「すっごい……本当に綺麗なお姉さんだっ!

アベル、悪いことした?攫ったの?」

「凄いわ。ある意味そうね?」

「違います。モニカに口説かれたんです」


よかった。怒ってはいないようだ。


「私はモニカよ。突然連れて来られて大丈夫?怖くなかった?」

「うん!エミディオさんもアベルもお姉さんもみんなカッコ良かった!」

「お姉さん?」

「アリーチェさんのこと。女性はお姉さんと呼べば喜ぶって教えてた。処世術だな」

「それで?三人の何処が格好良かったの?」

「エミディオさんは悪者をやっつけるザイムキョクの悪魔で、アベルは狙ったら逃がさない狂犬で、お姉さんは意地悪なゴミ屑を殴ってやっつけたんだ!」

「……貴方達三人はお説教ね?子供に何を教えているのかしら。でも……なんだか貴方達二人はよく似てるわね。本当に親子みたい」

「!」


テオは少しだけ泣いた。俺は……何故だろう。たくさん泣いた。


勝手なことをしてごめん。でも、コイツと家族になりたいんだ。


そんな俺達をモニカは優しく抱きしめてくれた。


「まるで運命の出会いね。あの時の私達みたい。

一緒に家族になりましょうね、テオ」



可愛くて生意気な子供のおかげで、アリーチェさんも俺達も、新しい家族を迎えることが出来た。






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