はじめまして 3rd
「おにいちゃま」
「ん?」
「ておくん、しゅき?」
「え、うん」
「えれな、しゅき?」
「好きだよ?」
「どっちしゅき?」
「何が?」
「ておくん? えれな?」
「え!?」
あら。
エレナがすっかり拗ねてるわ。
今日はモニカさんがテオと一緒に遊びに来てくれています。
残念ながら、エミディオ様とアベルさんはお仕事でいないけど。
ウィルは3つ年上のテオにすっかり懐いてしまったのだけど、そうすると今まで兄を独り占めしていたエレナはご不満なようだ。
「えっと、エレナは大事な妹で、テオ君はお友達だよ?」
「ん〜ん、どっちしゅき?」
エレナよ。
ウィルもそろそろ格好付けたいお年頃なの。
お友達の前で妹が一番大事だと言葉にするのは恥ずかしいみたいだから、許してあげて。
「エレナ。どっちに入ってるか分かるか?」
「……なあに?」
「見てて」
テオがコインを1枚取り出し、ピンッと上に弾いた。
そして、キャッチすると同時に両方の手を握る。
「どっちの手に入ってる?」
「え〜? ……こっち?」
「ウィルは?」
「僕はこっち!」
「さあ、どうかな?」
パッと両手を開くと、どちらの手にも入っていません。
「ないないの」
「テオ君、どうして?」
すると、ポケットに手を入れ、
「あれ? ポケットから出てきたぞ」
「しゅごい!」
「ね! テオ君すごい!」
たぶん袖の中に落としたのかな?
でも、ウィルもエレナもすごいすごいと興奮している。
「テオは手品ができるのね」
「ておくん、てじゃな!」
「他は? もっと見たいっ!」
「また今度な。二人が仲良くしてたら見せるよ」
「「え〜〜!」」
さすがね。
孤児院で小さい子のお世話をしていたからか、扱いに慣れている。
「ておくん、あしょぼ?」
「そうだな。エレナも一緒に遊ぼう!」
それからはエレナもすっかり懐いてしまった。
遊び始めた元気な子ども達を眺めながら、私とモニカさんはのんびりとお茶をしています。
「どう? モニカさん。三人での生活は」
いつかは養子を迎えることを考えていたからといって、突然、知らない子どもを連れて帰って来られたら、さすがに困惑したと思う。
「そうねぇ。確かにとっても驚いたわ。
まだお互いに親子だなんて慣れていないことも多いし、テオも私達に気を遣ってるなって思うこともあるわね」
やっぱり、いきなり今日から親子ね!
というわけにはいかないのだろう。
「それでもあの子が来てくれて嬉しいの。
何だか子どもだった頃のアベルに出会えたみたいな、不思議な感じがするからかしら。
ふふ、アベルとテオって似ていると思わない?」
分かる気がする。
私もウィルフレドを見ていると、子どもの頃のエミディオ様もこんなふうだったのかな、と想像して幸せな気持ちになるもの。
「そっか。似てるんですね」
「ええ、不思議なことに。まあ、まだまだ新米親子ですもの。ゆっくりと楽しみながら、私達なりの家庭を築いていこうと思ってるわ」
「そうですね。でも、そうやってテオのことを話しているモニカさんは、もうお母さんの顔をしていますよ」
「ほんと? ……嬉しいけど少し照れくさいわね」
そう言いながら微笑むモニカさんは、とっても幸せそうで安心した。
「ばいばいやーの!」
「ごめんな」
「エレナ? 今度ロゼッタと遊ぶお約束があるでしょう?」
「ろじぇったちゃん……あしょぶ?」
「早く会えるといいわね?」
ガヴィーノの愛娘のロゼッタは、エレナより一つ年上のとっても可愛い女の子で、エレナとも仲良くしてくれています。
「モニカさん、またね。テオもいつでも遊びに来て」
「……平民をホイホイと呼び込むなよ」
「可愛くないことを言うのはこの口かしら」
「いひゃいっ!」
まあ、良く伸びるほっぺだこと。
「ておくん、えんえんしるよ?」
「泣いてないから!」
「ウィルもエレナもテオが好き?」
「「すきーっ!」」
「ね? 子どもはそんなこと気にしないで、元気に仲良く遊びなさいな」
「……うん。じゃあ……また」
「うん! また遊んでね!」
「あしょんでね!」
子ども達の初顔合わせは無事終了です。
身分差があるのはどうしようもないことだけど、それだって絶対のものじゃない。
モニカさんのように貴族でも平民になってしまったり、私だってエミディオ様に出会えてなかったら、今頃は平民として生きていたはずだもの。
貴族だからと偉ぶったりするような子どもにはしたくない。
「アリーチェ、ただいま」
「おかえりなさい」
お見送りとお出迎えのキスをするのは、結婚してからずっと続く我が家の習慣です。
「テオはどうだった?」
「ウィル達とすっかり仲良くなったわ。帰る時にはエレナがグズるくらいだったのよ」
「………嫁にはやらんぞ」
「アハハッ、親バカだわ」
絶対に言うと思ってた!
きっと、ガヴィーノも同じことを言うでしょうね。
変なところで兄弟なんだから。
「病院から連絡があって、お祖母様の体調がだいぶ落ち着いてきたそうだ」
「本当?」
「ああ。お見舞いの時間をもう少し長くしても大丈夫らしいから、週末にでもウィル達を連れて行こうか」
「ありがとう、嬉しい」
「あと、テオもな」
「んふふっ」
何だかんだ言って優しいんだから。
「どうした」
「ん〜? あなたのことが大好きだなぁって思ったのよ!」
「奇遇だな。私もだ」
今度は挨拶ではなく、愛情を伝える口づけを。
「いつかエレナにもあなたみたいに素敵な人が見つかるといいわね」
「そうだな、ウィル達にいい出会いがあるといいな」
まだ幼い彼らには、どんな未来が待っているのかしら。
「でも、まだしばらくはお父さんとお母さんが一番好き! って言っててほしいわ」
「あと20年くらいは言ってもらえるよう努力しよう」
「長い!」
でも、いつまでもそんな仲良し家族でいるのも素敵かもね。
「これからもよろしくね、旦那様」
「もちろん。愛しているよ、アリーチェ」
【end】




