第二十ニ話 カルロスとティグレの絆
カルロスは、アルテリアの西方、道化師の仲間たちが肩寄せあって暮らす街角の一角にある、古びた酒屋に二人を案内する。
まだ日は高く、店内は閑散としていた。小さなテーブルに三人、身を寄せ合うように座る。
「ご安心ください。ここは、我々の仲間が営む酒場。それにしても、よくご無事で……」
カルロスは目に涙をにじませながら、ファビアの手を固く握りしめる。そして、時の隙間を埋めるように、お互いの、ここまでの道のりを語り会う。
カルロスは、どうやってここに流れついたのか。エレニア王国崩壊の日を偲んで、語りだす。
エレニア城陥落後、城下町に乱入するシャフタル軍。逃げ遅れた町民は容赦なく殺され、町に火の手があがる。
身寄りのある者は、エレニア周辺の村に逃れて行くが……
もともと、カルロスたち芸人の一座は、身寄りのない者が肩寄せ合って暮らす集団。住まいを焼かれ、行く当てもなく炎に包まれた町を彷徨う。
その時、ついに一座の行く手に、シャフタルの兵士が現れ、彼らを囲んで槍を突きつける。
カルロスが死を覚悟した、その瞬間!
純白の虎が、兵士と一座の間に割り込む。
「ティグレ!だめだ!下がれ!」
兵士の顔に緊張が走る。カルロスは絶叫する。
ティグレは兵士たちを鋭く睨みつける!
次の一瞬!ティグレは前足を大きく蹴り上げ、まさに!
兵士たちに襲いかかる!…………??
ヒョコ、ヒョコ、ヒョコ
ティグレは突然、前足を蹴り上げた姿で、コミカルに腰を左右に動かし始める。
ヒョコ、ヒョコ、ヒョコ
芸達者なティグレの十八番、とらとらダンス!
虎って、そんな動きできるの??
その滑稽な姿に、兵士たちは思わず吹き出す。
「なんだ?このトラ」
「すげえ、なんか踊ってやがる!」
戦勝の余韻に浸る兵士たち、たちまち上機嫌になる。
すかさず!カルロスが機転を効かせて畳み掛ける。
「シャフタルの兵士の皆様!我々は、ごらんの通り……あちこちを転々と流れて、芸を披露する一座でございます。」
兵士たちはカルロスの話に耳を傾ける。
「エレニアには、たまたま立ち寄っていただけなのです。もし宜しければ、シャフタルの皆様にも、我々の芸を楽しんで頂きたいと切に願っております!」
まさに、芸は身を助く!
そして、カルロスとティグレの強い絆が一座を救う!
……というか、ティグレ、実はめちゃ賢いんじゃね?
カルロスたち一座は、それ以来兵士たちの宴で余興を披露し、そして今や帝都アルテリアの広場で人々を楽しませている。
カルロスが語り終える。
ファビアとシリウスは、きょとんとして顔を見合わせる。
そして、酒場の入り口で不機嫌そうに唸り声をあげるティグレを眺める。芸に厳しいティグレ、未だにさっきのショーでの不手際を怒っているのだ。
ファビアはヒソヒソとシリウスにつぶやく。
「予想とちょっと違ったけど……なんかすごい話聞いたな……」




