第二十話 復活の大地
舞台は再び、北の大地、かつての女王の名を冠したビアンカ村。
春が過ぎ、短い夏が訪れようとしていた。
村人たちは知る由もないが、シャフタルの大祭、姫たちの処刑まで残り330日ほど。
あれから三度の厳しい冬を乗り越え、村は見違えるような発展を遂げていた。
ニコラスたち、村の子供たちが歓声をあげて走り回る。北の果てで、エレニア王国は静かに復活へと歩む。
しかし、絶対的に足りないものがある。
プリンセス!
そう、エレニア王国は、女王が治める地。
とある日の晩、夕食の席でファビアは皆にとある決意を口にする。
「ビアンカ村は大いなる発展を遂げた。これも全て、皆の努力の賜物だ。感謝しかない。」
突然の、かしこまった物言いに、皆いぶかしむ。
「どうした?いきなり、まじめな顔して。」
シリウスが茶々を入れるが、ファビアは語り続ける。
「エレニア城から脱出したあの日の事を、サルバドールから聞いたのだ。クレア姫たちは死んでいない。合流する寸前で、シャフタル帝国軍に捕えられたのだと。」
「!!」
シリウスが思わず言葉を飲み込む。
「そうだ。ようやく、この地に礎が出来つつある。今こそ、首都アルテリアへ!俺は、姫たちを奪還し、この地に迎え入れる!俺は、女王ビアンカの、最後の命令を果たしに行く!」
「フ……ファビア!」
その決意に、村人たちは心からの敬意を表する。
シリウスが尋ねる。
「で、誰と行くんだ?」
「敵国の首都に乗り込む、危険な旅だ。人数が多いと目立つ。しかも姫が見つかる保証すらない。だから俺一人で行く。お前はこの地を守ってくれ!」
「そうか、わかった。気をつけろよ!」
そうして、ファビアは慌ただしく準備をする。
特に夏が近いとはいえ、ユピテル山脈を越えるのは容易ではない。天候を慎重に見極め、遂に出発の日を迎える。
村人たちは、総出でファビアを見送る。
ここに戻れる保証は全くない。
シモンズと固い握手を交わす。
ファビアは、山脈超えの道を踏み出す。
名残惜しいのか、シリウスが横に並んで歩く。
ん?見送りのくせに、やたら大きな荷物しょってるな……
二人は他愛もない会話を弾ませながら、とうとう山脈の入り口まで辿り着く。
ファビアが尋ねる。
「おい、いつまで付いてくるんだよ。」
「知らねえよ!俺が行こうとする道に、勝手にお前がいるだけだろ!」
……少し間があく。
「はははっ!訳わかんねえよ!」
そして、二人は顔を見合わせて、大笑いする。
「一人で行くっていっただろ!」
「絶対無理だから!落ちこぼれのくせに!」
「うるせえ!!主席で天才のくせに!」
「それ、ほめてんじゃね??」
「う……うぐ……」
なんだか、軽口を叩いてるうちに、サクッと山を越える二人。かぼちゃ生い茂る山道を踏みしめて、いざ帝国の首都アルテリアへ!




