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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-3.ダース山の戦い
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Chapter 71.Preparation of Ritual

タイトル【儀式の下準備】

ダース山シルベー側並びにゲンツーの街を制圧したSoyuzだったが、突如として冴島少佐の帰投命令が出され、それに伴い副指令であるボリス中尉に管理責任者が移譲された。


その一方で、一連の流れに冴島は既視感を覚えていた。権能中将が大規模な作戦を行う際の前兆だと。

彼のもとで仕事をしていてはや何年になるだろうか、それほど長く付き合いがあれば大まかな思惑がわかってくるというもの。


いきなりMi-8が街に乗り付けて、ハリウッド映画ばりに少佐を名指した上、半ば拉致に近い状況で招集されたことには流石に驚いた。


だが誰の命令なのかを尋ねた際に中将の名前が出てきた時点で大方予想は当たっていたようである。


「…後々ボリスに詫び入れねばらんな」


騒々しいローター音が響くヘリ内で少佐はこうつぶやく。



—————



 本部拠点にヘリが到着するなり、冴島はそそくさと司令室に向かった。

ずいぶんと現代文明とかけ離れたこともあり、どうにも目が慣れない。そのため滑走路と言い筆舌にしがたい違和感を抱いていた。



 司令部だった場所に足を運ぶとそこは置き換わったかのように格納庫が敷設されている。

建設師団の働きには感服するばかりだが移転したことを通達しなかったのは彼の戯れなのだろうか。


わざわざ事務室を訪れる羽目になったがここは相変わらずプレハブ小屋に電気を引いた簡素な造りのままらしい。

扉をノックし勢いよく扉を開けるとマディソンが紙飛行機を作って飛ばしていた現行犯に出くわした。

彼は悪戯が見つかった子供のように固まっていたが少佐は構わず問うのだった。


「——司令部はどこに移転した、マディソン」



「げぇぇ!?ジマさんがなんでここに!?ええと、そのですね、これは航空機の風洞実験で——」



「せめてプラモならそう言い訳できただろうが…マディソン、言うべきことがあるようだな」



かくして彼に脅しの材料一つを獲得すると共に場所を聞き出すと、どうやら地下化されたシェルターになっているとのことらしい。最重要拠点の防御は厚いことに越したことはないだろう。


風の噂によれば鉄道もジャルニエ城延伸工事も進んでおり、順調に工事は進んでいるようだ。


司令部につながると電子ロック扉が関門として立ちはだかる。冴島は懐からIDカードを取り出してロックを解除してようやく立ち入ると部屋奥に中将が鎮座していた。


権能は事務椅子をきしませ振り向くと



「わざわざここまで呼びつけてすまないと思っている。連日の業務…埋め合わせはしておこう」



「何を言うんです、いつものことでしょう。それに近々大規模な作戦があるのでしょう」



この間柄、埋め合わせなどと水臭い。

それに此処は最高機密に指定されており、易々と横浜には戻れないのは明らか。

一度入れば最後の蟻地獄、それにくれるものと言えばたかが知れている。


「うむ。次回の城制圧作戦についてだが…相手に時間を与えすぎた。

これを見てほしい。前日の偵察作戦によって撮影された城付近の航空写真だ。無数の投石機が設置されていた。計測の結果259門だと判明した。お前も知っての通り、街と城は湿原の両端にある。そうなれば自走砲は届かないだろう。あくまで石しか飛ばせないが、これが火砲だとしたら…答えは一つしかないが、お前はどうする。」


中将の問いに少佐は鋭く答えた。


「空爆で対処します」


「——言うまでもないか。城主に勧告通知を送り、返答次第では順次空爆を行う。

だが、城の破壊は見込めないことはジャルニエ城調査からわかっている。

そこでだ、冴島。爆撃後の制圧作戦の指揮官にお前を任命しようというわけだ。」


中将はなおも続ける。


「敵を排除後、BMDなどで構成される機械化部隊が城内に突入。敵司令を確保、制圧する。前回のジャルニエ城では少なからず損耗が出たことから本作戦直前、丁度通知が届く日に目標地点に潜入し突入時に混乱を狙うため爆薬を設置。機密書類に指定されている城内図を回収せよ。潜入作戦の指揮は俺が取る。」


中将の考案した作戦は以下の通り。

作戦前に城に潜入し城内図を回収後、爆撃で外に出ている敵兵やカタパルト等を排除。Il-76でBMD、ハインドでは歩兵や装甲兵器乗員を投下。


得られた地図を基に司令部に乗り込み残存兵を掃討するというものだ。潜入作戦に関しては今後の戦術的価値のことを鑑みるに中将が指揮を執っても不思議ではない。


「決行は三日後、できるな」


「了解」


権能の問いに冴島は鋭い敬礼して答えた。


この城を落とせば二つ目の県がSoyuzの手中に入ることになる。だが帝国とてこれだけの鉱山都市、もとい生産力のある土地を取られそうになって黙っているだろうか。


冴島はふと自分が指揮を取った時を考えた。必ず増援を要請する、それもおびただしい数の。


何が起こるかわからないという大前提がある以上、手を抜くことができないことに変わりない。慢心、抜け目なく依頼された業務を着実に行えば良い。


それに気を抜いたら最後、その背後に死が待ち受けていることはどこに行っても同じものである。


「失礼します」


冴島は中将に一言添えて背中を向けて司令室を後にするのだった。戦争をする人間の眼差しとなっていた。




—————



 シルベー城にいるカナリスやオンスら一味もただ侵略されるのを待っているばかりではなかった。

ジャルニエを瞬く間に占領したような人間を相手にすることに加え、対抗するために莫大な数のクレインクインを運用することになっている。


この兵器は槍専用の投石機で、帝国における野砲のようなものである。装填手・射撃手・照準手・巻き上げ要員に最低でも二人。1基あたり5人。



間違いなく言えるのは自前の部隊だけでは城の防衛に回せない、ということ。


将軍とて馬鹿ではない。本来城を防衛する人員を全てクレインクインに注力するため、カナリスは本国に増援を呼ぶことにしたのである。

ゲンツーの街の防衛騎士団を登用しようにも占領されているという話を小耳に挟んでいる。


ハナから使えない物として考えているので今更使えなくとも構わない。


また、増援の到着にはやはりと言うべきか時間が掛かる。

それまでの間オンスと会食を開き、二人きりで今後について話すことにした。


「毎度こうしてお声掛けされ、光栄です」


「固いこと言うなよオンス。我が一族の紋章を贈ったんだ、そんな他人行儀な間柄ではないだろう」


大事に挑むにあたり、そのことを気にしてばかりでは周りのことが見えなくなってしまう。会合も重要だが、時に気をほぐすことも同じ事。


二人を挟む石造りのテーブルに目を向ければ、博覧会のように料理が立ち並ぶ。


中身に竜肉と魚から取ったスープが封じられ、パイは封じられた黄金の棺と言っても過言ではない。

脇には果実酒や副菜だけに留まらずパイに着ける香草を刻んだソース等が並ぶ。


加えて食後の軽食として魔道で周囲に冷気を放つ程凍らせた葡萄酒がグラスに入れられていた。こんなもの、到底庶民には口にできない究極の美味。


古典的ながらシェフや料理学者が舌を巻くような代物を常食できるということは、県自体が莫大な利益を出していること他ならない。それも正規の手段で。


小ぎれいにナイフで切り分けるとピンのような食器でひとかけらを頬張り、オンスは話を切り出した。


「将軍、ゲンツーの街が異端軍の手によって占領されました。また敵がこの城にめがけ進行している以上、由々しき事態です。」



それに対しカナリスは占領された事実に対し関心はない素振りでこう言う。


「ゲンツー、が。ねぇ。いい加減ギルドが台頭してきたせいで鉱山都市は防衛騎士団でも手綱を握れなくなってきてね。どうにもこうにもいかなかったんだ。無理な拡張もしてきたし、そろそろ潮時かと思ってたんだよね。異端軍が踏みつぶしてくれてむしろ都合が良いよ」


彼にとってゲンツーの街は邪魔者以外の何でもなかった。

強欲極まりないギルドが力をつけてくれば、いずれ自分に盾ついてくることは明らか。


そんな彼にオンスは問う。


「しかし武器調達ができない以上、迎撃不能という事態は避けたいと思っておりますが…」


深刻そうな顔をするオンスを前にステーキを口に運び、咀嚼し終わると余裕をもって答えてみせた。


「なぁに、自前で作れなければ買えばいいさ。なんのために貨幣が存在してるんだ、カネは使わなきゃ意味ないんだ」


すかさずオンスが口を開こうとすると、彼は食い気味に言葉を続ける。


「次言う言葉は財源はどうするのか、だろう。心配いらないよ。たださえ一生こんな食事してても使い切れるか怪しい貯金があるし、シルベーの産業は何も鉄鋼に依存してるわけじゃあないんだ。」


「ここには泥炭と湿原から取れる肥沃な土があるじゃない。一番売りつけられそうなのはラムジャーだろうね。ゾルターンは泥炭を砕いたやつを混ぜないと作物が育たないくらい、あの変態親父だって知ってるはずだし、無計画な農地拡大をたくらんでるなら肥料だっているだろう。スケベオヤジがごねてその筋が使えなくなっても、まだまだある。何なら向こうから願い下げさ」


態度や金払いも悪く、最悪武力をちらつかせて不当な値切をしてくる悪徳顧客が一つ消えようがどうでも良いのである。


こんな規格外のモンスタークレーマーが自ら去ってくれるとあれば最早運がいいとすら思えた。




——————



 それからというもの、たわいもない話ばかりが続いた。


兵士の間抜けな話、港での釣果等。あっという間に時間は過ぎてゆき、皿に乗せられていた見間違いかと疑うほど巨大なステーキが消えてしまった。



「最後にお聞きなさいますが、万が一、それも万が一。カナリス将軍に異端軍が差し迫ったことがあった時。いかがなさいますか」



オンスには騎士の誇りもあったが、あのジャルニエをたった一か月で制圧せしめた軍勢が相手。何が起きるかわかったものではない。


「その時はその時さ、命さえあればいくらでも這い上がれる。またゼロからやればいいじゃないか。今まで騎士の誇りなんて言ってもさ、結局は人間カネと飯で動いてるわけじゃないか。持つだけ損。ってのが僕自身の考え。だけど、それはやらない理由にはならない、だろう?」


カナリスは気楽に答えてみせた。


長年街を開発し、労働者や兵士を動かしてきた身からすれば、騎士の誇りというものはあまりにも具体性に欠ける。


誇りがいくらあろうとも結局のところ武器や飯がなければ動き用にもないのだから。


食後、一息つくと彼の顔は一転した。


「——オンス、増援の規模は」


彼とてただ負け戦をするつもりなどない。自分の地を攻めてくる以上、全力で戦わねばならない。カナリスの質問にオンスは即答する。


「おおよそ魔導士大隊かと思われます」


「わかった。物資を発注しておくから、戦いに備えてくれ。僕は戦いには疎い。オンス、指揮をとってくれるか」


「将軍の命とあらば」


Soyuzの冴島少佐。帝国のカナリス将軍。両者は少しずつ動き始めていた。

全てを得るか、全て失うか。戦いの火蓋は静かにも切って落とされたのだった。

次回Chapter72は5月15日10時からの公開となります

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