Chapter 70.Air Fortress in the Sky(2/2)
——ウイゴン暦6月16日 既定現実6月23日 午後14時35分
今後行うシルベー城制圧やベーナブ湿原の調査を終えたTu-2は帰投すべく湿原上空を飛行していた。
偵察を終えたこともあり、後は広大な湿原を横切った後はゲンツーの街やダース山を越えたジャルニエ城拠点に帰投する予定である。
対空陣地が敷設できない関係からか、地上からは全くと言っていいほど砲火は飛来せず、大柄な機体は悠々とまるで遊覧飛行のように空を駆ける。
一時期はどこからか出撃していた飛龍隊と交戦したがそれっきり貸し切ったかのように辺りには何も見当たらず、レーダーもドットが映らない状態が続く。
このような状況なため搭乗員も一息ついており壮大な風景を独占できるということもあってか他スタッフから借りてきたソ・USEでの写真撮影に勤しんでいた。
「思ったんだけどさ…コレでまた別に海がまたあるんだろ、ジャック・スパロウが50人いても足りやしねぇ。それに…スマホじゃダメだ、キャノンのカメラがいるなこれ。」
尾部ガンナーはキャノピー越しながらカメラマンさながらアングルにこだわってみるが、常に寝そべることを強いられている上、画質の限界が知れている端末ということもあって撮影は難しいようだ。
帰投する拠点と現在位置はおおよそ数十キロを指し示し任務を終えた彼らは悠々と飛行している、何の変哲もない時だった。
「なんだ…?」
写真撮影に勤しんでいた尾部ガンナーが良いアングルを探すべく双眼鏡を覗き込んでいた時のことである。今まで見たことのない巨大な蛇のようなものが空を飛んでいるのである。報告に聞いていた怪生物とのことでフォトフレームに入れるべく様子を伺う。
【——敵機1距離1500!?】
突如副機長が気を取り乱しながら無線を寄越してきた。30km先のワイバーンですら捉えられるレーダーを搭載しているにも関わらず何故その存在に気が付かなかったのか。
それにはとあるからくりがあった。
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その理屈とは単純明快。
空中を巡行する飛龍と異なり、ワイアームは湿地もとい地上で這うようにして移動することができるのだ。
Soyuzの航空機をピンポイントで待ち伏せしていたゲルリッツ中佐は龍蛇を生息域である湿地に紛れ機会を伺い、黒い影が出現したとならば即座に高度を上げて奇襲を仕掛けることが狙いである。
レーダーの対象はあくまで空中の電波を反射する物体を捉えることに長けるが、地上への警戒はミサイルにロックオンされていないと気が付かない。気が付いたが最後、異様な程近く電探に映るというわけである。
それにもう一つ、中佐には考えがあった。
たとえこちらを遠方で発見できる能力を持っている以上、バケモノ相手にドラゴンナイトは姿を消そうともあらゆる奇襲は成立しない。
だが突如目と鼻の先に敵が現れたらどうなるだろうか。一見何もない所から伏兵よろしく現れるのだ、いかに警戒していようが動揺を誘える。多少なりとも近づけるだけの時間稼ぎはできるだろう。
「ぎぇええ!!!寒い!怖い!高い!」
「ぐずぐずするな!」
竜騎兵の訓練をろくに受けていないシムはあまりに掛かる重力と速度に恐怖し、泣き叫んでいた。
自動車や航空機、まして鉄道すらない世界でいきなりスピード・ワールドを経験するのだからやむを得ない。
だからと言って敵は刻一刻と近づいている。引かないわけにいかない。
Tu-2は機銃を最大限活用すべく、突撃してくるワイアーム・ナイトに対しゆっくりと右旋回し地上側に背中を向けた。
———FRAZ!FFRAZ!RAZZLE!!
機体側も騎士を近づけさせたら終わりである。おびただしい機銃弾で牽制するも機動力に戦闘機と爆撃機程の差がある竜騎兵に対して撃墜できる程の決定打とはならなかった。
その上かつてゼロと戦ったゲルリッツには効果などなく空を駆けるように弾丸の嵐を潜り抜けてゆく。
「シム!ありったけの矢を撃ちまくれ!」
「助けてくれー!」
弾幕を潜り抜けた彼は声を荒げると、シムは助けを乞いながら大怪鳥に向けて矢を放ち続ける。
「やはりな、だが続けろ!」
機体全てが金属で構成されたTu-2に向けてライフル弾に劣る威力の弓矢も同じく撃墜できるだけの痛手とはならない。
たとえ、その一発一発に効果がなくとも揺さぶりさえ掛けることができれば上出来。本命は彼が手にした鋼の槍なのだから。
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現用戦闘機と遙かに性能が劣りながら、航空機でも難しい弾幕抜けをする怪物を相手に乗員も焦りを隠せなかった。
一発さえ当たればカタが付く20mm機銃も機動力に差をつけられている今、宝の持ち腐れと言ってもいい。
ダース山さえ越えてしまえば地対空ミサイルなりを叩き込んで是が非でも撃墜できる。
だがコックピットにいる機長と副機長は切迫していた。
今までのワイバーンの速力はたかだか300キロ程度でTu-2でも振り切ることができるが、レーダーに映ったコイツは400キロをたたき出してきた。
速力差から逃げ切るのはほぼ不可能。こうなったら時間を稼いで敵をジャルニエ側に誘いこまねばならない。
機体の命運はガンナーたちに託されていた。
【距離800!こいつは今までとは何かが違う!気をつけろ!】
——ZDADADASH!!!!——
銃声に埋もれながら副機長から怒号混じりの指示が飛ぶと、機長は操縦桿を思い切り握り鈍重な機体は高度を上げはじめる。生物に乗っている以上、上がれる高度はたかが知れているからだ。
偵察機の仕事は戦うことではない、さっさとズラかれば良いのである。
「回り込まれた!ここからでは撃てない!」
怪物相手の最前線の機銃手が一番理解している。弾切れ近い弾薬ベルトを乗せ換えレバーを力いっぱい引いて襲い来る敵に備えた。
「了解!——出てこいクソッタレ、ハチの巣にしてやる」
死角を任された尾部機銃手は、重力に逆らって揺れ動く機体の中で鋭く動き続ける敵に向けて撃ち続ける他ない。
それに対しヤツはこちらが高度を上げてもなお、追従どころか追い抜く勢いだ。だからと言って諦める理由にはならない。正に生死が掛かっている!
———DLALALA!!!!——
飛び交う機銃の雨を雲隠れしながら照準を撒いてくるが、その手は前に遭遇した敵で見慣れた光景。経路を推測しながら銃撃でその跡を撃ち抜いていくと小さな雲の切れ間が見えてきた。
ここまでくれば姿が露わになり撃墜を狙えるだろう、そう思った時だった。
照準を向けた先に姿はなかったのである。ガンナーはできる限り見渡したが姿はない。
仮に突然止まることが出来たとしても自殺行為だ。これだけの腕前の相手なら絶対にしないはず、まるでどうなっているか理解ができなかった。
【機長!どうなってる!敵が消えたぞ!】
【敵機は映っている、誤認ではないのか!距離450!250!】
機長に聞くと敵は距離を詰めているときている。これでは正しく姿だけが忽然と消えたとでも言いたげだ。
できることと言えば疑わしいところを掃射するまでのこと、やり場のない焦りを向けながらグリップを掴みどこから来るか分からない敵に向けて無差別攻撃を加える。
【こいつ!こいつ!こいつ!——なんだコレ助けてくれ!——】
そんな藪から棒に射撃を加えていた時、神龍めいた顔が一種だけ露わになると銃眼の隙間からナパームでも食らったかのような灼熱がガンナーを襲う。ワイアームが火を噴いたのだ!
【どうした応答せよ!】
炎を浴びた機銃手は焼けつくような熱さと吹き抜ける極寒の風にもだえ苦しんでおり、まともに行動できるような状態ではない。
【機長!後ろがやられた!】
【了解】
鋭く上昇を続けるTu-2に対して敵はまるで滝を登る鯉のように迫りつつあった。
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□
互いをけん制し合う戦いだったが、両者にある共通した事があった。
撃墜にあたる決定打に欠けているという点である。
航空機は高度を上げつつ機銃を放ち、敵を近づけまいとあがく一方で、ゲルリッツとしても逃がす訳にはいかず、効果のない弓矢を打ち込みながら恐ろしい勢いで接近を試みている。
限界高度の差から振り切られようとしていた。
ゲルリッツはワイアームの高度限界が迫っていることを知っている。
自分も息苦しいが、背に乗せている此奴自身はもっと苦しいはずだ。
高さを上げるたび応答が遅くなり、鞭を打つたび力を込めて登ろうとする様は悲惨そのもので、敵地となったダース山すら見えてきた有様。
透明化魔法も切れる頃合いも近づき、どこまでごまかしが効くかわからない。
「私を乗せるための嘘でないなら、さっさと【とっておき】を出せ。アイツを叩き落す!」
「わかりました旦那ァー!」
恐怖で涙すら枯れたシムは半ばやけになりながら絶叫して答えると、背負っていた大筒に似た何かを取り出した。
対装甲用兵器ニースの単装版【ダール】である!
アーマーナイトの装甲を貫き、ワイアームなどのモンスターも一発でダウンが取れる兵器だ。
単装になったとは言え弓引きの腕力でも鈍重とされる代物だが、こいつを撃ち込まねば決定打にはならない。幸いにもあらかじめ槍が装填されており押金一つで放つことが出来る。
彼は火事場の馬鹿力で鉛のように思いダールを構えるとワイアームは高度を上げ振り切ろうとするTu-2の真下にぴったりとつき、最後の勝負に打って出た。
火のブレスの直撃を受けた尾部機銃座からは攻撃が止んでいる今しかない。
距離は短い射程のダールを当てるため次第に詰められていく。透明化していた彼らは次第に見えるようになり、後戻りはできない。
「喰らえ化け物!」
——BoooOOOOHUNG!!!——
空高く魔術的爆裂音が響き渡った。
最後の希望を託され放たれた槍は、双頭の異形をかすめることなくして虚空へと消える。
ただでさえライフリングがない砲身や、安定翼のない弾頭に凄まじい気流。それから導き出される当然の結果だった。
ワイアームは我慢ならぬと言わんばかりに首を振り、地上へと向かっていく。
それに相反するTu-2は勝ち誇ったかのように視界から小さくなり始める。視界から消えるのも時間の問題だろう。
これがミサイルや機関砲であったなら間違いなく撃墜が狙えた。
あと一歩のところで撃墜しそこなったことをゲルリッツは歯ぎしりをしながらこう叫んだ。
「ここまで手を打っておきながら何故勝てない、クソ!反乱軍の連中め、次こそは、次こそは討ち取って見せるぞ!」
高度を下げていくと、ゲンツーの街が見えてくるばかりか、小さなダース山も大きく見えはじめる。
ここから先は敵地、かつての自分の居所。ひとたび立ち入れば首無し飛龍とは違うまた別の存在が避けようのない魔術で殺しにかかってくるだろう。
いくら不死身と言ってもあのようなことが起これば命を拾ってくることができるか怪しいものである。
「シム、初めてにしては上出来だ。帰投する」
ゲルリッツは後押しさを胸に空中で静止させるとシムに投げかけた。
「何を言うんです旦那、槍だって残ってんです。アイツが油断した隙にもう一度——」
なにも屈辱は中佐一人が抱えるものではない、シムももう一歩のところで撃墜出来たダール射手として諦めが付かない。何せ英雄の役に立たなかったこと、自分の不甲斐なさ。様々な感情が渦を巻いている。
「ここから先は敵地だ、冷静になるんだ。連中は我々とは違う何かを持っている。それに掛かればお前と私を殺すのは容易い。二度はない」
ゲルリッツは彼に対して半ば自分に言い聞かせながらそう命令し、引き返していった。
命がある限り反撃し続けることができる、ここで死んでは現世で討ち取ることは不可能。
時にして勇気の撤退も必要なのである。
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怨霊の如く執拗に追跡するゲルリッツの魔の手から逃れたTu-2の乗員らは、ジャルニエ拠点隣接滑走路に着陸していた。
記録された映像は本部拠点に送信されておりそこまでフライトする必要はない。
着陸するなり二人係で担架を持った医者が駆け寄り、尾部ガンナーを担いでいった。
副機長が着陸前に要請したこと、また本人も火だるまになりながら咄嗟に防寒着を脱ぎ捨てたこともあり、幸いにも大事には至らなかった。
「本当に大丈夫かお前…」
運ばれる彼に機長は心配の言葉をかけると、あろうことか機銃手はサムズアップしながら軽口を飛ばした。
「ローストされて冷蔵庫に突っ込まれた気分です機長。」
命に別状はなかったものの、軽い凍傷が見られるとのことで治療が必要らしい。
なんとか助かるということもあってか乗員はホッと胸をなでおろした。
その一方、詳細な映像が本部拠点に届けられると、早速権能の手に渡った。
「うむ…」
プロジェクターに投影された記録映像を見て権能は思わず声を漏らした。
これによれば城周囲には対空陣地のように無数のカタパルトが配備されており、戦車などで排除するにしても地盤が悪いため沈みかねない。
また洋上の大田切は湿原に入ると座礁してしまう恐れがある他、どれだけ頑張っても砲撃の射程範囲の外にいる。
巡航ミサイルなら届くだろうが、一発では焼石に水だ。
空爆も視野に入ったが、ジャルニエ城の検査報告が脳裏に浮かぶ。
爆弾を投下したとしても、強固極まりない構造のため地図上にも残らない程破壊するには数十機単位のTu-95とスカッドのような巨大ミサイルをしこたま撃ち込まねばならないだろう。
それではあまりに効率が悪すぎる。
そこで権能はとある作戦とそのバックアップ・プランを考案していた…。
次回Chapter71は5月8日10時からの公開となります




