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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅱ-3.ダース山の戦い
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Chapter 67.The heavy industry heart by U.U

タイトル【異界の重工精神】

————ウイゴン暦6月13日 既定現実6月20日 午前11時45分


シルベーとジャルニエを隔てる大鉱山、ダース山麓街に広がる鉄鋼業と様々な用途に転用できる泥炭で栄えた一大工業街、それがゲンツーである。


帝国にとって鋼鉄は武器や日用品だけではなく、分厚い装甲板を使用するアーマーナイトやジェネラルといった重装歩兵を大量に配備できるのも鉱山と街あってのことだ。


 幾度も繰り返されてきた対隣国戦争においては最重要目標とされ続け、防衛騎士団には膨大な数の人員が補填されて続けている。


政権が軍隊の手中に堕ちた今は厳しいノルマが課せられてはいたものの、カナリス将軍の好意によって申し訳程度の自由がもたらされている。


故に絶望と悲壮感の強かったハリソンの街とは打って変わり、男たちの活気があふれていた。



冴島率いるSoyuz機甲部隊は麓にたどり着いた頃にはちょうど時刻は昼前。

市街地内には仕込みを終えた軽食屋台がずらりと立ち並び、昼食を取るために多くの人々が行きかっている、正にそんな矢先のことである。


塔から監視を行う兵員からの報告が騎士団長に届いた。

戦車や装甲自動車は帝国では未知の存在であり酷く目立つ。厳重な警備体制が敷かれているゲンツーではなおさらだった。


「何ィ!?この野郎何故それをさっさと知らせんのだ!まぁいい、緊急出動だ!」


執務室に団長の怒号が響き渡ると、街中に配置されていた重装騎士たちが一気に展開されていった。



——————



【OSKER01からLONGPATへ 敵兵が入り口に殺到しつつあります】


【——のようだな】


戦車の波が街に近づくにつれて重装兵が展開し始めていた。当然異形の兵器がやってきたのだから無理もない。


問題は抵抗の意思があるか否かの二択。

対ゲリラ戦陣形を維持しながら接近を続けていると、遠くから声が聞こえる。


「ここから先はゲンツー市街に入る。直ちに進路を変更及び停止せよ、これは警告である。」


少佐はこのことを見越していた。元を返せば本作戦目標はこの街であり交渉があることくらいわかり切っていた。


問題はその相手の態度。

Soyuzと彼らの間は板門店のように隔てられている。最悪の場合交戦ということも十二分にあり得るが、無血を望む少佐としては避けなければならない。


ただ希望というものは自ずと残されているもので、言語の壁がないことだけが不幸中の幸いと言うべきだろう。


冴島は交渉に打って出た。



—————


 Soyuzの侵攻にスクランブルをかけた防衛騎士団は、ずらりと壁のように重装騎士を展開、防御陣営を組ませることで【人間の防壁】を作り上げた。


敵が市街に侵攻を掛けた時にすぐさま戦闘態勢に移行できるようになっており、いかにゲンツーの街が要であることを意味している。


報告曰く、謎の馬車もどき怪物らの中には珍妙な恰好をしながらも、人間がいるということが判明していた。


団長は警告した後に行動に変化が見られない場合、即座に攻撃を開始するように命令を下していた。




重装騎士兵団長ガルシアとしては、帝国の使者を除く武装集団は全て敵と考えていたためこのような強固な判断に踏み切ったのである。


馬車もどき集団は警告を受けると命令通り進路を右に変えた後に停止した所までは良かった。



「団長、西から何か来ます。——ヒトがヤツから出てきた?」



監視員を担う重騎士がその様子を団長に伝えると、団長ガルシアは片眉を歪ませこの状況を疑う。


通常であれば警告を受けた集団は迂回するはずであり、侵略するのであれば動きを変える必要はないだろう。


ガルシアは兵の言う通り西側に目をやると、鎧とは到底思えない黒い装備品を身に纏い両腕には黒染めしたような金属のような物体を持ち歩いていた。

そんな奇怪な人間に守られるようにして、緑色の服を着た恰幅の良い男が装甲を身に纏わずに向かってきているではないだろうか。


彼は理解しがたい光景の連続で思考が停止した。



————



あの男のしたいこととは一体何なのか、みすみす殺されにでも来たにしても護衛が居るのが不自然すぎる、まるで理解が及ばない。


不毛な考えが堂々めぐっていると、集団は手前に展開していたアーマーナイトに止められる所まで来ていたのである。

すると彼らは代表者の指示で黒い物体を地面に向けさせると、男は口を開いた。



「我々は独立軍事組織Soyuzというもので、お話を伺いたく参りました」



頭を丸め、鎧を外したジェネラルのように鍛えられた筋肉が袖から突き出ている。騎士団員、まして帝国の人間とは思えない程肌が浅黒い。


話をかいつまみながら冷静さを取り戻したガルシアは話をかいつまむに連れて反射的に感じた。目の前にいる男は外患だ、間違いないと。


だが相手の物腰は低く本当の使者と遜色ないのだ。


——仮に目の前の男が敵対的ではない使者を手にかけたのならば、商売将軍カナリスが黙っていないことは想像に難くない。

そうなれば今まで積み上げていた防衛騎士団という肩書が水泡と帰すだろう。


「通せ」


団長は付近の兵士に指示を出すと装甲を揺らし、周囲の重装兵が彼を疑いの言葉を投げかけた。


「正気ですか、こんな帝国人でもない怪しいヤツを?」


何も不審に思っていたのは団長一人だけではない、長くを共にした歴戦の騎士も同じようなことを感じていた。


「——わかってる、奴はここの人間じゃないことくらい。だがな、本当に人畜無害な使者だったらどうする、取引先を一つさえにもうるさい将軍を怒らせたら…俺だって地位が惜しい!」


防衛騎士団の懐に入ることに成功した冴島だが喜んではいられない。言うなればアウェーのスタジアムに足を踏み入れただけに過ぎず交渉戦がようやく始められようとしているのだから。



—————



 冴島少佐とそのジェイガン率いる歩兵部隊の護衛だけはゲンツーの街に入ることが許可されたが、禍々しい鋼鉄の塊である7両のBMP-Tを筆頭とする車両たちは以前アーマーナイトと睨みを利かせていた。


そればかりか対峙する重装兵同様、少佐の指示一つで殲滅戦が始められるよう機関砲や主砲の照準を狂気じみた正確さで向けている。


少佐が招かれ交渉を行っている間。何時、いかなる時に砲撃命令が飛んでくるか分からない。

戦車内に居る車長・砲手らは棺桶に等しい鋼鉄に包まれ無線に神経を集中させる。


双方緊迫しきっているにも関わらず両者を隔てるソード・ラインは不気味なまで静かなものだ。


その傍ら、冴島はというと要人として市街地に足を踏み入れ執務室へと案内を受けていた。ハリソンと打って変わり無機質な四角い立法建築が摩天楼のように立ち並び、天高くつきだした無数の煙突が影を落とす。



 冴島はこの光景にどこか見覚えがあった。日本が迎えた高度成長期の街である。

あらゆる場所に工場が乱立し、こうして煙突が自分たちを見下ろしていたものだ。

おまけに空気がU.Uの中で経験したことのない程に汚れている。四方からディーゼル排気を浴びせられているのと大差ない。


常識外れまでに空気が汚れているにも関わらず街を闊歩する労働者や少佐やスタッフをぐるりと囲む重装兵もセキ一つしないではないか。

産業革命に目がくらんだイギリスめいた光景を見ているうちに騎士団本部に到着したのだった。



この様子から見てハリソンのようにトントン拍子に行くとは思っていないが、Soyuzの息のかかっている場所は是が非でも確保しなければならない。


可能な限りスマートに事が進むに越したことはないが、決定権は向こうにある。

並大抵の人間であれば、プレッシャーで潰れてしまいそうな局面でも冴島は顔色一つ変えることはない。彼なりのバック・ドアが残しているからだ。



「私は騎士団長のガルシアといいます。——根掘り葉掘り聞きたいところですが要件はなんですかな。」


交渉は幕を開けた。目の前にいる男は波を立てないよう、必死に隠しているものの苛立っていた。その瞳は隠れながらも殺意の炎が垣間見える程に。


Soyuzを即座に排除に掛かりたいが何かしらがそれを邪魔している、少佐はそう踏みながら要件を簡潔にまとめる。


「我々Soyuzの部隊をこの街並びに付近に置かせてもらいたい。不可能であれば人員でも構いません。——我々はあなた方の生活等に干渉するつもりはありません。…ですから、今まで通りで構いません。厚かましいようですが承諾できましたらこちらの方に記載を願います。」



冴島は懐からA4サイズの封筒を取り出すとその中から一枚の契約書をテーブルに置いた。


雪のように白い紙面を団長は不思議がったのか神妙な顔をしながら手に取り眺めていたが、しばらくすると静かに契約書を置き少佐の提案にこう返した。



「——将軍からの通達で聞いております。あなた方は暗黒違憲組織なのだと、それも国に反逆するような逆賊だと。一体何が目的でこの街に。得体の知れない組織の軍隊などを入れるわけにはいきませんな。」


Soyuzは帝国によって名指しで憲法に違反する反逆者集団として知られていたが、それ以上の情報は伝達されていないようであった。


マトモな感性を持つガルシアからして、不用意にゲンツーの街に入れてしまった場合、匿っていると判断されてしまい国から粛清を受けかねないような案件を呑むはずがない。



いかに権利や自由が保障されているからと言っても皆殺しにされてしまったのならば本末転倒というもの。

Soyuzの来訪は妙な宗教団体や異教徒が来るよりもはるかに危険で厄介だと言えよう。


団長は後悔した。

このまま目の前にいる男をさっさと殺して将軍に行政処分を受けておけばよかったと。


いずれにせよ帝国本部にロンドンをも超える暗黒非合法組織を招き入れたことに変わりはない、どのみち目を付けられることは明らかなのだから。




——————


「ややお話を進めすぎました。説明不足でしたことお詫びいたします。——少々説明いたしますと、我がSoyuzは何も軍事サービスのみならず、流通・設備開発や工事などを行っております。ここは鉱山の麓にある街です。例にとりますと、うちの輸送ルートさえお使いになればこれよりも比べ物にならない量の商品が運べるでしょう。

ここは駐屯が難しいのならば、窓口の敷設でも構いません。

また、有事の際には私どもが駆け付けますのでご安心ください」


どこか後悔の色を浮かべる団長を尻目に少佐はすらすらと商社マンの言う売り文句のように畳みかける。


今までのハリソンで積み重ねてきた実績が後押しして、曲りなりにもセールストークの真似事はしてみたものの、判断はガルシア当人に委ねられている。


冴島は表面こそ平然を装うが、内心では固唾を飲んで相手の出方を伺っていた。


「——大層な理屈を並べられたとして、実績をこの目で見なければ納得できませんな」


団長から返ってきた答えは最もらしいものだった。

いかに物流ルート等が確保され街が飛躍的に発展するにしたとして、関与を疑われて国から消しにかかられては意味がない。



返り討ちに出来るというならば話は別だが、粋がるだけならば誰にでもできること。

大金目当ての冒険者と同じように欲に目がくらみ、国から送り込まれた刺客でSoyuzもろともこの街の住人が全滅するということも考えられる。


そんな緊迫の一途を辿っていた会談だが冴島の内心から不安は消えていた。Soyuzは【根拠】を握っていたからだ。


「——わかりました、資料を請求いたしますのでしばしお待ちください」


彼の手には汎用端末ソ・USEが握られていたのである。

冴島は端末を手に取ると、ある写真類を送信するように本部に連絡した。彼は車両に搭載していたモニタを懐から取り出してソ・USEと接続して映像を出力する。


「——これからお見せいたします資料は、ありのまま事実です。」


冴島は念を押して言うと画面をガルシアに差し出してある映像を再生しはじめたのであった。



—————


 ――VoooMMM―――


【бля!よくも手玉に取ってくれたな】


——ZDADANG!!!!——


その映像とはハリソン騒乱の際、BTR-80のに搭載されたカメラで撮影されたものだった。

モニタからボリス中尉の悪態と重機関銃の音が響き渡り、黒いホースメンが落馬していく。

少佐は頃合いを見て別のものに切り替えた。


【ドア返せこの野郎!】


続いてはパトロールカーのドライブレコーダから取ってきたものらしく、コノヴァレンコの悲痛な声と銃声、そして撃破されていったパラディンの残骸が表示される。


「これは上空からの記録です」


そう言って少佐は映像を切り替えると、白黒に表示されたハリソンの街が記録されていた。今までのものとは違い空から街を見たアングルであり、真ん中には照準線が表示されている。

ハインドのガンカメラで撮影されたものであろう。


道外れには小さく騎兵が映り込んでおり、容赦なく30mm機関砲を浴びせ、ロケット弾を無慈悲に打ち込んでいる。というものであった。


「オイ嘘だろ、ハリソンだぜあれ…」


 映像を脇に見ていたアーマーナイトたちも思わず声を上げた。記録された映像はハリソンのものだったからである。


この光景を目の当たりにしたガルシアは、奇術と疑いながらも映像自体に絶句していた。


文明の波状攻撃はまだ終わらない、目を疑うような内容が記録が次々と解き放たれていく。


巷の噂で聞いていた黒い騎兵で構成される粛清部隊の話と、映し出されているおびただしい数の騎兵が一致する。


話によれば反逆を試みた集団は恐ろしい数の黒いパラディンでネズミ一匹血祭に上げられるのだと。


「この街並みはハリソンで間違いないのか」


奇術と疑っていたガルシアは近くにいた重装騎兵にそう尋ねる。


「間違いないですよ、あの曲がり角とか特に!」


これで疑念は一気に晴れ渡ってしまったことになる。この動く絵はハリソンで起きた有様を表している。驚愕している騎士団側に追い打ちをかけるように画面に捕獲した武器を提示しながら冴島は念を押す。


「ここで映っている騎兵…。これは反逆者を討伐する部隊、深淵の槍であることが判明しております。捕獲した装備品類は所属部隊等が記載されておらず、こちらでは帝国軍のものではないと考えられます。」


その写真たちは紛れもない真実からの切り抜きだった。無数に立てかけられたソルジャーキラー、馬上大剣ヴェランダル。


特に大剣に施された銀等級の刻印、それはゲンツーの街で生産されている証明であり奇術等では到底覆い隠せないだろう。


団長は今決断を強いられていた。


防衛騎士団、その団長は支配する街の長としての一面も強い。深淵の槍をも超える戦力を持つ集団と戦いこの街と共に運命を共にするか、あるいはSoyuzの軍門に下り裏切り者と罵られようともゲンツーの街を活かし続けるのか。


 ただの騎士ならば戦いを選んでいるだろうが、ガルシアは膨大な数の命も握っている。

一人の軍人としての身勝手は到底許されない。


彼は乾いた唇を舌先で潤すと、ガルシアは苦渋の決断を下した。


「——さっき出した紙。出してはくれまいか」


軍人としての誇りや権威よりもガルシアはゲンツーを取ったのであった。

次回Chapter68は4月17日10時からの公開となります


Soyuz archivesが投稿されてより1周年を迎えました!

閲覧いただいている皆様に感謝御礼申し上げます!

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