Chapter 66-2.The Radio
タイトル【ラジオの便り】
SOYUZ 横浜本部基地内
異世界派遣軍ジャルニエ基地
1320時 JST
SOYUZ異世界派遣軍は事案の発生以来順調に歩を進め、本部基地が位置するジャルニエ県の首都を制圧し前進基地を構築するに至っていた。
未だ建設の進むSOYUZ異世界派遣軍ジャルニエ基地。
時刻は13時20分。建設作業に当たる第一建設機械師団の作業員や、前進基地に勤務する兵員・内勤者らは皆昼食後の休憩時間を思い思いに過ごしていた。
その中に二人、急ごしらえの通信塔の足元に座り一休みしている人影があった。
「休憩はあと10分、どうせ暇だから時間までラジオでも聞くか。」
苦労の絶えない内勤者ことマディソン・バーナードと、その内勤補助の捕虜マリオネス・オンスティの二人である。
「おい、ちょっと。その箱みたいなモノは一体何だ?無線機とは違うようだが・・・」
「お、こりゃあな、ラジオってもんだ。無線機と殆ど変わらないけどあれより大分簡単なもんだよ。」
マディソンはラジオのスイッチを入れる。
SOYUZが異世界派遣軍向けに福利厚生の一環として中継しているラジオ、周波数84.7MHz。
FM横浜お昼のラジオ番組。
[今日はね、肉フェスin赤レンガ倉庫という事で-]
イベントの話題。軽快なトークショーがラジオから流れ、リスナーを楽しませる。
「ラジオは音声だけを送るんだけど、完全に一方通行でな。こうやって受信機を使って番組を楽しむんだ」
「ふむ」
苦労の絶えない内勤と、その助手の休憩時間は穏やかに過ぎて行く。
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同時刻
地球北極圏 ノヴァヤゼムリャ西方300kmの海中
一隻の戦略原子力潜水艦が冷たい海中を進んでいた。
“カール・R・ライコフ(Карл・Раиденович・Раиков)”。
SOYUZがロシアから新製購入したタイフーン級戦略原子力潜水艦SOYUZ仕様の4番艦である。
北方艦隊の定期警戒航路計画に基づき、核弾頭を満載して戦略警戒任務に当たっていた。
「0420UTC。浮上用意」
「浮上用意、了解。アップトリム5度」
「両舷前進原速」
“カール・R・ライコフ”艦長のウラジーミル・シェフチェンコ大佐が号令を下し、各員が行動する。これより定時連絡のため浮上するのである。
「浮上」
「浮上了解。メーンタンクブロー」
「通信装備展開用意よし」
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しばらくして
海上に金属の柱が出現する。
“カール・R・ライコフ”のマストと潜望鏡だ。
「視界範囲、異常ありません。」
「レーダーに感なし」
「通信電波スキャン開始します」
「スキャン開始せよ」
浮上前には潜望鏡やレーダーなどによって周囲の探索を行う。
万が一にも自身の位置を確認されないように万全を尽くすのだ。
最終段階として周辺の通信電波を探索し、自身を確認したような通信が無いか探る。
「・・・ん?」
「お、どうした」
「艦長、通信スキャン感あり」
「通信スキャン感あり」。この言葉が意味する所、「誰か近くで無線を使って喋っている?」
発令所に緊張が走る。
「何?周波数は?」
「周波数は・・・84.7MHz。暗号化なし、スペクトラム拡散なし、単調発信です。」
「アナログ波か?」
「アナログ波です。音声を送っている模様。」
「音声か。聞かせてみろ」
「はい。スピーカに出します」
通信士官がコンソールを叩き、回線を繋げる。
[国道246号線は、水道管の破損に伴う緊急工事の影響で-]
艦長含め、ロシア人が多数を占める”カール・R・ライコフ”の乗員の中に、その内容を理解できた者は殆ど居なかった。
「これは一体何だ」
発令所内の誰もが、そう思っていた。
[首都高湾岸線は空港北トンネルで発生した事故の影響で-]
聞いたことの無い言語、聞いたことの無い単語。
そして何より聞こえるはずのない場所で。
発令所は間違いなく静かな混乱の中にあった。
その時、一人の士官が声を上げた。
「艦長、これ日本語ですよ!」
「日本語だと?」
「はい。これは間違いなく日本語です。日本語で道路情報をやってます。」
「なんで日本の道路情報がこんな北極圏で・・・」
「それは・・・分かりませんが、ともかくこれは日本語です。自分が日本に居た時に聞いていたラジオ番組と同じだ」
「そうか・・・分かった。仕方ない。本社に報告しよう。通信回線を開け。」
「了解。回線繋ぎます」
北極海を行く潜水艦が傍受したFM横浜。日本、それも神奈川から東京、静岡に向け放送されているローカルラジオ局である。
特に神奈川県の飲食店に立ち寄った際には嫌でも聞くことできるが、こんな北極海で聞けるはずがない。
この不可解な事象に関する報告は速やかに本社に通知され、調査がなされた。
調査はSOYUZに異世界-規定現実間の洋上ポータルの発見という結果をもたらす事となる。
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————虎ノ門オフィス街 某ビル 最高機密階
ラジオ電波は国境を超え、届くことが往々にしてある。例えば日本の首都においても北朝鮮や韓国、中国と言ったアジア圏のAMラジオを受信することが出来るように。
ここで拾った電波は87.4Hz、ローカルラジオ局FM横浜のもの。
地の果て、北の果てであるノヴァヤゼムリャでは遠すぎて受信できるはずがない。
この電波の正体とは一体何なのか。その答えは向こう側にあった。
SoyuzはU.Uにおいて福祉のために許可を得て、同局のラジオ電波を増幅している。
この結果をまとめると、U.U内から横浜市瀬谷区に生じたポータルのようなものが存在するという仮説が立てることが出来るだろう。
事態を重く見たロッチナは合間を縫って本社にあるU.U直通回線を使用して中将に連絡を取っていた。
「北極圏ノヴァヤゼムリャ西方300kmで探知された電波…これは紛れもなくU.Uから発信されたもので間違いはないか?」
専務は権能に問う。
「間違いありません」
「そうか。となると封じ込めと隠ぺいが少々厄介なことになりそうだ。」
ロッチナは二つの意味を込めながら言う。
U.Uの存在は世界に存在する200近くある国家や諜報機関一つにでも知られてはならない、極秘事項である。
発見された場所が場所なため、自ら隔離されている状態だ。
だが隠ぺいするための施設を建造する際にCIAといった組織に察知されたら。懸念が残る。
もう一つは、船を運び込めると仮定した場合に「核」を搭載した原子力潜水艦を放り込むことが出来るだろう。
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「それと中将、君には良い知らせがある。」
しばし広がる沈黙の空間。それを作ったのもロッチナだが、破ったのも当人だった。
「なんです?」
「グラウンド・ゼロの捜索にある船を差し向けようと思っている、船頭を取る砕氷船は言うまでもないだろうが、手始めと言っては難だが…手始めに大田切を向かわせよう。それで無事なら海軍司令官を派遣する。」
彼が中将に送る「大田切」と呼ばれる船とは一体何なのか。
「確か海賊殲滅作戦に従事していた巡洋艦ですな。」
ソマリア沖にはびこる海賊を拠点ごと葬るために建造された21世紀の最上型重巡洋艦だ。従来の海賊船対処に加え、砲撃能力にも秀でている。
昨今は各国がより強力な軍艦が周回していることや、重巡洋艦自体が過去の産物であることから、今は隠居状態にあった。
陸で火力が足りない場合、これを使えと言う事だろうか。
「近年ではSoyuzに護衛を依頼する法人も無くなった。それに第二次世界大戦の面影を多く残しているのが大きいのもある。大田切は常に特定の周波数に設定した電波を放ちながら突入するよう指示が下っている。U.U側にある航空機などで接触を取るように。」
「了解しました。」
異次元の向こう側にはGPSといった機器類は役立たずになり、海図も通用しないため迷子になる。万が一今まで発見された次元ではない、また別の世界に繋がっていたら。
そう考えると背筋が凍る。
大きな戦力と開拓ソースを得られる反面、それに見合うリスクを負うことだろう。
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————ファルケンシュタイン帝国 海上
ここは海上。深い青の水面と永遠に続く水平線。日光干しになりそうなくらい暑い時、たまに吹き抜ける風。
漁を終えた男たちはしばし休憩を取ることにした。
魔力によって氷がいくらでも生み出せる文字通り魔導庫に入りきらなかった魚は干物に加工を終え、心地よく揺れる船に腰を下ろす。
一仕事終えた後の一服。帝国の政治は悪くなる一方だが、これだけは変わらないものだ。
「このまま帆を立てとけば湾につくんだろうな」
「おうよ、今更そんな野暮なことを聞くなって」
「ま、そうか」
激動の夜明けを潜り抜けた海の男たちは呑気に言葉を投げ合う。金になりそうにない魚を海水で煮た簡素な汁物で腹が満ちている。極上の幸せとは正にこのことだ。
その時である。
突如何もない海面と虚空が光り出した。それも太陽の反射光とは全く違う、魔導的な光だ。周囲にはほかの船は出ておらず、軍隊が妙な実験をやっているという事も考えられない。
「なんだよ…」
凄まじい閃光に機嫌を悪くした漁師が船から身を乗り出す。想像を超える光量に手で覆いながら何が起こっているのかを確認しようにも、魔導には疎い男たちでは理解するに及ばない。
暫くすると、光の中からクジラの頭のようなものが現れた。そんなチンケなものでは済まない。次第に男たちの顔に大きな、大きな影が落ち始める。
光の先から現れたのは島と見まがうほど巨大な、何かだった。見たことのない姿をしており、船なのだろうが海に浮かんでいること以外全く持って分からない。
「どうなってんだ…島が…動いてやがる…」
ある男は、重巡洋艦大田切を見てこう言った。
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————グラウンド・ゼロ
————派遣艦隊旗艦 スヴェルドロフ級巡洋艦 ブリッジ
最初に送り込まれた大田切はあくまでもU.Uにおける先兵に過ぎず、これはフラッグシップではない。ではその後ろにいる艦隊の仕切り屋はまた別にいるのだ。
それこそソ連の軽巡洋艦スヴェルドロフであり、艦隊司令官としてフィッシャー少将が乗船していた。経験豊富な軍人であるだけではなく、陸の最高責任者が権能なら海軍大将は彼にあたる。
不可思議なものは一通り見てきたはずだが、海上にぽっかりと空いた次元の歪みに思わず目を疑わざるを得ない。
「…まだまだ世界は広いな、それなのに別の世界に通じる門が見つかった、か。世の中どうなってるのか分からんな」
腕を組みながらポータルを見つめてつぶやいた。この先には未知の大陸があるのだろう、そう考えると大航海時代の再来へと突入することになる。
歴史が変わるその瞬間に立ち会うのは慣れていたが、味わったことのない高ぶりを抑え込んでいた。
偉大な備忘録の一ページを開くその時。何十にも暗号化された極秘無線が届く。
【少将。此処から先がどういった場所なのか分かっているな。】
世界で最も秘密を抱え、幻影のように居所がつかめないSoyuzの闇を一身に背負うその男。ロッチナからだった。
【えぇ。資料を拝見していましたとも、専務。我々が今更隠し事をするなど慣れっこではありませんか】
Soyuzは世界に最も近い場所に居ながら、最も深い場所にいる組織だ。口が裂けても言えないような作戦には慣れっこだ。時に穢れ仕事も背負わねばならない、正義の組織ではないのである。
【ただ違うことと言えば————】
【最終戦争を起こさなければならない事態になることもある…巨大戦艦やスラヴァは兎も角として、核をその腹に満載したタイフーン級原潜を送り込む時点で分かっていないとでも?】
【流石少将と言うべきか…。話が早くて助かるな。————武運を祈る。】
その一言で無線はぷつりと切れ、航海にスヴェルドロフは向かっていく。
易々とは戻れない、片道切符的な旅路に。




