表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
ⅰ-3.ハリソン防衛線
31/327

Chapter 27.War in mad laboratory

タイトル【狂気の研究所戦争】

ファルケンシュタイン帝国ジャルニエの地をSoyuzは進軍する一方、置いてきぼりを食っている部署があった。


ショーユ・バイオテックである。


ここに在する人間はそれぞれ研究員たちであり、戦闘員ではないために自ずと研究所で日夜この理不尽の塊であるU.Uに根城を構え、分子生物学的観点で解明を急いでいた。



 城塞市街ハリソンでの深淵の槍と思われる軍勢による襲撃を受け、歩兵としてジャルニエ城を攻め落とすはずの要因が医務室送りにされた挙句、出撃不能なスタッフも少なくない。



更にはジャルニエの城を侵攻する機械化歩兵の絶対数が足りなくなってしまう事態になっていた。



軽傷で再復帰可能なスタッフも多いが、再出撃を行うことができるスタッフも人間である。



故に疲弊の一つもするものだ。


ハリソンを制圧して敵側に動揺を与え奇襲する作戦は現状の施設や動員できる部隊を計算した結果、実行困難となった。


単純に殲滅するだけならば容易だが、制圧するとなると話は別になってくる。



そのため次なる作戦はガンシップに乗せて特殊部隊を輸送し、ヘリボンで降下した歩兵によって城に制圧するというものに変更された。


現代戦において高コストである歩兵を未だ使い続ける理由として、拠点制圧は歩兵でしかできないからである。





———






そんな中、人員の補填は急務となったがそれを阻む存在があった。【検疫】である。


人員を補填する際には健康診断をはるかに厳格にした検査の下、病原体陰性と検出された人間だけがこのU.U(異世界)に足を踏み入れることができるのだ。


その項目は多岐にわたり、特にペスト等が再興し始めた国出身の人間はただでさえ膨大な項目が二倍増しになるときている。そのため弾かれる人間も少なくない。


ここまでの検査を提言したのはバイオテック所長のS.メンゲレその人だった。



 そのため中将は兵員の補填を名目にして検疫の緩和ができないかとメンゲレ博士を呼びつけ、会合を行っていた。



博士が指令室に来ると、彼は恐ろしい悪の科学者へと変貌していた。


目は赤く充血し、目元はクマで真っ黒に染まった挙句、ひどく猫背で顔色は墓から掘り出した死体のように失せているのだ。



それも当然、彼が研究所にこもりながらアイオテの草原に生える草という草をむしり取って核酸を抽出。

シークエンサにかけてDNA配列を解読し、それを.pdfファイルに保存する作業を昼夜繰り返しながら


【食糧生産プラント ブブ漬け】の設備などに対しても口を出す立場を兼任しており満足に睡眠もとれず、激務の毎日を過ごした結果、今にでもゾンビになりそうな容姿になっていた。



 貴重な休憩時間に呼び出された博士はひどく機嫌を損ねながら指令室の椅子に座ると



「これがマリスだったらミンチにしていたがどうだ、権能中将。要件を3文字で済ませないと黙っていないぞ」



その言葉を受け取ると、中将は静かに語り始めた。


「毎回博士の休養を邪魔して申し訳ないが、敵拠点を攻め落とすには設備増強が必要になる。そこで、設備検疫を緩和し多くの———」



検疫の緩和という言葉を耳にした博士は狂った猛獣のように怒り狂い



「あんたもふざけたことを抜かすようになったな、この禿げ頭野郎。私がクソほどにも忙しい中呼びつけておいてどこまでもふざけている。一体どこに頭がついているのだ、銃口かミサイルハッチか、えぇ!?」


「いいか、ヒトを通じて感染する病気というのは有史以前から苦しめられてきたのも知っているだろう、世界中に広がった天然痘にヨーロッパの人間がアリを雑に殺したみたいに死んでいった黒死病に結核。今いる都合のいい世界にも存在する黄色ブドウ球菌だって簡単に人が死ねることくらい理解できないのか、この抗生物質かぶれめ」



「それの何百倍質の悪いインフルエンザとかのレトロウイルス病なんて入れてみろ、こんなクソみたいな世界の人間が滅ぶんだぞ。

ああ、おたくらはそれが望みだものな、疫病を持ち込めば簡単に征服できるだろう。だが私はお前らのような軍人崩れとは決定的に違うことを教えてやる。私はここに存在する文明を人間残らず滅亡させるために研究しているのではない、遺伝子工学、分子生物学などの観点をもってこの世界の謎を理屈付け解明するためにここにいるのだ。そのためにこの世界がクソみたいな病気でズタズタにされては適わん!」



「新宿駅ホームで騒ぎながら酒をドカ飲みしてゲロを吐き、セックスだけのために生きている連中に検疫を任せても同じようなことが起きるのだ!わかるか!私の止められない知的好奇心を刺激し続ける理不尽が存在し続ける世界を守るために検疫は絶対に緩める気はない」



 「だがなアンタにもほめる点は一つくらいある、私にそのことを話してくれたことだ。

近頃は叱られるのを避ける人間と私の話を最後まで聞かない人間が下痢便のように多くてミスをやらかす人間が多くて私の命が鰹節のように削れていくんだ」



「私から一つ提言しよう。設備に関してはこれまでの消毒液塗布から燻蒸するだけでいいが、人間やナマモノは簡単に済まないコトを忘れるな。」



博士はまるで竜の如く火炎を吐き去ると、急に理性的に戻り机に突っ伏した。

疲労が限界にまで達しており中将に怒鳴り散らすのと同時に、伝えるべくことを伝えるとガス欠を起こした車のように動かなくなった。


中将は思わず身を引きながら、この事実を受け止めていた。

 しばらくすると死体に魂が込められるかのようにして博士は立ち上がると、中将の声に耳を傾ける事なく指令室を後にするのだった……





————






一刻も早く寝なければならない、これだけが彼を突き動かしていた。



最早気力だけで動いているといっても良く、バイオテックに帰ろうと通路を歩いている時であった。背後から聞き覚えのある声が飛んできたのである。



「おいスギザキか?まさかこんなところでばったり会うとは」



その声は一体誰なのであろうか。そして博士のSを知る人物とは何者か。


答えは単純だった。マリスである。彼とは腐れ縁の状態で長きにわたり関わり合いがある。その生ける屍のようなメンゲレを単純に心配し、声をかけたのだった。



肝心要の彼は今にも死に絶えそうな様であり、まともに歩くので精一杯な状況だった



「なんだこの野郎マリ公、私をあざ笑うために来たとでもいうのか」



度重なるストレスに晒された挙句、膨大な業務を前にした博士はいつ爆発してもおかしくはないようで、声を絞り出すくらいしかできなかった。



「これ以上仕事すると死ぬぞ。」



まさにマリスの言葉通りだった。通りがかりにこんな姿の彼を見たのならば誰だってそう言いたくなるに決まっていた。



「これから帰るんだよ!無駄にゴルフ場みたいな拠点作りやがって。人を何だと思ってるんだ、セグウェイか何かを前提にしてるとしか思えん。全くどいつもこいつも——」



博士は言葉を言い終わる前に意識を喪失し、ばったりと倒れた。


既に若者という年齢を超過しているにもかかわらず徹夜と短時間仮眠を繰り返した挙句、エナジードリンクで騙しだまし動かしていたつけが当たったのである。



休憩をすればいいものを、博士は探求心のまま動き続ける研究マシンである故の悲劇だった。






———






博士が目を覚ました先はバイオテックの休憩室だった。研究員もいつ倒れるかドギマギしていたらしく、不審に思ったマリスが彼のデスクを見てみれば納得だった。




そこにはエナジードリンク缶と無数のジャスミンティーのペットボトルが転げていたのだ。どんな事をしていたかは兎も角、何をしていたかは容易に想像がついた。



「よく寝たらしいな」



「お前近々死ぬんじゃないのか?」



マリスが目覚めた博士に向けて心底呆れながらそう言った。


当たり前のようにこの感覚に慣れきっているようであり、これが常態化しているようでマリスの許容値ははじけ飛んでいた。思わず彼は博士を問い詰めるように質問を投げかけていく。



「全くどんな量の仕事をすればブッ倒れるんだ。おかしいだろ普通に考えて」



その質問にメンゲレは首をながらしながらため息をつくと思いがけないことを吐き始めた。


「このクソ野郎。責任押し付ける挙句、解読も終わってねぇ。頭がずきずきする。気がまぎれる話でもしてくれ。頭が、割れそうだ」



メンゲレは手のひらで眼底を抑えながら起き上がると慣れ切った様子で立ち上がり、月江に置かれた専用のマグカップを取ると、休憩室に置かれた残りわずかになったウォーターサーバーの冷や水を注ぎ、有無を言わさず流し込んだ。



「そうか、スギザキ。気がまぎれるかどうかは知らんがネタくらい俺は持ってるぞ。

最近ここの文化を調べる調査旅団の長が元魔導士上がりのヤツでな。そいつが——」



メンゲレは魔道という言葉を聞くなり、ミネラルウォーターを口にするのを一度やめると



「何が魔道だ魔法だ。それ以上言うな。安っぽいクソみたいな小説本みたいなこと言いやがって、焚書したくなる。」


ため息をつきながらそう突っぱねた。都合の良い世界というものが大の嫌いなひねくれ者である博士はこれらの技術を冒涜する存在が好きではないのだから。



相変わらず態度の変わらないメンゲレにいつも通りの反応を返しつつ、マリスはインスタント・コー

ヒースティックを使っていいかと尋ねた後に土産物を取り出すかのように口にしだした。



「おいそう急ぐな。旅団長曰く、当然魔力とかいうのを消費して魔導というのを使用するらしいが、その源ってのを聞いたんだ。そしたらな…」



「ばかばかしい。石油ストーブを灯すのに灯油がいるのと同じだ。うちで飼ってるザリガニみたいな物理学者連中が阿鼻叫喚だったよ。そのクソッタレ【魔力】ってのが検出できねぇだの喚いてた。

言わんこっちゃない。マリス、次ふざけたことを言うと顔の皮を剥ぐぞ」



まるで家畜を屠殺するような死んだ目つきを向けながらマリスに圧力をかけた。


陰謀論めいた与太話に付き合う程博士は馬鹿ではない。そんな眼差しを向けながら湯の入った電気ケトルをマリスに渡すと、彼はつづけた。



「お前も話を聞かないな。その魔力源となる聖水とかを作る材料として植物の変種を使うとか言っていたんだ。言っておくがお前をたきつける出まかせじゃあない。

旅団が調査に入るような案件になっているらしい、信ぴょう性は高いと思うんだがな」



メンゲレが邪悪かつ異常に口が悪いのは今に始まったことではない。

そのことを良く知っていたマリスはあえて彼を挑発するように言って見せた。



安い挑発には皮肉で返す博士だったが、学問のことや似非科学になると話は別である。


適当な紙コップに入れられたインスタントコーヒーを湯で溶かしていた時メンゲレはマグカップに冷水を足しながら半ば苛立ちを隠さないようにしながらこう返した。



「——こればかりは私の世界一嫌いな似非科学と黒魔術をけちょんけちょんできるいい機会を用意してくれて感謝しよう。舌論でも論破できそうなものだが私は性格の悪い人間ってことはよーく知っているはずだ」



「ありとあらゆる分析結果をたたきつけて魔導というのがトリックであることを暴いてやる。お前の挑発にあえて乗ってやろう、だが私の大人気のない力をフルに使わせてもらう。お前らの泣き目を見ても私は爆笑するだけだからな。研究テーマは決まった。実験手順でも考えるとしよう、お前はもう帰れ」



博士は片目をつぶり、もう片方を見開いたフクロウめいたより一層邪悪な顔をマリスに向けた。安い挑発が博士の底知れぬ知的好奇と考察力に火をつけてしまったことを意味していた。


次回Chapter28は8月22日10時からの公開になります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ