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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第九十五話 庇護欲

最初の寄港所であるリバー島を出港してから三十九日目。

一行を乗せた船は無事に二か所目の寄港所にたどり着いていた。

リバー島とは違い、肌寒いと言う程ではないが上着は欲しい程度の気温ではある。

もうすぐ港に横づけしようかという頃、刀一郎と次良は船首に立ち胸を躍らせていた。

すると、そんな二人に歩み寄り、船長である青井が告げる。


「お二方、お願いですから今回は大人しくしていてくださいよ?」


この二人とて流石にこの間の騒動には少し悪い事をしたと思っている節もあり、お互いに顔を見合わせると頷いた。


「よ~し、じゃあ荷物を積み込む班と下ろす班、各自決められた配置に就けっ!」


沖村の威勢の良い号令がかかり、船員たちはキビキビと動き出す。

それを眺めながら刀一郎と次良は桟橋に掛けられた木板を伝い港へ降り立った。

すると、後ろからその後に続いたのはアレクシア。


「トイチロ~、一緒にイク。」


どうやらお目付の役割も兼ねているらしい要人一行もそれに続き、港で待っていたロメル軍の迎えと共に施設へと赴く。

そこでは既に、伊吹達学者一行、青井とその補佐、そしてこの基地の責任者が顔を突き合わせて何やら話し合われているようだ。

どうやらアレクシア達もそれに同席するらしく、刀一郎と次良はそれぞれ勝手に散策を始めることにした。


『おかしな気配はない。心配するな。』


刀一郎が奥に広がる森に視線を向けていると、白姫が語り掛けてくる。

どうやらある程度思っていることが伝わってしまう関係性のようだ。


「そうか…ならばよいが、結局あれは何だったのだろうな。」


『私は知らぬが、向こうは知っているみたいだったな…お前のことを。』


「誰かと間違えておるのだろう、神に知り合いなどいるはずもない。」


『……そうだな。』


白姫と語り合いながら森の方へ進んでいくと、今回は誰にも邪魔されることなく足を踏み入れることが出来た。

やはりこの島も開拓は殆ど行われていない様で、原生林がそのまま広がっている。

寄港所としての機能だけを最優先に作られたといった所なのだろう。


「ここには原住民とやらもいない様だな。」


『ああ、ここには残る必要性が無かったのだろう。だが、中々に良い場所ではないか。』


言われ上に視線を向けると、木々の間から差し込む木漏れ日が心地の良い気温を保ってくれている。

そしてさらに先へ進むと、落差二十メートルはあろうかという滝があり、少し肌寒いくらいに霧状の水分が空気中を漂う。

刀一郎は今まで見たこともない絶景の余韻に暫し浸った。


『そろそろ戻らぬか?帰り着く前に暗くなってしまう。まあ、お前なら視界が悪くともどうということは無いだろうが。』


青井隊長にも釘を刺されている手前あまり勝手も出来ないと、刀一郎は早めに戻ることにした。

そして駐屯地へ帰り着くと、丁度夕食の準備を始めているらしく、係の者が器を並べ料理を盛り付けている所。

やはり王族と共に卓を囲むことは許されていないのか、アレクシア達は別室での食事らしい。


「おっ、肉があんじゃねえか。やっぱ男は肉だよなぁ~。芋とか干物とか食い飽きたぜ。」


一仕事終えて戻ってきたらしい沖村は卓へ並ぶ料理を眺め、舌なめずりをしながら嬉しそうに語る。

そして後からやってくる皇軍の兵達も皆一様の反応を見せていた。

食事を終えると、刀一郎は月を眺めながら歯磨きを始める。

ちなみに道具は、木を削って作った自前である。

すると、隣に立ち同じように歯を磨くアレクシア。

少し経ち、ニィ~っと磨いた歯を刀一郎に見せた後、横に腰を下ろし空を見上げた。

月を眺めるその横顔は、年齢相応とは呼べない憂いを帯びており、多少の不安を抱かせる。

そして視線を動かすことなく囁くように語った。


「皇国は凄くイイトコロ。ロメルもイイトコロ。でも、ワタシには少し…」


アレクシアは表現したい言葉があるのだろうが、その言葉をまだ知らないのだろう、もどかしいといった表情をしている。


「アーロン兄さまハ、心配シテ付いてきてクレタ。カンシャ、カンシャ。トイチロにもカンシャ。」


向ける笑顔にはいつもの快活さが無く、刀一郎はこの子供を守ってやりたいという思いが沸き上がった。

しかしそんな感情も筒抜けになっているのだろう、白姫が釘をさす。


『王族ともなれば色々あるのだ。余り首を突っ込み過ぎるなよ。火傷ではすまんぞ。』


(そんなことは分かっている。だが…子供がこんな顔をしているのは…)


刀一郎の如き自由な身の上には分からない苦悩があることを理解してはいる。

だが、感情は中々思い通りにはいかない。

数か月であっても、過ごした時間の中でアレクシアが見せた子供らしい笑みはとても愛らしいものであった。

その笑みに影が差すのを、刀一郎は許容することが出来ないのだ。


「そろそろネル。トイチロも早くネル。オヤスミ。」


その背を見送りながら、刀一郎は思った。

この子供がどうしようもなく辛くなった時は、必ずこの手を差し伸べようと。

そんな決意を胸に秘め、夜は更けていった。


▽▽


次の日、意外に早く出港の準備が整ったらしく、昼過ぎには港を出ることになった。

空は曇天模様。

刀一郎は昨日のこともあり、念のためアレクシアの部屋を訪ねると、


「あっ、トイチロ良い所にキタ。チェスヤロ。」


昨日の愁いを帯びた顔などどこへやら、いつもの子供らしい笑みを向けてくる。

刀一郎はそんなアレクシアにほっと胸を撫で下ろすと、向かい合って遊戯に興じるのだった。

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