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白鬼  作者: 遠野大和
第一章 旧世界編
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第四十九話 刀一郎対雷安1

「戦をしようと申されましても…」


活きの良い事を語った刀一郎だったが、どうにも帰って来る反応が鈍い。

それもそのはず、後方に控えている兵を含めても精々五十。

対するは少数精鋭で選び抜かれた五百であり、装備の質も段違い。

まともな戦になどなろうはずがない。

しかし、宣戦布告されながら何も反応しないわけにもいかず、


「あ~、ちょっと隊長に聞いてきます…」


実は今回の行動には、伊邪那にも一騎当千の猛者がいるということを知らしめる意外にも、他の狙いがあった。

そこは転んでもただでは起きない阿斗里の事、抜け目ないのである。

その狙いとは、この機会に内側に入り込んだ外国の間者を一掃しようというもの。

敵もさるものであり、潜り込んでいる者はこの地に住む者と容姿では全く区別できない。

その上、どうやって学んだのか言葉まで淀みないと来ているのだから質が悪い。

恐らくその者達は、この機に乗じて皇国との軋轢を決定的にするため動くと阿斗里は踏んだ。

つまり、伊邪那から送られたのはその疑いがある者と、それを監視する者だけなのだ。


(今の所は動く者無し…か。)


監視の者たちは一挙手一投足に鋭く目を光らせていた。

監視役として同道しているのは、(たつ)伊助(いすけ)、そして(いたる)の三人である。

至の場合、万が一の時の予備戦力という意味も兼ねている。

そうこうしている内に、基地内から大柄な男が連れられてきた。


「おお、異人の者もいるのだな。どことなく阿斗里と似ておる。」


連れられてきたのは、重槍部隊隊長の雷安。

その顔は困ったように眉間に皺が寄っている。


「九条雷安ダ。今は忙しい…お前と戦って我らに何か得るものがアルカ?」


最早完全に戦などと言う空気ではなく、刀一郎も困ってしまった。

これでは二つの目的のどちらも達成出来ずに終わってしまうと。


「ある……己よりも強き者がいるという現実を、お前は知ることが出来るだろう。」


「…そんなことは既に知ってイル。他になければ戻らせてモラウ。」


刀一郎にとっての精一杯の挑発のつもりなのだが、それすらも全く響いていない。

それもそのはず。

雷安はしょっちゅう皇国最強の男から指導を受けている。

その度にまるで歯が立たず完敗しているのだ。

慌てた刀一郎は波風から飛び降り雷安の腕を掴んだ後、必死に頭を巡らした。


「ま、ま、待て。それでは困るのだっ。話を聞いてはくれんか…」


懇願するような刀一郎を不憫に思ったのか、雷安は曇った表情で語れと促す。

これが最後の機かもしれないと、刀一郎は必死に今の状況を小声で説明した。


「うむ、ナルホド、確かにそれは我らにとっても面白くナイナ。」


雷安は顎に撫でると思案に耽る。

これから共に手を取り合おうとなった時に、後ろから討たれては堪らない。

ちなみに皇軍は優秀な者達が内側に目を光らせている為、その心配は無いと言っていいだろう。

そもそも素性のはっきりしない者は、雷安達の様な例外を除いて軍には入隊すら出来ない。


「いいだろウ。だが・・・・やるからには本気で行かせてモラウ。死んでも知らンゾ?」


その言葉を聞き、漸く武人としての役を果たせると刀一郎は心が躍る。

だが、その前にやっておくことがある為、一度味方の所へ戻り声を掛けた。


「これから、皇軍代表との一騎打ちと相成った。これはお互いの誇りを賭けての死合である。」


そして、並ぶ者達を見渡し再度告げる。


「何があっても手を出すことはならんっ。もし出せば、互いの関係は修復不可能なものとなろう。」


これはつまり、手を出すなら今だぞと言っているに他ならない。

この男はこの男なりに与えられた仕事をこなすため必死なのである。

刀一郎はそう告げた後、波風を預け悠然と佇む雷安のもとへと向かった。


「済まない、待たせたな。」


「構わナイ。どうせやることは変わらんのだからナ。」


「む?火筒は使わんのか?盾も向こうに置いたままではないか。」


「必要ナイ。元々火筒は使わン。盾はお前が火筒を使わんなら持っている意味もナイ。」


雷安はそう語った後、これ以上の問答は無用と二百糎を超える斧槍の切っ先を向ける。

その眼光は鋭く、刀一郎は初めて相対する己の命を脅かす存在に心が震えた。

そのことが示す通り、刀一郎は求めていたのだろう。

武人として命を燃やせる相手が現れることを。


「参るっ!!」


飛び出したのは刀一郎。

圧倒的な距離の違いに臆することなく、まるで斧槍の切っ先に頭を突っ込ませる様にして斬り込んだ。

狙いは白鬼による斬撃で早々に相手の得物を断ち切ること。


「ぬっ!?…させヌっ!!」


だが、様々な情報を得ている雷安には白鬼が普通の武器でない事も伝わっていた。

当然、それを許すわけもなく、巨体には見合わない器用な槍さばきでいなす。

流石の白鬼であろうとも、その力を完全にいなされれば断ち切ることは出来ないのだ。


「フンッ!!」


刀一郎の斬撃に対し切っ先で円を描くように流した後、雷安は淀みない動きでそのまま突きに移る。

それを半身になり躱した刀一郎は、槍の柄を踏みつけ動きを奪おうとするが、


「甘イッ!!」


何と、槍を踏みつけたその体ごと軽々と宙に持ち上げる。

刀一郎はその力を利用し後ろに飛び上がると、息を吐きながら白鬼を正眼に構えるのだった。

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