第十九話 欲との闘い
「う~む、如何とするべきか。」
ある日、刀一郎は悩んでいた。
一緒に来た者たちはすでに自分の生業を定め動き出している。
それに比べ自分はどうだと。
これではただのお荷物ではないかとさえ思い始めていた。
「俺に出来る生業とは何だ・・。荒事など起こりそうもないし、都留岐殿の部下になるか?」
これが一番確実に思えたが、何となく簡単な道に逃げたようで面白くない。
ちなみに、阿斗里が呼び捨てなのに都留岐に敬称を付けるのは年齢によるものだ。
一度阿斗里に敬称を付け読んでみたが、酷く寂しい顔をされたことが理由でもある。
結局、こうして自宅で悶々としていてもいい考えなど浮かばぬと、外へ繰り出した。
伊邪那村への移住者は村や集落単位ではなくとも、毎日それなりの人数が訪れ集会所へと向かう。
それに対応するため、竜が集会所へ常駐しており各種手続きを行っている様だ。
その甲斐もあり人口はうなぎのぼりで、もうすぐ五千を超えるという。
だが、良い事ばかりではなく、悪さを目的に入ってくる者も出始め、都留岐も大忙しとのこと。
考えに耽りながら歩いていると、気付けば太陽はもう頭の上までやってこようとしている。
どうやら、まだ鳴らす鐘がないらしく音は聞こえない。
フラフラと足が向いたのは、村の北西にある厩。
「おお、波風よ。元気にしておったか。」
愛らしい自らの愛馬(そう思っているだけ)を撫でる。
すると、驚いたような声が背中から聞こえてきた。
振り返ると、意外に若い女性が飼い葉を抱えて立っている。
「あんらま、これが懐ぐなんて珍しい。どご行っても問題起ごすがら波風なんて呼ばれでんのに。」
知りたくもない命名の経緯を知ってしまった。
何故そんな馬をあてがわれたのかは分からないが、刀一郎は結果良ければ全て良しと前向きに捉えることにした。
そんな経緯を知ってしまったからか、その姿に哀愁を感じる。
だが、自分だけに懐くというのは悪い気分ではなかった。
すこし足取りが軽くなった刀一郎は賑わう露店を眺めながら歩く。
そして目についたのは衣服を扱う店。
中に入ると、様々な動物の革や布でこしらえた衣服で溢れている。
それを見た刀一郎は店主に問う。
「店主、ここに動物の毛皮を持ってくれば買い取ってもらえるか?」
「え?ええ、状態にもよりますが、買い取りますよ。持って来て頂けるんで?」
「ああ。何の毛皮が欲しいか注文があれば探してくる。」
「おおっ!それは助かります。今ですと、狼の毛皮が不足していますね。お願いできますか?」
正に天職を得たりと、喜び勇んで刀一郎は山へと駆ける。
そして、一刻ほど分け入った時、それらしき群れを感知した。
風下を選んで進み、慎重に距離を詰める。
だが、流石は野生の獣、十側(10m)ほどに近づくと流石に気付かれた。
最初は牙を剥いてきたが、襲い掛かった先陣を事もなげに白鬼で首を切り落とすと、一際大きい一頭の合図で逃げて行く。
「首は切らない方が、高く売れるだろうか。だが、それ以外は傷つけていない。きっと大丈夫だ。」
そんなことを考えながら、慣れない手つきで慎重に傷つけないよう毛皮を剥ぐ。
だが、やはり慣れないせいか時間が掛かってしまう。
集中して半分ほど剥ぎ終わった頃、一見(1㎞)程先に小屋を感知した。
どうやら意識を集中しすぎて気付かなかったらしい。
そして不味いことに、その中にいる誰かから感じる気配は、例えるなら全身が棘に覆われているような鋭さ。
この感覚は以前覚えがあった。
あの間者である。
刀一郎は自らの運の無さを呪った。
折角金子を得る機会を得たというのに、その始まりからこれであるのだからそれも無理からぬこと。
仕方なく狩った獲物をその場に置き、慎重に小屋へと近づく。
すると、チリンチリンと鈴が鳴った。
上を見れば、近づけば鳴るように仕掛けられていた細工が目に入る。
慌てて相手の気配を探すが、猛然と遠ざかっていく途中の様だ。
最早追い付くことは不可能であろう。
肩を落として獲物を置いてきた場所へ戻ると、何かに啄まれたか毛皮はボロボロ。
更にがっくりと肩を落としながら取り敢えず剥ぐと、肉も売れるだろうとそれを抱えて戻った。
「う~ん、これだと少し状態が悪すぎますね。しかし何だか可哀想ですし、五十楼で良ければ買い取りますよ?」
恐らく買い取ってもらえないと思っていた刀一郎は、それでもいいと何度も頷く。
その後、肉もしかるべきところで買い取ってもらえ、多少の金子を得ることが出来た。
結果は残念なものだったが、取り敢えず収入源は確保したことに安堵し歩いていると、ある露店が目に付いた。
どうやら木彫りの人形を売っている店らしい。
「兄ちゃん、気に入ったのあるなら見て行ってよ。」
まだ少年と言っても過言ではない男が気さくに声を掛けてくる。
それに惹かれるように刀一郎は売り物を眺める。
まるで生きているかの如き精巧さで作られたそれは、見る者を魅了する様だ。
「これは、いくらだ?」
「ああ、川を上る大魚だね。それは百五十楼だよ。」
がっくりと肩を落としながら、自らの手を眺める。
「あはは、そんなに気に入ったのなら持ってる金子で良いよ。その代わりまた来てよ。絶対だよ。」
刀一郎は目を輝かせて礼を言うと、木彫りの魚を抱えて家路へ急ぐ。
その帰り道にも何やら興味を引くものが多数あったが、それは今は見るべきではないと目を瞑った。
帰り着くと、この素晴らしい木彫りを置く棚も何もない。
買ってこなくてはと思ったが、金子がないことに気付く。
「そういえば、鉄志には金子が出来次第持ってこいと言われていたな。またやってしまった…。」
何をやっても上手く出来ず、肝心なことはすぐに忘れる。
そんな自分に嫌気がさし、味気ない食事(空気を吸うだけ)を済ませると、不貞寝を決め込むのだった。




