第十八話 話し合い
鉄志の話が一段落着き、阿斗里が見渡して問い掛ける。
「どうでしたか?これを皆の共通認識にしたいと思っているんですが、この内容で上手く伝わったでしょうか?」
どうやら、これから村の住民たちに分かりやすい形で伝える為、その内容を考えている様だ。
確かに、四千名以上となった全員に伝えようというのだから、誰もが分かる工夫が必要だろう。
伝えるという事実よりも、定着させるという作業の方が難しいのだから。
「都留岐、どうでしたか?分からない所はありませんか?」
適当だと刀一郎は思った。
この中で都留岐が理解出来れば、それ以外の面子は理解できるだろうと。
何とも失礼極まりない男である。
「はい。問題ありません阿斗里様。この都留岐、さっそく明日から暦を使って生活いたしたいと思っております。」
自分は全て理解したということを伝えたいのだろう、その鼻息は荒い。
返答を聞き、阿斗里は何かを考え込むと鉄志と話し始めた。
「明日から朝、昼、夕と決まった時刻に三回鐘を鳴らすというのはどうでしょう?」
「いいんじゃねえか?駄目な所はその都度直すってことでよ。」
だが、そこである一つの問題が発生する。
どうやってその時刻を調べるのかということだ。
概念自体は理解しても、こればかりはどうしようもない。
「都ではどうしてるんですか?」
「はあ?そんなの日が昇ったら始まり、沈んだら終わりだよ。決まってんだろ。」
「そんないい加減なものなんですか・・。」
「ああ、きっちり調べてるやつも宮内の役職でいた気もするが、俺ら民草はそんなの気にしねえって。」
どうやら思っていた以上に大雑把らしく、阿斗里は更に頭を悩ませてしまった。
「では、太陽が真上に来たら鳴らすだけにしましょうか…それは私がやりますので。」」
会話が途切れ、ここまで黙っていた竜が口を開く。
「あの、阿斗里様。折角暦を使うのなら村の皆が分かる何かを設置した方がよいのでは?」
「確かにその通りですね。では、集会所の前と村の何か所かにそれ用の板を設置しましょう。」
竜は設置場所について心当たりがあるのか、阿斗里に進言している様だ。
そして話が決着したのかしないのか、微妙な空気が漂う中、天元が口を開いた。
「あの~、私が呼ばれた理由は何でしょうか?」
そういえば普通にいたので誰もが忘れていた。
天元だけは別の用事があって赴いていたのだということに。
「え?あ、ああ、そうでした。話というのはこの間の塩の件です。」
阿斗里も一瞬何だったかと考えるそぶりを見せた後、要件を語りだした。
塩の件とは、以前天元達が住んでいた集落傍にある岩塩を、どうやって持って来て売るかというもの。
どうやらその解決方法に至ったということらしい。
「聞いたところによると、都では地権書というものがあるそうなんです。」
地権書とは、その土地が誰の所有物であるかを示す証拠の様なものだ。
都ではそれをもって商売をやる場所を確保したり、それを売って生計を立てている者もいるらしい。
「それに倣って、うちでもそれぞれの者たちに今住んでいる場所の地権書を出そうかと思っているんです。」
少し難しい話になってきたからか、都留岐などはうんうんと頷いて理解したふりをしている。
まあ、どう考えても理解出来ているとはいえなさそうだが。
かくいう刀一郎も流石にこれだけで理解出来たとは言えず、静かに耳を傾ける。
「それでですね、岩塩の山の権利を取り敢えず天元さんに与え、それからどう使うかを考えましょう。」
すると、驚いたことに天元はすでに理解しているらしく、確認作業に移っていた。
「なるほど、では、その権利というのは譲るにしても権利者がある程度範疇を定められるということでよろしいですか?」
「はい、その通りです。家屋でしたら貸し出して金子を得ることも可です。」
「では、採掘した岩塩の売り上げの何割を我々に還元するという形での譲渡も可能と?」
「勿論です。相手方がそれに納得できれば可です。ただ、その場合信用できる相手かの見極めが必要になりますが。後、譲渡した際はその旨の報告と印をもらいに来てください。」
どのくらい売り上げているかを申告制にすれば、嘘をついて懐に入れる者も出てくるだろう。
そのあたりの匙加減が難しい所だった。
勿論、そんなことをしない信用できる相手が見つかればいいのだが、そう上手く行くものでもあるまい。
「分かりました。配慮有り難うございます。戻って皆と相談してみます。」
「あ、地権書が有効になる日はこちらから伝えますので、それまでは話し合うだけにして下さいね。」
天元は一礼し、何かを考え込みながら集会所を後にした。
その後、同じく考え込んでいた鉄志が口を開く。
「坊主、村全体の地代があまり開きすぎないようにしねえと、後々面倒なことになるぞ。ま、分かってるとは思うが。」
「はい…一応相場は把握しているつもりなんですが、これから仕事がさらに増えそうですね。」
阿斗里は苦笑しながら語る。
この村に阿斗里ほど頭の切れる者は数名しかおらず、それらも自分の生業を持っている。
そのため、自分の仕事を手伝わせるわけにもいかないのが実情。
だが、こうして村が発展していくのを実感すると、阿斗里は体の底から力が湧いてくるのだった。
そして話し合いが終わり集会所を後にしようとした時、
「あ、刀一郎さん。今回の護衛の給金です。」
そう言って、五百楼を手渡してきた。
刀一郎は軽く咳払いしてそれを受け取ると、何に使うか心を躍らせながら帰路に着こうとしたが、
「おい、刀一郎。」
鉄志が手の平をゆらゆらとさせ、何かを催促してくる。
刀一郎はそれが何を指しているのか分かっているのだが、差し出すのに躊躇ってしまう。
しかし、出さざるを得ないのも確か。
こうして、得たばかりの給金は右から左へと流れるのだった。




