1 この世界はオタクを求めている!
電車が揺れる音を立て静かな車内に響きわたる。
消して人がいないわけではない、電車の車内は静かな方が自分はうれしい。
周りを見ると座りながら一点を見つめる人、死んだような表情でつり革を握り立っている人、これが普通の朝の光景だ。
仕事に行くのが苦痛な人が大半なのだろう。
朝早く起き、朝食を食べ、仕事に行き、帰ってご飯を食べ、寝る。大変な一日だが普通だ普通過ぎる。
だが何のために仕事をするのだろうか? 生きるため?それが普通なのだがそれだけでは足りない。
必要なのは娯楽、娯楽がなければ嫌いな仕事なんてしたくないはずだ生きるなんて二の次。
仕事から帰ってきて冷蔵庫を開けるとそこにはキンキンに冷えたビールそれを楽しみに生きる。
休みの日に録画していてたまっていたアニメを一気見するために生きる。
人それぞれの娯楽があり楽しみがあるそのために毎日頑張る、頑張り続ける。
それがすべて失われたとしたら、何のために人は生きるのだろうか。
車内に座る少年は顔を後ろに動かし窓の外を見る。
そこに広がる景色は一つ一つ違う形の家が普通らしい、だが今は違う。皆同じ形で正方形でできた一色で塗られた何の楽しみもない建物が並んでいた。
そうこの世界こそ娯楽と言うものがなくなってしまった世界。
遠い昔、楽園法と言うものが設立され楽しむことが禁止された。
ビールなんてものもアニメなんてものもないすべての娯楽、楽しむ物が禁止されている。
今乗っている電車だってそうだ、楽しませるための工夫が一切ない。見た目は長方形の形何の装飾もされていない。家も電車も豆腐のようなものだ。
「はあ……」
ため息交じりで顔を車内に戻す。
そこには先ほどと同じく一点を見つめる人と死んだような表情をしている人が何人もいるのだが楽園法のことを考えてみると見え方が変わってくる。
楽しみもなく生きがいがないこの世界で何のために生きているのか分からないように見える。
けれど自分にはどうしようもないそれが世界のルールなのだから。
1この世界はオタクを求めている!
自分の名前は錆月 灰斗高校の入学式がこの前終わり今日から本格的に学校が始まる日なのだがウキウキはしていない。
変わるため勉強を毎日頑張りこの学園に入れば就職に困らないぐらい偏差値の高い終楽学園に合格した。
ゲームも漫画もスポーツすらも禁止された世界。この学園に入ればこのつまらない毎日がすべて変わると思っていたのだが現実は違った。
入学式の日着ていた男子の制服は白と黒の地味な制服まだこれはいいのだが問題は女子の制服、少し違う地味な白と黒の制服は同じなのだが問題は下半身の方、着ているのはジャージ生地の黒い長ズボンこれはひどい。せめて女子にはスカートはかせてくれよと思うぐらいだ。
……と、おしゃれもこの世界では禁止されている。今自分が来ている物はその学園の地味な制服だ。
楽園法律のせいでどこに行っても変わらない楽しみのない世界だ。
電車に揺られ学校に向かっている自分の目の前には同じ制服を着ている人もいるもちろん女子はズボンをはいている。
ああ、こんな世界つまらない誰か変えてくれないかな。
……そう自分が願ったときだった。
「どいてくれ!」
そう大きな声で叫びながら前の車両から一人の男が人を押しのけながら走ってきていた。
その後ろからは白い帽子と青い縦ラインが二本入った白い学ランのようなボタンが留めてある特徴的な服を着ている人物がその前に走る男を追ってきており人ごみにさえぎられたその男を取り押さえる。
自分は白い服を着ている奴を知っている。その名もEnd paradise通常EP。楽園法律を管理し違反者を取り締まる組織だ。その印に胸元に鷹の絵が描かれた小さなバッチがついているのが見て取れた。
「放せ!放せよ!」
必死に抵抗する男の手には携帯ゲーム機が握られており画面には選択肢の場面で止まているギャルゲーが起動していた。
「こちらB-102違反者を確保した。次のホームに着き次第連行する」
EPが逃げた男を羽交い絞めにしながら服から無線を取り出しそう告げた。
まあ自分には関係ないことだ。ほかの乗客なんかはこの光景すら見ていないこれ普通の出来事なのだ……普通、普通、普通。
「畜生……何で、何でゲームしてただけでこんなことになるんだよ! ただ楽しむことが悪いことなのかよ! なあ、お前らもこの世界はおかしい、そう思わないか!?」
必死に逃げゲーム機を握る男は乗客、自分たちに訴えかけるが自分以外は聞いてもいない様子だ。
「誰か、助けてくれよ……」
かすれた声で助けを求める……おい、誰か助けてやれよ。なんで誰も見ても聞いてもいないんだよ。
自分はこいつの言っていることが分かる気がする。何故楽しむことがいけないことなのか、何故これが普通なのか、分からない。
じゃあどうしたらいい、どうしたら、どうしたら。
「……あ」
その時ギャルゲーの画面に目がいく。
画面に映るCGは女の子が男に襲われている画面、選択肢は……。
1 助ける
2 見て見ぬふりをする
その二択……。
分かりきったことじゃないか、どうすると悩んだところで解決しない。選択肢は二択、あってると思う方にカーソルを合わせボタンを押す。簡単な事じゃないか。
自分は膝の上に置いていたカバンを開け、中に入っている物を確認する。
ノートに筆箱に財布、そしてハンカチに逃げた男が持っていた形と同じ携帯ゲーム機が中に入っていた。
自分があっていると思う方にカーソルを合わせて押す、その答えは『助ける』一択だ。
「ほら、立て」
ホームに着き扉が開いた瞬間、無理やり男を立たせ、人を避けながらその扉を出ていく。
その姿を横目に見ながらハンカチを取り出して口元を覆い隠し、急いでそのあと追いかけてゆく。
ホームには朝と言うこともありかなりの人がいるが自分の目はしっかりと対象を見つめており人を避けながら走り出す。そして男を拘束するEPに対しものすごい勢いでタックルをかました。
「いって!」
「ご、ごめんなさい」
タックルをうけたEPは派手に転倒するのを見てこうゆうことをしたことなかったので反射的に謝ってしまう。
携帯ゲーム機を持ち逃げていた男は拘束が外れた瞬間一目散に出口へと逃げ始める、その去り際に小さな声で「ありがとう」と聞こえた気がした。
……この後どうすればいいんだ?
目の前には倒れてるEP、このままだと起き上がりつかまってしまう、となれば逃げるしかない!
自分も逃げた男と同じ方向へと逃げ始める。
「こちらB-102、反逆者が現れ違反者が逃げた。応援を求む」
EPは急いで立ち上がると無線機を取り出し応援を呼びながら逃げた人物を追いかける。
………
……
…
「はぁ、はぁ」
駅から出た時にはすでに三人ものEPが待ち構えており、それを横道に入りなんとかかわして逃げている真っ最中、がむしゃらに逃げる。
苦しい、ハンカチでうまく呼吸が出来ない、外そうにもいつEPが現れ顔を見られるかわからない。少しは運動してればよかった。
そんなことを考えながら同じ正方形の形でできた家の横を駆け抜ける……だが。
「えっ」
そこに待ち構えていたのは行き止まりだった。
この街の道を覚えている自分でも焦ってパニックに陥った状態で同じような景色の街中をがむしゃらに走ればこうなることは分かっていた。
「クソ!なんでこの街は豆腐みたいな建物ばっかなんだよ!」
怒りを行き止まりの壁に叩きつける。
すぐ後ろにはEPの追いかけてくる足音が聞こえる、ここから折り返してEP4人を一直線の道でかわすことなんてできない。
拘束されれば何をされるかわからない、噂によれば洗脳され廃人のようにされると聞いたことあるがそれがホントなら絶対につかまるわけにはいかない。
あきらめないぞ、何か可能性があるはずだ。
必死に勉強して努力して手に入れた頭で考える。考える。
この嫌いな世界でやっと決心して小さなことだが一つのことが出来た、それも大きな進歩、これからも自分は正しいと思ったことをする。
「君はそんなにも世界を変えたいか?」
その時壁の向こうから渋い声が聞こえた。それは自分に対する質問だったがそんな答えは決まっている。
「ああ、こんな世界変えたい」
こんなつまらなく息苦しい世界を自分は変えてしまいたい。そう心に決心していた。
「……うむ、その言葉が聞きたかったのだ、ほれさっさと逃げるぞ」
渋かった声は明るい可愛らしい声となり、行き止まりだった壁は『ジー』っとゆう音と供に割れそこから伸びてきた手につかまり引きずり込まれた。
「えっ、うわあああああああああああ」
………
……
…
「いて」
雑に放り出されたその先は裏路地のような薄暗い場所だった。
あまりにも強烈な出来事だったため少し意識が飛び壁が割れた中に入りどうやってここに来たのか覚えていなかった。
「どこだろう、ここ」
ハンカチを外し辺りを見る。
薄暗い道の先に一筋の光が見えたのでとりあえずそこに向かい今いる場所を確認しようと思った。
コツコツと足音を響かせ光に向かい歩く。歩き、向かったその光の先には。
「うわぁ、すっごい」
綺麗な建物、自分がいた豆腐のような建物と違いちゃんとした形がある大都市だった。
高く大きなビル、それに建物内を見るとおしゃれな服が置いてあったり、ゲームショップなどが見てとれる。
「ゲームの中で見た景色と同じだ」
その光景に見とれていると目の前の地面が二つに割れ、赤色の大きな矢印の書いてある看板が飛び出してきた。
……この方向に進めばいいのかな?
そう思った自分は辺りを見回しながら矢印通りにすすんでいった。
少し進むと矢印はある店の前で止まった。名前はバー・イケガミ。下に降りる階段があるようなので階段を下り一枚の扉を抜けるとそこには。
「お兄ちゃん、おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」
笑顔で出迎えてきたのはよぼよぼの『嫁』と一言書かれたTシャツを着た年下であろう女の子だった。
「えっと……誰ですか?」
自分いまものすごく困惑している。自分には妹はいない一人っ子なのだから。
「……あれ、おかしいな。ここ萌ポイントのはずなのだが何が足りなかった。こんなよぼよぼのエッチイ服を着て妹を名乗る美少女が現れたら普通興奮するだろJK。第一声が誰確認する前に押し倒すだろ普通。はぁ……これだからあっちの世界のもんは嫌だねえ」
も、ものすごい早口で何か言うがいくつか聞き取れない部分があった。一体何を言っているんだこの子は。
「まあはいんなよお兄ちゃん」
けだるそうな口調で手招きしながら呼ぶのでお言葉に甘え入ることにした。
この店はバーと書いてあったが中は実際違っており普通の家のような内装。廊下を進み突き当りの部屋を開け中に入る少女の後を追う。その中は。
「ようこそ、私たちの世界へ」
いくつものモニターが設置されておりそこにはこの街の風景と自分が元居た街の風景が映し出されていた。
「どうも自分は錆月 灰斗って言います」
ぺこりと頭を下げとりあえず自己紹介をしてみた。
「あ、こちらこそどうも私はカナタと言いますよろしく……まあ、自己紹介は大事だけどね。何がどうなってるとか、妹と名乗る君はいったい誰なんだとか聞くこといっぱいあると思うけど? まあいいやとりあえず私は誰かってことから話すね」
モニターの前に置いてあった椅子に『どん』と音を立て飛び乗るように座った少女は手を組みこちらを向いて話し始める。
「単刀直入に一度しか言わないからよく聞いてくれ。お兄ちゃんの両親はなくなっているだろう? 嫌なことを思い出させるようで悪いが重要なことなんだ」
確かに自分の母親と父親は事故で死んでしまった。だがなぜ彼女はそのことを知っているんだ? その疑問はすぐに説かれることとなる。
「楽園法律の恋愛事情お兄ちゃんも知ってるでしょ?」
「ああ」
楽園法律の恋愛事情……年齢が十八歳を超えると国からランダム選ばれた男女が強制的に付き合わされるというものがあった。自分の父親もすきでもない女性と結婚させられたのは知っていたそれで自分が生まれたことも。
「お兄ちゃんのお父さんは好きでもない女性と付き合うのがものすごく嫌で真実の愛を探し見つけた結果が私カナタと言う存在。つまり二股かけて作り出した隠し子、お兄ちゃんの半分の血を引く妹ってわけ」
「……なるほど、君が自分のことをお兄ちゃんと呼ぶ理由がよくわかったよ」
これで自分のことをよく知る理由が分かった。だがまだわからないことだらけだ、この世界の事、今後どうしたいのかと言うことを。
「案外簡単に信じるんだね、少し疑うと思った」
少女は悲しそうに微かに笑う。
「まあ父親が楽園法律反対派の人だったから。この携帯ゲーム機だって父親が残してくれた物だし」
ゲーム機、この世界が詰まらないと気づかされた代物。このゲームの情報でスカートや漫画の存在を知っていた。
そう言って肩掛けのカバンからゲーム機を取り出すと、悲しそうだった少女の顔が急変し目が光りはじめる。
「そ、それはこの世界に数台しかない限定カラーのFGFじゃん、すっげー初めて生で見た。ねえ、もっとよく見せて!」
椅子に乗り上げ食いっと体を前に寄せてくる。近い、近いって。
「あの、話の続きを」
「おっと失礼、次はこの世界の事でも話すかね」
………
……
…
で、話を聞くとこちらの世界のことはカナタでもよくわかっていないらしい。
父親に言われこの世界を管理しており、事故で死んでしまう前に言った一言は「お前の兄を探し世界を変えてくれ」だったので自分を探してやっと見つけた時にEPに追われていたので助けたとのこと。
「こっちに来る前に一度聞いたけどお兄ちゃんは世界を変えたいんでしょ」
「ああ、変えたい」
「私も同じ」
世界を変えたい、だがどうしたらいいのか分からない。この世界には人がおらずカナタだけだと言うがたった二人で世界なんて変えられるものだろうか。
「だからお兄ちゃんには今からオタクになってもらいます!」
「はぁ、急にどうしたの?」
何を言い出すんだこの子はと言う目でカナタ見ていると胸を張りながら語りだす。
「この世界の楽しさを伝えるためには娯楽の知識が必要でしょ、つまりオタクになるいいアイデアでしょ」
「はぁ……」
あいずちしかできないくらい勢いで押されてしまっているときサイレンが鳴り響く。
一つのモニターが中央により巨大化されると先ほどつかまって一緒に逃げた男もう一度つかまりロープで拘束され広場で晒されていた。
「ど、どうする?」
「どうするって、お兄ちゃん一度決めたでしょ。一度選択肢を選択したら変えられないよ」
そうだ一度自分は決めた。助けるって選択したはずだ。覚悟を決めたはずだ。ここで迷ってどうする。
自分はカナタを見てうなずくと笑顔で答えてくれる。今回は一人じゃないんだ。やってやる。
「そのまえにいい機会だからまず見た目だけでもオタクにならなくっちゃね」
「えっ」
「世界を変える第一歩、世界はオタクを求めてる!」
そう言い立ち上がると腕を引っ張り奥の部屋へと連れていかれた。
=====
何人ものEPが取り囲む中一人のEPが
「聞け、こいつは楽園法律に違反したどころか我々End paradiseに暴力を振るったこれは許されざることだ」
豆腐の家に囲まれた広場には人々は集まることなくただ死んだような眼をしながら歩き通り過ぎる。
「くそぅ……畜生……」
涙を流しながら縄をほどこうとするがしっかりと固定されており外れることはない。
「しかも何だこの薄い本は、見るまでもない、これより燃やす」
逃げた男のバックの中からは沢山の薄い本が出てきて、表紙には可愛い女の子の絵が載っている。
「そ、それだけはやめてくれ。必死に集めたんだ」
泣きながら叫ぶがその思いは誰にも届かない。
胸元からライターを取り出し火をつけてそのまま本の山に落とす。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
世界はスローモーションになるゆっくりと時の流れが進んだ。その時、男は助けを心の中で強く願った。
「サイリュウムロケット!!」
時が戻ったとき、緑色の光とともに何かがライターを飛ばし床に叩きつけた。
「誰だ、何が起こった!」
EPの連中が辺りを見回したときある人影が目につく。
ひときわ大きい正方形の豆腐の建物、その上に立っているのはお面をした人物、服はチェックの服にカバンに長い筒のようなものが二本刺さっており、ジーパン生地のズボンにはサイリュウムが片足に三つずつつけられている、その格好はまさに……オタクだ。
「間に合った」
豆腐の建物から飛び降りてEPの方を見る。
「な、何だこいつは」
お面の男は胸に手を当て叫ぶ。
「俺は楽しく笑顔にあふれる世界に変えるオタクだ、この顔をよく覚えとけ!」
そう言うと胸にあった手を太ももについているサイリュウムを一本取り拘束されている男に向かって投げつける。
するとそのサイリュウムは一気に加速しロープをピンポイントに切り落としまたお面の男のもとにサイリュウムが戻っていく。
「逃げろ!」
その言葉を聞いた男は素早く逃げる体制をとるがEPは辺りを取り囲んでいたた逃げることが出来ない。
「道は開く、サイリュウムロケット!!」
そう言い今度は六本すべて両手に持ちEPに投げつける。
そのサイリュウムはEPの間を飛び回り少しずつEP同士の距離を開けてゆく。その隙を男は見逃すことなく間を切り抜ける。
「まて!」
手をのばし逃げる男を捕まえようとするがそれもまたサイリュウムにさえぎられてしまう。
「くっ、その男は後だまずはこいつ、この変な奴から取り押さえるぞ!」
男が逃げたことを確認して足を後ろにやり走り出す。
「こいつ逃げる気だ、追え!」
EP達は腰につけていた拳銃を取り出すとお面の男を追い始めた。
=====
楽園法律の違反者を助け、EPに暴力を振るい、反逆者になってしまった。でも後悔はしていなかった。
「お兄ちゃん敵は十人、まとめて相手するとてこずるから一人ずつ誘い出して」
「了解」
お面から直接脳内にカナタの声が響き渡る。
個室に連れていかれた後、着替えさせられ、カナタにいろんな道具を持たされた。
このお面、『魔法少女☆マジカルミミ』の主人公ミミのお面。顔を隠す役割と通信機の役割を持つ。
そして先ほど投げたサイリュウムは飛ばすとロケットのように飛んでいき帰ってくる。
そんな不思議な道具、この道具はカナタ自身が作ったらしい。すごい才能なものだ。
「お兄ちゃんそこの分かれ道デコイを使って」
走りながら服の下からカードケースを出し、中から一枚カードを取り出して分かれ道に一枚投げ自分は投げたカードとは別方向に走る。
「待て……な、何だ」
EPの連中も先ほどの分かれ道にたどり着くと二方向に先ほどと同じお面の男が走っていく様子が見て取れた。
「俺はこっちに行く、お前はこっちのやつを追ってくれ」
そう言って二手に分かれる。
さっき投げたのはカードデコイ。名前の通りカードの形をしている物だがこれを地面に落とすと効果が発動しカードから3Dホログラムが飛び出す。これを使い自分の3Dホログラムを出しデコイとした。
これのおかげでEP連中はほぼバラバラになった。だがまだ終わらない問題はここから。いくら逃げようと先ほどの男は顔を覚えられているため時間がたてばつかまってしまう。じゃあどうするのか、その答えがこれだ。
「やっと追い詰めたぞ」
EPから逃げて行き止まりに差し掛かってしまったがもう追ってきているEPはデコイのせいで一人だけ。
錆月 灰斗はカバンに刺さっている筒のようなものを一本抜き前に構える。
相手は拳銃を持っているも本物ではない、EPに支給されている拳銃の中身、飛び出すのは丸いゴムの玉。だが当たり所が悪ければ致命傷にはなる。お面をつけ目や前は守られているが向かっていくのは相当な覚悟が必要だ。
「すーっ。はぁ……いくぞ!」
一度深呼吸をして覚悟を決め走り出す。それと同時にEPが構えていた拳銃の引き金を引きゴムの玉が発射される。
そのどうさを見た灰斗は筒のようなものを両手で広げた。
「なっ……馬鹿な!?」
広げられたのはキャラクターの絵が描いてあるポスターだった。だがEP驚いたのはそこだけではない。
初戦ゴム弾と言っても高速で打ち出されるため威力は高い。なのにもかかわらずポスターには傷一つついていなかった。
「すきあり!」
灰斗はその隙を見逃さなかった。その広げたポスターを一瞬で巻き上げ、間合いまで踏み込み切りつけた。
EPはその場に倒れ込み動かなくなってしまった。
でも消して死んだわけではないこのポスターの効果だ。
このポスターもカナタが作った一つ『巻けば剣に広げれば盾に』と言う代物で名前の通り巻いて叩けば相手を気絶させ一日の記憶を飛ばす。広げればポスターがカチンコチンになり盾になる。
そう作戦はこのポスターでこの件にかかわったEPを全て叩き記憶を飛ばすそれが作戦なのだ。
「あと九人、カナタよろしく頼む」
「了解」
こうしてバラバラになったEPを一人ずつ倒し記憶を飛ばしていった。
………
……
…
こ、怖かった
その言葉が頭をよぎる。
「お疲れ、初めてなのにうまくいったね」
「ああ、個室に連れていかれてマシンガンのように道具の説明を聞かされた時は無理だと思った」
バー・イケガミに戻って来た自分は床に突っ伏していた。
「まあうまくいったんだからいいじゃん。ほれ、ご褒美に頭なでなでしてやるぞ」
「遠慮しときます」
そう言い立ち上がると自分はそそくさと出口に向かった。
「どこ行くの?」
「帰ります」
「えーこれから長い夜を二人で過ごそうよ」
「帰ります」
「わ、分かったよ。明日も来てくれる?」
寂しそうに出口に立つ自分を見るカナタそれに向かい微笑みながら自分は話す。
「約束したじゃないですか、世界を変えるって。また明日も来ますよ」
「お、おう。待ってるからな」
満面の笑みでカナタはそう言ったのを聞いて自分はバーを出た。
そうこれから始まるんだ、世界を変える第一歩。
小さな一歩だけどこれが未来につながると信じている。
「……あ、学校サボっちゃった」
ま、いっか。
1 この世界はオタクを求めている END
小説を書くのが初めてなので、誤字脱字などがありましたらご報告ください。




