「迷-しんじつ-宮」 3
京介は元のホテルをチェックアウトの手続きをし荷物を持ち直ぐに立ち去った・・・
ホテルの従業員は突然のキャンセルに戸惑いを見せていたが俺にとってはどうでもいい問題だった
それより、あっけなく見つかってしまった「(株)MIO」の存在の方が不自然な気がしてならなかった・・・
まるで、自分が来ることを最初から分かり、導くかのように辿り着いたあのビルは異様なものを感じていた
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『そこの角を曲がったところでいいです』
京介はタクシーの運転手にそう告げると急いでビルへと向かった
「取りあえずこの辺のホテル・・・いや・・このビルの中に入り込んで・・・しかし・・どうする・・どうやって中に入り込む・・・」
ビルを見上げた・・・
「入り口のガラスを割るしかなさそうだな・・・母さんに酷いことした会社だ、それぐらいしても罪にはならないだろう・・」
京介は正面玄関の前へと向かった・・・
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その前夜の出来事・・
[(株)MIO役員室 ]
ジャニスが役員室のPCを操作している時に紗江が現れた・・・
「何故だ・・紗江は今データを吸い上げる為にベットに固定して眠らせていた筈だ・・・」
『フフフ・・何・・驚いちゃってるの?ジャニス・・・』
『貴様は誰だ・・』
『私は紗江よ・・・』
両手首、両足から血が滴り落ちていた・・・
「紗江には、ジャニスの名は知らせていないはずだ・・・」
『嘘をつくな!紗江が私の名を知るはずがない!』
『フフ・・相変わらずね・・・』
「なんだ・・この人格は・・?」
『止まれ!動いたら殺す』
『へぇ~・・最後の傀儡をあんたに殺せるの?』
「何・・・最後の傀儡だと・・どういう事なんだ・・?」
ジャニスの背中に冷たい汗が走るのを感じた・・
おぼつか無い足取りで紗江はジャニスの元まで近寄り、そして、ジロリと覗き込むように顔を見上げてきた・・・
『アンタのせいで・・・もうこの体に居れることが出来なくなりそうだよ・・・何回私を殺せば気が済むの!』
『なんのことだ!』
紗江はジャニスの首にかけてきた
『グッ・・お前は・・誰なんだ・・・』
『キャハハハ!キャハハハ!死ねぇ・・ジャニス!』
紗江の手の力はどんどん強くり始めた・・・
『や・・やめろ・・・』
「ドカッ!」
ジャニスは咄嗟に紗江の体を引き離すかのように蹴りを入れた
『きゃん!』
紗江の手はジャニスの首から離れ床へ倒れ込んだ
『ゴホッ・・ゴホッ・・お前は誰だ!』
よろめきながらも立ち上がる紗江・・・
『いちいちうるさい奴だね・・・お前も佐原さんの所へ逝きな・・・』
「佐原?やはり・・紗江の人格が残っている・・」
『お前がこの体に沢山の人格を入れ込んだおかげで・・私の居場所がなくなりそうなんだ!!お前も道連れだ!』
物凄い形相で紗江はジャニスに向かってきた
「どうする・・紗江の肉体を傷つける訳にはいかない・・だが・・このままでは殺される・・」
ジャニスはポケットに入れていたボイスレコーダを取り出した
「これしかない・・」
「カチ」
『ガラスの破片』
哀川 京介の肉声で呪文が唱えられた・・
『ぎゃぁぁぁ---・・・あぁぁ・・辞めろ!辞めろ!』
紗江は絶叫をあげながら頭を抱え床に転げだ
ジャニスは知らず知らずの間にびっしょりと汗をかいていた
「ハァッ・・ハァッ・・」
『消える・・消えていく・・・ごめんなさい ごめんなさい・・許して 許して・・』
涙を流し、涎をたらし、苦しそうに悶える紗江・・・
「ドサッ」
ジャニスは椅子に腰かけた
「どうなる・・・新垣 紗江・・お前の中に複数ある人格はどう判決を下す・・・」
『いやぁぁぁ---消えたくない!消えたくない!・・佐原さん!佐原さん!佐原さん!』
「・・・そうか・・もう一人の新垣 紗江か・・・覚醒で作り出された狂気の人格・・・「サタン」のモードに隠れていたのかもしれない・・紗江自体の人格は抹消しているが人格呪文はそのままだった・・・」
ジャニスは紗江の苦しむ姿を見ながら観察を続けた
「覚醒で変化をする人格には、まだまだ謎が多い・・ガラスの破片でこの紗江が消えると感じているもの疑問がある・・・」
『ごめんなさい・・助けて・・助けて・・ジャニス・・・さ・・ん・・』
数十秒の間に紗江はその言葉を最後に気を失った・・・
「あの人格の言うとおりサタンの人格は消えたのか・・?もし、そうじゃないとしたら・・紗江を凍結するしか他に手は無いな・・」
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数分後、何事も無かったように紗江は目を覚ました・・・
『・・・』
顔を表情は物静かな感じだった、そして頬をつたう涙を手で拭った
「彼女・・居なくなったんだ・・・」
小さな声でそう呟いた
『紗江・・誰が居なくなったんだ?』
『もう一人の私・・』
『何故、そう思う?』
『私の軸・・主導権を握るものが居ないから・・』
『そいつの名は?』
『紗江・・恋人を死ぬほど愛していた人・・』
『そうか・・彼女はきっと・・その彼の所へ行ったんだよ・・』
『そう・・・』
紗江はジャニスの方を見た
『・・・感じる・・・懐かしいこの感じ・・・酷く怯えていて・・怒りのようなものを持った人・・・』
『何かを感じるのか?』
『絶対的な人・・・違う・・だけどとっても似ている・・・』
「小川 京介が動き出したな・・・ニヤリ・・・」
『彼をここに導くわ・・・』
『出来るのか?』
『多分・・・』
『・・・』
『彼はきっと私を憎み・・殺すことでしょう・・・』
『何故そう思う・・』
『分かるの・・・彼の痛みが・・』
『心配するな・・きっと彼はそんな人間じゃないよ』
『・・・・』
そう言うと紗江は意識を失くし倒れ込んだ・・ジャニスは紗江を再び地下室へ運んだ・・
先程まで固定していた、バンド付のベットは無理に切り裂いたのか・・紗江の血で染まっていた
ジャニスは紗江を寝かせ考えた・・
この新垣紗江は入れ物のにしか過ぎない・・・元々本来の新垣紗江の人格は抹消していた・・
現在、中に入れ込んである人格は今までの傀儡達のデータだ・・性格、スキル、などをメインとしていた・・
紗江を最後の傀儡として作り上げる時に、彼女の脳へ残したのは「キーワード(呪文)」のみだ・・
故に、入力する際に、最後の傀儡であることも理解できたのだろう・・
そのキーワードに佐原を絞め殺した人格 サタンが潜んでいた・・と考えるのが自然・・か・・
その人格は、現在の紗江の人格によると消え去ったと言っている・・それを信用していいのだろうか・・
現在の紗江の人格は元の紗江の人格を主としている・・だが、そこには自発的な意識は殆どない・・
昔の名残が少しある程度で、乱れたものは無いはずだ・・・
今回の事で、あのバグと思われるプログラムは消えたと考えたいが・・・
京介さんの呪文が彼女の最後を葬った・・・
数回による「ガラスの破片(呪文)」に行き場が失われつつあったのだろうか・・・
「京介さん・・貴方はどんな仕掛けを施したんですか・・・・」
ジャニス自身、作り上げる事は出来ない傀儡・・
何処か、底知れぬものに・・哀川 京介の亡霊のようなものを感じてならなかった・・・
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