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姿見に映った未来は…、不仲な婚約者との(想像以上に)冷え切った結婚生活だった  作者: IROKA


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#55 運命に導かれて、本能的に心惹かれた ④

番外編:第2弾 最終話

ヴェルナー家のタウンハウスへ移り住んで間もなく、ある事件が起きた。

王室から送られてきた食材の中に、大人が口にしても害はないが幼い子には毒になる可能性のある物が混ざっていたのだ。その食材が使われた料理を何食か口にしてしまったアビゲイルは、母乳を通してガイアスに影響が出ることを恐れ、母乳を与えるのを止めた。銀狼の加護を持っていても、その食材自体は毒ではないため、加護が反応するとは言い切れないからだ。

これまで、エレノアからどんな仕打ちを受けても毅然としていたアビゲイルだったが、自身へ向けられる悪意には強くても、我が子に向けられるのは耐えられなかった。ガイアスの命が脅かされ、アビゲイルの心は折れてしまう。悲しみに暮れるアビゲイルの姿に、激昂したチャールズは、ヴェルナー家のほとんどの使用人を解雇した。この屋敷にいる限り、皇后の悪意に晒されるため、その悪意に屈せぬ覚悟がない者は立ち去るようにと。

チャールズは、秘密裏に乳母を探した。求めるのは、エレノアに弱みを握られず、アビゲイルを裏切らない者。そして、やって来た志願者は、これまでとある屋敷でメイドをしていたというマリーだった。事情があって子どもを手放し、行く当てもないと言うマリーのことを、チャールズは、エレノアの息のかかった者ではないかと疑いを持った。しかし、アビゲイルが嘘を感じないから大丈夫だと言うので、マリーは乳母として採用された。アビゲイルは、マリーが苦悩しているのを感じ取り、放っておけなかったのだ。使用人不足だっため、メイドの仕事も兼務することになったマリーは、居場所をくれた恩を返そうと懸命に働くとともに、ガイアスに殺意を向けられ気落ちするアビゲイルを支え、育てることができなかった自分の子の分までガイアスを守ると誓った。


王宮へ戻ったチャールズは、ヴェッティン公爵から事の顛末を聞いた。

今回エレノアは、アビゲイルが銀狼の加護で守られていると知り、どうせ命には関わらないのだからと、軽い嫌がらせのつもりで食材を送ったのだ。これまでも様々な嫌がらせをしてきたが、皮肉なことに、エレノアが軽いと思った嫌がらせが、アビゲイルにとって一番堪えたのだ。この件で、チャールズは、エレノアに対してアビゲイルへの一切の接触を禁じた。

「あぁ、それからな。公爵へ警告しておかねばならぬ話があるのだが…。」

いつも、エレノアの仕打ちに対して矢継ぎ早に話すチャールズが珍しく言葉を詰まらせたため、公爵は引っかかりを感じた。

「アビーがな、立ち直ってくれたのはいいんだが…。今回の件を許すことができないと、我にも止められぬほど怒っているのだ。それで、ヴェッティン公爵家へ対して領地戦を申し込むと言い出してな…。しかも、冗談ではないようなんだ。ヴェッティン領の地図を広げ、地形を確認してるからな。」

「つまり、我が領地へヴェルナー辺境伯軍が攻め込んで来ると!?」

「いや…。攻め込むとしたら、アビーひとりだ。他の者に獲物を譲る気はないらしい。」

「確か王妃様は、魔物討伐へも参加なさっていたのですよね。まさか…。獲物とは、うちの騎士たちのことではないでしょうな?」

「公爵よ。我はな、アビーが本気で領地戦をしかけると言うのなら許可するつもりだ。」

「陛下!そこは、止めてください!!」

領地戦を許可すると言うのが冗談ではないと察した公爵は、どうにか領地戦を回避しようと頭を働かせた。そして。打開策を見つけた公爵は、アビゲイルへ招待状を送った。それは、狩猟のお誘いだった。


狩猟へ招待されたアビゲイルは、公爵領の森で久々に魔力を放出させた。狩りの様子を見ていた公爵は、この攻撃が騎士たちへ向かわずにすんだことを心底安堵するのだった。

「やっぱり、魔物が相手じゃないと張り合いがないわね。だって、獣は弱過ぎるもの。」

アビゲイルが無邪気に発言するのを聞き、公爵は背筋が寒くなった。

森から屋敷への帰り道、公爵はアビゲイルに対して改めてエレノアの行為を謝罪した。エレノアは、今回の件が大事になるとは思っていなかった。毒になり得る食材ではあるが、中毒を起こす確率は低い上、加護を持つアビゲイルとガイアスに影響が及ぶことはないと考えていたから。エレノアにとって今回の嫌がらせは、アビゲイルへの意思表示だったのだ。"私はあなたのことが嫌い"だと。エレノアは、アビゲイルが王宮から出た理由が自分への気遣いだと理解はしていた。それでも、嫌いなものは嫌いなのだ。

チャールズの命令により、アビゲイルへの接触を禁じられたエレノアは、王室行事でアビゲイルから挨拶されても無視していた。自分は、王命を守っているだけなのだと言わんばかりに胸を張って。相変わらずの冷遇だが、アビゲイルは今さらそれを気にはしなかった。アビゲイルが驚いたのは、エレノアがチャールズへ対しても嫌悪感をあらわにしていることだった。エレノアはチャールズへの想いに蓋をしたのだ。


チャールズは、アビゲイルが王宮を出てからも、転移石を使い毎日ヴェルナー邸を訪れた。その際、よくヴィクトールを連れて来ていた。ヴィクトールが、ガイアスに会いたいと大騒ぎして手に負えないため、その度チャールズが折れていたのだ。アビゲイルとエレノアは不仲だが、ふたりの子どもであるガイアスとヴィクトールは兄弟仲がよかった。

月日は流れ。ヴィクトールは、チャールズの目を盗み、転移石を使ってひとりでヴェルナー邸を訪れるようになった。そしてときには、ガイアスの魔力を利用しふたりで王宮へ転移することもあった。ヴィクトールも幼い内から魔力量が多かったが、ガイアスはさらに多かったのだ。

チャールズとともに王宮から戻ったガイアスは、庭園で庭師にもらった花をアビゲイルへ渡した。それはあの夜、バラと一緒に咲き誇っていたルピナスの花。この花は、荒野でも狼のようにたくましく育つと庭師に教えてもらったのだと、ガイアスは嬉しそうに話した。自分に狼の血が流れることを理解し、自分の花だと言って笑うガイアスを見て、アビゲイルは微笑ましい気持ちになった。だが。ガイアスから、庭師の次に会った人物の話を聞き、アビゲイルは固まってしまう。

「あかいかみの"おばさん"が、ヴィックにぼくとあそんじゃダメだっていうんだよ。あんな、いじわるなおばさんがははうえだなんて、ヴィックはかわいそうだな。」

「ガイアス…。それで、ヴィクトール王子と遊べなくなってしまったの??」

「おばさんは、ぼくとヴィックがあそんでるのをみてたよ。あそぶなっていったのに、おかしいよね。ヴィックが、ひねくれものなんだっていってた。」

子どもたちの会話の内容に、アビゲイルは顔が引きつってしまう。

「その話、エレノア様に聞かれてないでしょうね!?」

「きかれてないよ。だって、ヴィックがいってたもん。きかれたら、カミナリがおちるって!」

エレノアに聞かれてないと知り、アビゲイルはひとまず安心した。しかし。何者かが、ヴィクトールによくない言葉を教え続ける限り、この懸念は解消されることはない。アビゲイルが、チャールズを問い詰めると、『嘘は言ってない。』と開き直っていた。

「エレノア様には、とことん嫌われてしまったから、これ以上嫌われることはないと思っていたのに。ヴィクトール王子がガイアスと仲良くするほど、もっと嫌われそうだわ。」

「だからと言って、ヴィクトールとガイアスを引き離しはしないだろう?皇后でさえ、戯れるふたりを静観していたからな。どうあっても、いらぬ一言を口にしてしまうようだがな。」

「口では、遊ぶなとおっしゃっても、ふたりの仲を認めてくださっているのね。」

それからも、ガイアスは王宮へ遊びに行っては、エレノアから嫌味を言われた。それに対して、ガイアスも言い返すようになった。

母親に似て狼のような銀髪だと言われたガイアスは、ヴィクトールは赤じゃなく父上に似て金髪でよかったと言い返し。木を登ったり、バルコニーから侵入するアビゲイルを野蛮だと言われたことに対しては、母上は風魔法で飛べてすごいんだと自慢し、"赤い髪のおばさん"は飛べるかと聞き返した。

「護衛からの報告では。子どもたちは庭師から、アビーが日傘を持って浮遊した話を聞いたそうだ。パラシュートプランツという植物のようだったとな。」

「チャーリーは、よく笑えるわね…。私は、胃が痛いのだけれど…。エレノア様に向かって、"おばさん"だなんて…。」

庭師から話を聞いたガイアスとヴィクトールは、飛んで見せてとアビゲイルにせがんだ。

「今、アビゲイルのお腹には、お前たちの弟か妹がいるんだ。怪我なんてしたら大変だから、危ないことはさせないでくれよ。ふたりとも、わかったな?」

自分たちに弟か妹ができると聞いたふたりは、アビゲイルのお腹にすり寄り、大喜びした。だか、この喜びが問題を引き起こすことになるのだった。

王宮へ出かけたガイアスは、エレノアと遭遇し、弟か妹が生まれることを無邪気に口に出した。さらにヴィクトールとともに、エレノアのお腹には赤ちゃんはいないのかと尋ねた。エレノアは唇を噛み締め、無言でその場を去った。

その話を聞いたアビゲイルは、エレノアの心情を想像して涙を流した。子どもを望めない体のエレノアは、どんなに傷ついただろうと…。そして、ガイアスへ王宮に行くのを禁止し、自らも今後一切、王室行事に出席しないことを決めたのだ。自身の言葉が母親を傷つけたと知ったヴィクトールも、ヴェルナー邸を訪れるのを控えた。


王宮へ行くのも禁止され、ヴィクトールとも遊べない日が続いたある日、ガイアスの体に異変が起こる。いち早く異変に気づいたマリーが、大声で助けを呼ぶと、アビゲイルが庭でうずくまるガイアスのもとへ駆けつけた。それはストレスによる魔力暴走だった。アビゲイルはガイアスに、手のひらに魔力を集め、それを空へ向かって放つように言った。放たれた魔力は、宮廷魔導師に観測され、ヴェルナー邸から放たれたものだと報告を受けたチャールズは急いでヴェルナー邸へ転移した。屋敷内にはざわざわとした雰囲気が漂い、マリーに至っては顔面蒼白だった。

チャールズが部屋へ入ると、ベッドに横になるガイアスをアビゲイルが心配そうに見つめていた。

「アビー。なにがあったのだ??」

「チャーリー…。どうやら、ガイアスは銀狼の血を色濃く受け継いでるみたい。定期的に魔力を放出しないと、今回のように暴走を起こしてしまうわ。でも、王都では魔力を放出できないわ…。もしも、たくさんの人が暮らし、建物が建ち並ぶ王都で魔力の放出に失敗したら、甚大な被害が出てしまうもの。」

「…つまり、王都を出るということか??」

「ごめんなさい。国王であるあなたは、王都を離れるわけにはいかないってわかっているのに。でも、こうするしかないの。それに、どうやっても私とエレノア様は相容れない関係だから、顔を合わせない方がいいのよ。」

アビゲイルは、チャールズを置いてヴェルナー辺境伯領へ移ることを涙を流しながら謝罪した。

「こんな日が来るんじゃないかと思ってたよ。だから、僕は魔導師に頼んでいたんだ。王宮とヴェルナー辺境伯邸を繋ぐ、転移魔法陣をな。」

「…転移魔法陣??」

「ああ。だから、距離は離れてもこれまでとなにも変わらない。転移魔法陣を使って、アビーのもとに毎日帰るよ。」

こうして、アビゲイルとガイアスはヴェルナー辺境伯領へ移り住むことになった。帰る場所のないマリーも一緒に。

辺境伯領へ出発する前に、ヴェッティン公爵が挨拶に訪れた。今は、ヴィクトールがエレノアへ歩み寄るようになり、親子の関係がよくなっていると近況を報告した。それから、妹の過去を語った。エレノアは、昔から魔力操作が苦手だったのだと。いくら訓練しても上達せず、いつしか自分には魔法の才能がないと諦めた。エレノアが、アビゲイルへ嫉妬心を抱いていたのはチャールズの寵愛を受けていることだけではなかった。自分と同じ風属性で魔力量も多いアビゲイルが、その力を使いこなしていることを羨むとともに劣等感を強く抱いた。ヴェッティン家に連なる家系では、世代が代わるごとに魔力量も赤髪も減り続け、昨今では純粋な赤色の者はいなかった。エレノアは、自分が望むものを手にしているアビゲイルを羨むあまり強く当たるようになり、気づけば自分でも止めることができなくなってしまっていた。公爵は妹のこれまでの仕打ちを謝罪し、頭を下げた。相変わらず冷たい態度を取られているが、今のエレノアからは以前のような憎悪を感じないとアビゲイルは言った。ガイアスへの発言も、狼のような銀髪や、木をやバルコニーを登ったなど、事実を述べているだけで悪口ではないのだ。

しかし憎悪がなくなったところで、今さら仲良くなんてできない。それが、プライドの高いエレノアらしさなのだ。アビゲイルは、自分とエレノアの関係は、この先も変わらないのだろうと、笑うのだった。


アビゲイルとガイアスとともに、マリーも馬車に乗り込んだ。

走り出した馬車を、ヴィクトールが泣きながら追いかけ、ガイアスは窓にくっついたまま、瞬きもせずその様子を目に焼き付けていた。



魔導師たちが転移魔法陣を設置し、王宮とヴェルナー辺境伯邸が繋がれ、涙の別れから半月もせずガイアスとヴィクトールは再会を果たした。ただ、この転移魔法陣もまた、転移石よりいくらかましというだけで、転移する際、多くの魔力を必要とするのだ。チャールズは、転移に必要な魔力を魔石に集めることで、王都とヴェルナー領を行き来した。その魔石には、アビゲイルとガイアスも定期的に魔力を供給した。

こうしてヴェルナー領へ移り住んでからも、チャールズはアビゲイルのもとから王宮へ転移し、仕事を終えるとアビゲイルのもとへ帰って来た。この生活を、10年以上続けた。


チャールズは、17歳になったヴィクトールへ王位を譲った。それはガイアスが、魔力暴走と銀狼の血の暴走を同時に起こしたことがきっかけだった。ガイアスの身を案じるアビゲイルを支えるために、退位を決意したのだ。自身もまたガイアスのことを心配しているヴィクトールは、王位を押しつけられる形になったが、快くその決定を受け入れた。そして、国王になってからも、転移魔法陣を使い、よくヴェルナー辺境伯邸を訪れていた。第一線から退いたチャールズは、アビゲイルとガイアス、ふたりの娘、ガイアスの息子のウィルバートたちに囲まれ穏やかな生活を送った。


そんな穏やかな生活は、10年ほどで幕を閉じた。

チャールズが引きを引き取ったのだ…。葬儀は王都で執り行われ、アビゲイルたちは20年以上振りに王都を訪れた。ガイアスを王位につかせ、権力を得ようとする勢力がいまだにいるため、アビゲイルたちはひっそりと葬儀に参列した。

「あなたでも、そのような表情をするのね?」

葬儀のあと、傷心のアビゲイルに話しかけたのは、エレノアだった。

「おばさんは、相変わらず意地が悪いことしか言えんのだな。しかし、感情と言葉がバラバラなんじゃが?」

「あなた、ヴィクトールと同じ年だというのに、ずいぶんと年寄りくさいしゃべり方ね?」

「わははは。祖父の話し方が移ったんだろうな。」

20年振りに顔を合わせたエレノアとガイアスが言い合いをはじめたが、アビゲイルには止める気力がなかった。見かねてヴィクトールが間に入ったが、エレノアからアビゲイルを守るような立ち位置だったため、エレノアは目をひくひくさせた。

「やっぱり、嫌いだわ。」

「だから、おばさん。感情と言葉が一致しとらんぞ?」

「嫌いなものは嫌いなのよ。みんな、あなたの母親の味方をするんですもの。息子も、お兄様までもよ。」

「おばさん。それ、逆恨みって言うんじゃからな。素直に、父上が亡くなった悲しみを、うちの母上と分かち合えばよいだろうに。まぁ、ひねくれ者には難しいか。」

ガイアスの指摘通り、エレノアは今さら、アビゲイルと気安い関係など築けなかった。

喪失感に襲われたアビゲイルとエレノアは、チャールズが亡くなった現実と向き合うことができずにいた。現実から逃れるように、アビゲイルはふたりの娘が暮らす隣国へ、エレノアは実家であるヴェッティン家の領地へ移り住んだ。



さらに月日は巡り。

ガイアスから再婚すると知らせが届いたアビゲイルは、ふたりの娘とともに国へ帰って来た。

「本当はガイアスより、ウィルバートの結婚式に出たかったわ。」

「お母様、仕方ないじゃない。感染症が流行していて、この国への入国が禁止されていたのだから。私だって、兄さんの2度目の結婚より、ウィルの結婚式に参列したかったわよ。」

「私は、兄さんの再婚するきっかけが気になるのよね。まさか今回も、銀狼の血が暴走しちゃったのかしら??」

「ありえないとは、言えないわね…。薬が利かずに発情して、お母様は兄さんを、兄さんと亡くなった義姉さんはウィルを授かったのだもの。」

「お父様と出逢ったその日に、兄さんを授かっただなんて、本当に信じられない話よね。まさか、ウィルの結婚のきっかけも…。なんてことは、ないわよね??」

王都の街中をペラペラとしゃべりながら歩いている、この三人が、元王妃と王妹だと気づくものはいなかった。この国ではしがらみが多いため、ふたりは隣国へ留学し、そのまま向こうで結婚して家庭を築いていた。


披露宴会場のレストランに到着した三人は、近づいてくる魔力を察知し、屋根を見上げた。風魔法を使って、屋根の上を移動し、飛び降りてきたのは、ケイトを抱えたノアだった。ノアは披露宴に招待されていないのだが、パトリックが会いたいと言ってきかないため、ケイトが呼びに行ったのだ。

「あら、エレノア様のような赤い髪ね。」

ノアの赤髪を見たアビゲイルは、エレノアを思い浮かべた。

「のあさまーっ!!」

ノアの到着を心待ちにしていたパトリックが、レストランから飛び出し、ノアに抱きついた。

「まぁ、この子の髪は鮮やかな赤ね。昨今では、ヴェッティン家から純粋な赤い色の髪を持つ者はいなくなったと聞いていたけれど。」

「坊っちゃんは他の髪色も似合うのですよ??」

パトリックがヴェッティン家の血筋であることはまだ秘匿事項なため、ケイトは機転を利かせて魔道具を発動し、パトリックの髪色をいろいろと変えて見せた。パトリックの本来の髪色が赤であることは肯定も否定もせずに。

「パトリック坊っちゃん。おひとりで、外へ出られては危のうございます。」

パトリックを追ってレストランから出て来たマリーに、アビゲイルが抱きついた。

「マリー!!久し振りね。うちを辞めたって聞いていたけれど、ガイアスを祝うために来てくれたの??」

「アビゲイル様、ご無沙汰しております。説明すると長くなる上に、複雑なのですが…。」

マリーが言葉を濁したため、一同はとりあえずレストランへ入った。マリーから、この披露宴と、会場に集まった人々の人間関係を聞いたアビゲイルは、頭を整理するのに時間がかかった。マリーが言うように、複雑な人間関係だったから。

「あそこにいる伯爵が、手放したと言っていたマリーの息子で、伯爵の離縁した奥様がガイアスの再婚相手…。伯爵も再婚するからと、今回ガイアスたちと一緒に披露宴をしたらどうかと勧めたのがヴィクトール王なのね??それで、伯爵の再婚相手というのが、元奥様の義理の妹さんで…。伯爵と元奥様との間に生まれたお嬢さんが、ウィルバートのお嫁さん??つまり、うちの孫と、マリーの孫が結婚したってことよね!?」


驚愕の事実に、人の巡り合わせとはわからないものだと、アビゲイルは会場内を見回すのだった。






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