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劇的整形! イケメンペイント!

 なずなが料理を作っている間、俺はイスに座ってスマホをいじっていた。すると、弾丸のような速さでなずなが室内になだれ込んできた。


 部活帰りを思わせる玉の汗をかいて、彼女は告げた。


 「ご、ごめんなさい。冷蔵庫が空だった。今から買い物へ行くから待っててね!」


 コップに例によってしょうが湯を注ぎなずなが退室しかけた時、


 『お知らせします。現在、この地域において凶悪犯が潜伏(せんぷく)しているとの情報があります。警察が巡回していますが、危険ですので外出を控えて下さい。やむを得ず外出する場合、2人以上で行動して下さい』


 市内放送が流れたら、なずなは石化したのか動かなくなってしまった。


 えっと、石化を解くおまじないは……。


 「回れ右!」


 ふり返ったなずなは涙目だ。


 「きょ、恭介さん。そういえば手料理を作りたい一心で、下手に外出できないのを忘れていた。最近この地域に凶悪犯が潜伏してると放送があって、もうかれこれ3日間出前なの……」


 今日学校でも言ってたな。通学路に、やたらと大人が立っていたし。


 「まあ、こうなったら仕方ないよ。出前のピザだけ食べようよ」


 高望みはないことをなずなに伝えたが、


 「ダメなの。このままいつまで潜伏しているかもわからないのに、出前の栄養が(かたよ)ったものばかり恭介さんに食べさせる訳には……」


 もはや、俺たちは夫婦かっ!


 「あっ、ごめんなさい。さっき、私の脳内で決定したことを伝えてなかったね。恭介さんの顔を奪ったのは私。罪滅ぼしをしたいので、これからはここにいて下さい。毎日、私がご飯をあげますから」


 それ、ペットに対する言い方! 夫婦から、めちゃくちゃランク下がってる!


 とはいえ、この顔のまま一人暮らしなど不可能だ。


 「わかった、お言葉に甘えるよ! 俺もなんとか変装するからさ、一緒に買い物へ行こう!」


 なずなは嬉しそうに笑った。まるで、太陽のように輝いているほほえみだ。少し胸が高鳴った途端、子供みたいになずながはしゃぎ出した。


 「へっんそうへっんそう、どっれがいいーっ!? あっそうだ! 帽子にサングラス、マスクがあるよ!」


 「怪しいって! 凶悪犯に間違われるよっ!」


 「確かに職質を受けるわね……。じゃあ、もっとかっこよくしましょう! 面・胴、小手。手には竹刀を持てば完璧!」


 「下宿から出た瞬間に職質だよっ! 剣道のコスプレをしてるのに、「買い物へ行くところです」なんて言えないって! 新手の強盗に間違えられる!」


 「うー、そうだね……。じゃあ、スーツを着よう!」


 「格好だけまともじゃん! 顔は?」


 大丈夫、人に見られたら立ち止まればいいのよ。紳士服売り場のマネキンが移動したと思われるだけだから!」


 「だるまさんが転んだかよっ! それにマネキンが野菜売り場にいたら、めちゃくちゃ怖いぞ! 「あー、このマネキンはベジタリアンだね」なんてノンキに眺める人はいないよっ!」


 「じゃあ、どうすればいいのよ? 他に方法が……あるわ!」


 スカートをたなびかせて、なずなはまた退室した。


 0.5秒くらいの間隔で打ち込まれる足音。どんな方法を思い付いたのかと予想を始めたら、なずなはワープでも覚えたのかもう目の前にいた。その手には白くて大きい毛筆が握られており、毛先から黒いインクがしたたり落ちている。


 まさかと思った時、すでになずなはこちらへ進撃していた。


 「毛筆乱舞!」


 高らかなかけ声と共に机を蹴飛ばし、彼女は毛先で俺の顔をなぎ払った!



 イスが倒れて、あお向けに崩れ落ちる俺。周囲にまき散らされた黒いインクがカーテンや壁、床に付着して技のすさまじさを物語っている。


 あの白い毛筆、実はイカなんじゃないのか? と疑念混じりになずなを見ると、彼女は片ひざをついて呟いた。


 「これぞ、芸術!」


 芸術って、本当に大丈夫か? 怖いけど、ちょうど手元に手鏡が落ちているからのぞいてみよう……。


 我が顔を知った瞬間、絶句した。


 「どう恭介さん、これでも美術の成績はオール5。将来はイラストの新人賞に応募して、プロになるんだからっ!」


 いい目標じゃないか! でも、パリ留学とかで力をつけて世界相手に戦った方がいいかも!


 だって、俺の顔はものすごいイケメンだから!


 「美形なイケメンよね! 満足でしょ?」


 「うん、なずなさん! 俺、ナンバーワンホストになるよ!」


 「いい目標! でもそんなにイケメンなら、世界相手に戦った方がいいかも!」


 オウムですか、あなたは心が読めるオウムですか?


 ともあれ、最高の顔を手にいれた俺は嬉しくてすくっと立ち上がり、


 「さあ、デパートへ行こう!」


 なずなは、あどけない笑顔を見せうなずいた。


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