なずなさん、乗せられすぎです。
俺となずなは、デパートに着いた。ここは人影がまばらだ。
まあ、もう空は暗いから凶悪犯とのエンカウント率が上昇するだろうからな。夜だけ出現するモンスターみたいな奴だ。
などと考えて、ブレザー姿のままなずなと並んで野菜売り場を眺めていた。
彼女を見ると、真剣なまなざしでバナナを見つめている。
なんだよ、まじまじと……イケナイ事でも考えているのか?
なずなは口を半開きにし、
「ねえ、恭介さん……」
「はっ、はいっ!」
「バナナってね、もしかして……」
つばを飲み込み、続きを聞く。
「もしかして、体にいいのかな?」
さすが純粋少女、勘違いさせる行動で俺を惑わせる。
イケナイ妄想をした自分が恥ずかしくなりなずなと数歩距離をとったら、
「お客様。バナナは非常に栄養価が高く、美容とハゲ予防にもなる男女ともに嬉しい果物ですよ」
ロンTにジーパン履いて、黒いエプロンをつけた店員がなずなに解説してる。
ネオ七三分けにメガネなので、やたら詳しい解説とも相まって賢そうな男だ。
「へぇー、美容にもいいんだね! それはすごい果物だ! 袋を3つ下さい!」
口車に乗せられて、めっちゃバナナ買ってる!
確か『バナナを食べすぎると体に毒だから、1日1本がいい』って母さんが言ってたのに。
「あっ、りんごもおいしそう!」
なずなは果物ばかり欲しがってるよ! それじゃあ、手料理の必要ないじゃないかっ!
「お客様、りんごも美容にいいんですよ。低カロリーで、お肌にいい成分がたくさん入ってます」
メガネ店員っ、今から電子辞書と呼ぶぞっ! また買わせる気だな?
「本当!? しょうが湯もいいけど、りんご酢もおいしいよねっ! 5個もらうわ!」
どんだけ乗せられてんだよ、なずなさん! ネットの広告とか見つけただけでポチッだろ、違いない!
くっ、このまま黙っているべきか? だけど俺、平凡に慣れすぎて強気になれない。
くっそー、密かにつっこみならできるのだが……。このままでは、なずながとことん搾取されてしまう!
「ほうら、お客様、パイナップルをさばきました。試食をどうぞ」
店員に促されなずなはパインを食べ、
「あ、甘い! 口に入れた途端、南国の太陽をさんさんと浴びてよく熟れた果物の甘さが広がってる! 5個買うわ!」
食レポかよっ、向いてるぞなずな!
「お客様、先ほどパインを切ったこの包丁。あっという間にまっぷたつという優れものにも関わらず、1本千円! お買い得です!」
もはや、このデパートは通販番組かっ!
「買う買う、買うよ!」
欧米人が聞いたら、何この人『牛』って連呼してんだよって思われる!
嘆いていたら、なぜか店員は背後霊のようになずなにピタッと張り付いた。突然の不審な動きを目撃したのは俺だけらしく、みんな普通に買い物をしている。
店員がなずなのお腹を腕で締め付けたとき、俺は恐怖した。まるで獲物を見つけた蛇のような眼。何かやらかしそうだと危機感を抱いていたら、店員は彼女の首筋に包丁を突きつけた。
ど、どうすればいい?




