如月と木暮
海から宿舎に戻って来た重達一行。突然の来訪者である如月と木暮を交えて夕食をとっていた。
「それにしても…さっきの反応で分かったが中々粒が揃ってるじゃないか。ついつい血が滾っちまうところだったぜ。」
如月が手元にある鳥の足にかぶりつきながら言う。見た目通りのワイルドな食べ方である。
「…自分の行動がどれだけの影響を及ぼすか考えてから行動して下さいと何度も言ってますよね。」
如月の言葉に木暮がため息をつきながら忠告する。
「あの、お二人はお付き合いされているんですか?。」
花凛がぶっこむ。周りからは何故今それを聞く必要がある?と言う視線が向けられる。
「「それはない(ありません)。」」
2人同時に答えが返ってくる。
「さっきも言っただろう、こいつは俺付きの魔導師だ。」
「そうです。仕事相手です。私プライベートと仕事は分けるので。ここにきているのも仕事です。まぁ監視ですね。」
それぞれ相手について述べるが木暮の方が辛辣な様に聞こえる。
「そう言えば休みに来たと仰ってましたが…」
真利谷が海での発言を思い出し尋ねる。休みに来たと言われても具体的な話がされていない。
「おぅ、そうだな、あまり大きい声では言えないんだがある命令で動いていてな。それがひと段落したから休むんだ。やはり俺に仕事は合わんな。戦場こそ俺の居場所だ。」
大きい声では言えないと言いながら生来の声の大きさ故中々のボリュームで語る如月。隣では木暮が眉をしかめている。
「そんでお前らのところの学園長に良いとこないかと聞いたらここを言われて訳だ。お前ら学生のくせに良いとこ泊まりすぎだぞ。」
「そんで休みに来たんだが…疼くな。お前らを見ていると。」
如月の目に鋭さが出始める。それと同時に場にも少なからず緊張感が出始める。
「お前らまとめて相手して…」
「そこまでにしておいて下さい。なんの為に休暇に来ていると思っているのですか。」
木暮が止めに入る。それによって場の空気も落ち着きを取り戻す。
「…俺らとしては願ってもないことっすけど?。現役の国家魔導師にお相手してもらえるなんてね?。」
剣が言う。重は一度如月と戦ったことがある。是非自分も、と思うことに何も不思議はない。
「…だそうだが?。それに名乗り出たいのはそいつだけじゃないみたいだぞ?。」
如月が視線を向ける先には微笑む若草と真剣な目をした創士。
「…それでもです。あなたにそう簡単に戦われると困るんですよ。…はぁ、わかりました。希望者は私が相手をしましょう。」
仕方がないと言うように木暮が言う。
「あ、それなら俺も…」
如月との戦いは遠慮していた重も手を挙げる。
「まぁいいか。その代わりお前が負けたらその責任をとって上司の俺が出るからな。」
「そんなことは有りません。」
木暮が負けた場合自分も戦うと告げる如月に自分が負けることはないと言う木暮。当然待ったが入る。
「えらい自信だな。是非お相手ねがうね。」
「確かに火祭剣の言う通りだ。こちらとて国家魔導師を目指す者。そう易々と負けはしない。」
「俺も如月さんに言われてから色々試したんです。それを見せますよ。」
既に闘志全開の剣、創士、重。
「お前は…いいのか?。」
若草に尋ねる如月。先程まで闘気が消えていた。
「ええ、僕は遠慮しておきますよ。手札を見せない主義なので。」
若草が告げる。この発言はある思惑からの発言だった。それに気づいたのはこの場で如月ただ1人。
「くくくっ、そうか、お前はそこまで見えているのか。わかった。無理にとは言わんしな。」
若草の考えを理解し獰猛な笑みをこぼす如月。
「ふむ、3人か。」
「その前に、あんたは強いのかよ。」
剣が木暮に尋ねる。その言葉に答えたのは意外にも如月だった。
「分かってねーな。こいつは俺が選んだ魔導師だ。この国で最強の俺が隣に並び戦うことを認めた女だ。舐めてると…秒でやられるぞ?」
如月の口から語られる言葉。国家魔道士の言葉は重い。それ故に木暮の実力を如実に表していた。
「…やっぱり2人は付き合ってるんじゃ?。」
ここで花凛が炸裂する。またもや今言う必要があるのか?と視線が集中する。
「…はっはっはー!。こいつは面白いな。その度胸は買うぜ。だが否定する。」
「…ともかく私がこの子達の相手をするということで。いいですね!。暴れないでください。」
「あいあい、分かった分かった。ふぁ〜、眠くなってきたな。部屋に帰るか。」
「…まったく…。それでは我々は失礼します。」
如月と木暮が去っていく。2人の姿が見えなくなってから
「あの、あの人って。」
今まで黙っていた澪が口を開く。
「ええ、おそらくですがそうでしょう。」
それに真利谷が続く。
「ん?どうした?真利谷。」
「木暮さんはおそらく自己変化型です。あくまで直感ですが澪さんも同じ感想を抱いたようです。」
「そうなの澪ちゃん?。」
草薙が尋ねる。
「はい、私も確信はないですけど…」
「…成る程。自己変化か。2人が言うのならそうなんだろう。明日が楽しみだ。」
そう言い創士は立ち上がる。
「取り敢えず今日は解散だ。今日はしっかり寝ろよ、1年生。」
そう言い創士と真利谷は立ち去る。
「俺たちも寝るか。花凛もおとなしく寝てろよ。」
「んーなんか忘れてる気が…あ!風待さん!。」
重が思い出す。昼間氷漬けにされたままになっている風待のことを。
「ほっておいたら?。自業自得だし。」
並木が冷徹に答える。まだ怒りは収まっていないようである。
「…はぁはぁ、心配には及ばんで。俺のイケメン力があれば…なんとかなるで。…夏の夜はこれからやで。」
自力で脱出した風待が現れる。
「…キモっ。」
並木はゴミでも見るような目で風待を見た後食堂を出て行った。
「風待君。今日はもう寝たほうがいい。」
「俺の夏が!。」
若草に引きづられ風待も退場。その場には苦笑いをする1年生だけが残ったのだった。