剣の思い /花凛の想い
「さてさて会長もメンドくさいこと言うてくれたな。師事訓練って…俺がこいつに何を教えんねん。自分俺より強いやろ。俺属性も1個やし。」
風待が腕を頭の後ろで組みながら言う。
「…よく言うぜ。スペシャリストだろ?。1属性しか使えないんじゃない。それだけに絞ってんだろ?。」
それに対し剣がどこか挑むような眼で見つめ返す。
「…へぇ、よう調べてるやん。てっきり俺のことなんか眼中にないと思っとたわ。」
驚いたような顔をし、組んでいた腕を下ろす風待。
「…そりゃ調べるだろ。あの会長が身内に置いてる人間だぜ?。只者の訳がない。あんたは入学間もない頃は風と水を使っていた。しかしある時からは風属性だけしか使用しなくなった。その時ぐらいから頭角を現しだした。まぁ俺が調べれたのはそんだけだな。てか、あんたは矢沢に勝ってるんだよ。それだけで警戒に値するだろ。」
自身が調べた風待の情報を述べる剣。調べはしたが余り有益な情報は得ることはできなかった。
「ふーん、まぁそんなもんやろな。…俺はなこの学校に来た当初自分が強いと思っとった。実際ある程度までは通用した。せやけどぶち当たった。若草やったわ。完全にやられた。俺の魔法は全部読まれていいようにやられた。
んでそっからやな。俺が風だけに絞ったんわ。2つ同時に扱う器用さは俺にはなかったからな。その代わり工夫をした。特性を理解し利用した。そんで今に至る。今思えばあの時負けといて良かったおもうわ。」
自分がなぜ風属性だけに絞ったかを話す風待。自分に器用さがないからと言って属性を1つ切り捨てることは多大な覚悟を要する。風待はそれを乗り越え強くなったのだ。
「そんで?あんたは大樹さんに勝つのは諦めたのかよ?。」
剣が不敵に尋ねる。
「アホ言え。そんな訳ないやろ。若草の凄さはよう分かってる。それでも負けっぱなしは性に合わん。必ず勝つ。」
剣の問いかけに即答する風待。七星に名を連ねる若草。それが分かった上で勝ちたい。その思いは色褪せることはない。
「それは俺もなんだよな。俺もあの人には負けてんだよ。取り敢えず俺はあの人に本気を出させたい。そんで勝ちたい。その為にあんたの技術を教えてくれ。」
剣が真剣な眼で風待の目を見つめる。最後には頭も下げた。
「ふん、…まぁ若草の魔法を調べるかませ犬ぐらいにはなるやろ。俺が魔法の広域展開教えたる。」
最後には剣を認めたように手を差し出す風待。若草に勝ちたいという思いが2人を繋いだのだった。
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「花凛…」
「お兄…」
見つめ合う2人。若草大樹と若草花凛。真剣な眼差しをぶつけ合う2人がいるのは合宿所のダイニングルーム。そして2人の間には…
「ふふふ、僕の勝ちのようだね。」
「…負けました。んーどこで間違ったんだろ?。」
将棋盤が置かれていた。2人は訓練が開始してからずっと色々なゲームをして対戦していたのだ。
「細かな応酬の差異はあれど致命的な間違いは27手前だね。あの時ではなく桂馬を打っておけばどうなっていたかわからなかった。」
若草が今回の戦いの失着を花凛に告げる。
「えーと…ちょっと待ってね。…あぁあそこか〜。そうだねーちょっと早ったなー。」
若草の指摘により即座にその場面を思い出す花凛。2人ともにずば抜けた思考能力だった。
「ふぅ…このぐらいにしておこうか。それにしても…花凛がここまでやる気を出すとはね。」
将棋の駒を仕舞いながら若草が言う。この学校に入った当初は当たり障りなく過ごせれば良いと言っていた妹がやる気を出している。それに驚いていた。
「それは…この前の戦いで剣君の役に立たなかったから…。優勝したら友達になるって約束して…優勝できなかったけど友達になってくれた。そして他にも重君達とも会えた。私は…初めて人の為に強くなりたいって思ったよ。そしたらやる気でた。」
花凛が胸の内を語る。剣との約束。結果負けたが剣は花凛といることを拒まなかった。それまで心から信頼できる友を得たことのなかった花凛はそこで初めての感情を知ったのだ。それの正体が何なのかはまだ知らない。
「だから!お兄…お兄に教えてもらうよ。相手の思考を読むその技術を。これは私が輝ける可能性がある分野だから。」
そう言い新たにボードゲームを取り出す花凛。
「やれやれ、…コツは自分をなくすこと。俯瞰と他感。あとは…流れに乗らないこと。自分が流れを起こす。そうすれば読みは深まり精度を上げる。」
「ハンディは無しでいいね。…僕にリザインさせてごらん。」
2人は番に没我する。