受ける覚悟と想うが故に
「な、並木さんよろしくお願いします!。」
澪が並木に向かって頭を下げる。基本的に初絡みなので若干の緊張は残っている。
「ん、よろしく。…今日はあなたに接近戦のやり方を教える。それはいずれ必要になるから。」
相変わらず言葉少なめに語る並木。その口から訓練内容が語られる。魔道士といえど格闘技術の習得は必須である。高レベルの魔道士同士ではお互いに魔法を防ぎ合うので接近し隙を作る必要があるためである。
「接近戦ですか…正直あまり得意ではありませんね。」
「それはしょうがない。。あなたは自己変化。物理に対して認識が甘いのは仕方ない。真利谷さんもそうだった。」
「先ず…受けるか捌くか。守りは大事。そこから攻撃に転じるから。」
「受けるか捌くか…ですか。それなら私は受けます。残念ながら私は自分の身体能力にあまり自信がありません。捌くのはおそらく向いていないでしょう。それに…」
捌くことよりも受けることを選択する澪。自身の身体能力の低さに鑑みたものだが理由はそれだけではない。
「あなたが自己変化だから。それは正解。真利谷さんもそちらを選択した。長期的には捌く訓練もした方が良い。それは絶対。でも自己変化なら受けで一足飛びに強くなる可能性がある。」
澪の言葉の続きを並木が言う。自己変化は物理を無視することが出来る。短期的に見た場合そのアドバンテージは計り知れない。
「あの、因みに並木さんは…」
ふと思い澪が並木に尋ねる。
「私?私は受け捌く。捌きは速さ。受けは重さ。どちらも利点があるから。ただ…相手の渾身の一撃を受けたら…勝ちは揺るがない。心と身体同時に折れる。」
考えを話す並木。そこに独自の考えが見える。
「あなたに受けを教える。ただの受けるだけじゃない。次の攻撃に活かす受け。反撃の為の溜め。受けると相手も自分の範囲内にいるはずだから。そこが捌きとの違い。利点。」
受けの利点を語る並木。少しテンションが上がっているようである。
「…私はあまり口が上手じゃないから…構えて。体で覚えて。いくよ。」
並木が構えをとり言う。
「はい!。」
殴りかかってくる並木を見つめて澪が言う。
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「草薙茜です。改めて今日はよろしくお願いします。」
草薙が挨拶をする。その目の前にいるのは真利谷氷雨。
「こちらこそ。貴女の戦いはコンビトーナメントで見させてもらいました。中々に自分のことがわかっているようですね。魔法を使うタイミングがうまい。周りを…というより彼を活かす戦い方でした。」
真利谷が草薙に評価を伝える。それは厳しい真利谷にしてはかなりの高評価だった。
「しかしそれだけに残念でなりませんね。…貴女は八神重君のことをどう思っていますか?。」
直球で尋ねる真利谷。
「え⁉︎、あ、えーと、はぃ、その憎からぬ相手といいますか、その…大好きです!。」
初めは戸惑っていたが隠していても仕方ないと開き直り自分の想いを口にする草薙。
「成る程…それで彼を支えるような戦い方になったのですね。しかし貴女の本分は近接戦でしょう。」
「はい、ですが重君とのコンビを考えた時サポートに回る方が良いかなと思いまして。彼を支えたいと思いました。」
「…同じ過ちですね。」
草薙の言葉に対し真利谷が呟く。
「…少し話しをしましょう。あるところに女の子と男の子がいました。」
真利谷が話を始める。その顔は懐かしいものを見るような顔であった。
「女の子には魔法の才能があり、周りからも絶賛されていました。一方男の子は平凡でパッとしない子でした。しかしその男の子は努力を惜しみませんでした。必ず強くなると女の子に日頃から話していました。」
「やがて成長した男の子と女の子。女の子は男の子のことを好きになっていました。その為自分の実力を隠していました。男の子より強いと嫌われると思ったからです。女の子は周りから期待はずれと言われましたが気にしませんでした。」
「しかし事件が起こります。女の子がいじめに遭ってしまうのです。その場に駆けつけた男の子は囲まれやられそうです。その時女の子は本当の実力を出して返り討ちにしました。しかし心の中はドキドキでした。男の子に嫌われると。けど男の子は女の子にこう言いました。」
『本当は強かったんだね。よし!僕は君を目標に頑張るよ。だから君も我慢しなくて良いんだよ。一緒に強くなろう。』
「その言葉で女の子は自分が我慢していたことが意味はなく逆に彼の成長の為にならないと気づいたのです。それからは2人切磋琢磨しあったのでした。」
「…聞いていてわかったと思いますがこれは会長と私の話です。私も昔貴女と同じ様に自身の成長より想い人のことを考えたことがあります。ですがそれは違いました。つまり貴女が自身の強みを消すことは彼の為にはならないのです。」
「…そうですよね。私…自分がいい様に見られたいとばかり…その先のことを考えてなかった。」
真利谷の話を聞き自分の行動が自分や重の為にならないことに気づいた草薙。
「気づいてくれて良かったです。ただ人を想うこと自体が悪いことでありません。その先です。支えるだけじゃない。横に並び立つ様になりたいと思いなさい。そうすれば自ずと力はつくでしょう。」
「私がそうでしたから。」
「はい!。私…重君に並べる様に頑張ります。」
草薙が元気よく返事を返す。
「あと…さっきの話は他の人にはしないでください。恥ずかしいので。」
真利谷が頬を赤くして言う。
「もし他言すれば…氷冷たそうですね。この季節なら2日ぐらいで溶けるかもしれませんね。」
「ぜ、絶対にしません。」
真利谷のセリフに草薙が震える。
「そう、それは良かった。さて、それでは貴女の個性を伸ばしましょう。」
草薙と真利谷の訓練が始まる。




