人事を尽くして天命を待つ
「よーし、今からテストを返すぞー。」
槙野の声が響く。
「…次は火祭だな。…良くやった火祭。学年トップの成績だ。いやーお前はやればできると思っていたぞ。」
槙野が剣にテスト用紙を返す。
「…はっはっはー‼︎どうだ!重。これが俺の点数だ。俺が本気を出せばこんなもんだ!。」
剣が重に向けてテスト用紙を見せびらかす。その紙には100という数字が並んでいる。
「凄いや剣。俺なんか全然敵わないよ。やっぱり凄いなー。」
「本当に凄いですね、剣さん。私も負けてしまいました。次からは私が教えてもらわないといけないですね。」
重、澪が口々に賞賛の声を口にする。
「全教科100点の俺の前に敵はない‼︎。」
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「…はっ!…最悪の夢だ。俺はどれだけ追い詰められてるんだよ。」
もちろん先ほどの展開は現実ではない。剣の夢である。テストを全て終え今日がテストを返却される日である。その極度の緊張によってあの様な夢を見たのであった。
「…大丈夫。俺はできることを全てやった。なんなら正夢にだってなってるかもしれない。」
自分自身に言い聞かせることで奮い立たせる剣。
「…ん?おぉ、ちょうど朝飯の時間か。食べて落ち着こう。」
そう言いベッドから降りる剣。
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「うわっ、剣どうしたんだよ。なんでこんなに早く。」
突如リビングに現れた剣に驚く重。
「うっせーな。起きちゃダメなのかよ。」
夢のことについては言わない剣。言えば弄られるのが目に見えているからである。
「いや、そんなことはないけど。あ!あれだろ。テストが返って来るからだろ。」
遠くない回答をする重。
「ふん。ほっとけ。」
剣はそっぽを向いてしまうのだった。
「「………」」
そんな2人を若草と澪は苦笑いしながら見ているのであった。
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「よーし、今からテストを返すぞー。」
槙野の声が響く。
(俺の夢の通りだ。このままいけば俺のテストも…)
夢が正夢になったことを祈る剣。
「次は火祭だな。…助かったな。命拾いしたじゃないか。」
早速夢から逸れる現実。
「…こ、これは…。」
そこに広がっていたのは平均やや下の点数だった。
(あれだけ勉強したのに…。まぁ補習からは逃れたからいいか。)
テスト用紙を見ながらそんなことを思う剣。
「…剣さん。…結構良くなりましたね。これからも頑張っていきましょう。」
剣のテストを見ながら澪が言う。もちろん澪はほぼ満点である。
「そうだね。まぁ前よりマシになってるじゃん。澪ちゃんに教えてもらっただけはあるんじゃない。」
重も感想を言う。その点数は平均やや上だった。
「はっ、俺が本気を出せばこんなもんだ。」
心の中では物足りなく感じていたがみんなの前では虚勢をはる剣。
「威張るなよ火祭!。主に矢沢の努力のおかげだろ。ここで安心して次のテストで気を抜くなよ。」
槙野が剣を咎める。
「さて、これで後は終業式で1学期が終わるわけだが…これからこの学園は夏季休業に入る。地元に帰って休むも良し。鍛錬に励むも良し。過ごし方はひとそれぞれだ。だがこれだけは言っておくぞ。強くなるやつは一足飛びに強くなる。無駄にしない奴が強くなるんだ。」
槙野がクラス全体に向けて言う。夏休みをどう過ごすかで大きく変わるはずだと。
「あぁ、後矢沢。特典についてだが2日後、終業式が終わってから行うことになった。良い戦いになることを祈ってる。しっかり準備をして臨んでくれ。」
槙野が澪に向けて言う。
「…はい。出来ることは全て出します。」
戦いに思いをはせる澪。その目には決意と覚悟が浮かんでいた。
「頑張ってね澪ちゃん。もちろん俺たちも見に行くから。」
「とか言って前みたいにこないんじゃねーだろうな。」
澪の応援をしに行くと告げた重に対し剣が茶々を入れる。テストが無事に終わったため心に余裕ができたからである。
「あ、あれは仕方ないだろ。もうあんなことないって。」
必死に弁明する重。
「わかってますよ、重さん。私も頑張るので是非見てくださいね。」
「まぁ当日は終業式が終われば何もないからほとんどの生徒が見に行くと思うぞ。俺たち教師陣も楽しみにしている。頑張ってくれ。」
そう言い槙野は教室を後にする。こうしてテスト返しが終了した。