努力の仕方
「えーそれでは、剣君の残念会と澪ちゃんのお祝いを開始します。かんぱーい。」
決勝戦の後全星寮ではいつものように宴が開かれていた。いくら訓練とはいえ勝ち負けがついた後。気不味さはあるかもしれない。だからこそ若草は宴を開き禍根を残さないようにしていた。
「僕たちは魔導学生だ。これからも競い合っていかないといけない。ぶつかる事も多々あるだろう。それでも仲間は大事だよ。だから…楽しもう。」
若草が3人に向けて話しかける。
「あぁ、そうだな。…今日は負けたぞ、矢沢。完敗だった。」
剣が澪に向かって言う。内容はともかく結果だけを見れば澪達は2人とも無事だった。
「そんな…ほとんど夢坂君が…」
「いや、違う。俺達は夢坂に負けたんじゃない。お前ら2人に負けたんだ。実際花凛は完全に矢沢に抑え込まれ、幻覚の一撃もギリギリで見破られた。だから…矢沢も立派な勝者だ。」
澪の発言を途中で遮り剣が言う。
「!、はい、…ありがとうございます。」
剣の言葉を受け澪が表情を緩める。認められたことが嬉しかったのだ。
「…そう言えば…重君、会場で会わなかったけど…どこで見てたんだい?。」
2人のやり取りを微笑ましく見ていた若草が重の方を向き尋ねる。
「あ…えーと、すみません!俺はその試合見てなかったです。実は…」
正直に白状する重。試合は見には行こうとしたこと。途中で如月と会ったこと。誘惑に負けて観戦するよりも戦うことを選んだこと。そして…手も足も出なかったこと。全てを話した。
「そうか、それで来れなかったのか。…うん、それは仕方ないんじゃないかな。強い人と戦いたいっていうのはみんな思ってることだしね。」
若草が言う。如月に目をつけられていることは知らない。
「お前は俺と矢沢より、そっちを選んだのか。がっかりだなー。」
からかうように剣が重に言う。
「仕方ないだろ。剣だって俺の立場ならそうするって。」
「…そうですね。そんなにあることではないですし…私もそっちを選ぶと思います。」
重を擁護する発言をする澪。
「澪ちゃん…。」
「それで、強かったのか?。」
改めて剣が重に尋ねる。
「うーん、強かった。けど…限界が見えなかった。さっきも言ったけど如月さんは一歩も動いていなかったんだ。それで軽くあしらわれたからね。あ、ただ闘技場はぶった切ってたよ。」
重が説明する。自分自身が体験したことを。
「闘技場を⁉︎、それは…豪気だね。成る程…そのレベルか。」
若草が驚きをあらわにする。
「…バケモンかよ。そんな事が出来るのか。」
「闘技場自体を壊すことなんてできたんですね。」
剣、澪も重の話を聞き驚く。
「驚きだよね。あれが…頂に立つ者なんだなって思ったよ。そして、距離を知ったよ。遠いなって。」
「…確かに今はまだその距離は遠いかもしれない。でもね、その距離を知る事が大事なんだ。三流は努力を惜しむ。二流はがむしゃらに努力をする。一流は正確に努力を重ねる。僕が大事にしている言葉だ。君は今日その距離を知った。君達はこれからだ。勿論僕もね。」
若草が3人に向かって言う。3人が会ってから初めてと言っても良いほどの真剣な表情だった。
「…はっ、言われるまでもないな。俺は強くなるためにここに来た。まだまだ強くなってやる。」
「そうですね。私も強くなります。先ずは…創志さんと真利矢さんに勝ちます。」
「俺はこの中で1番弱いかもしれない。でも…下克上上等。多重魔法で成り上がるためにここに来たんだ。努力は惜しまない。」
心に炎を灯し3人は決意する。




