挑む戦い
「俺の名前は如月花月。名前ぐらい聞いたことあるだろ?。」
決勝が行われている時と同じ時間、重は戸惑っていた。目の前には国家魔道士の名前を語る男がいる。更に自分と戦っても良いと言ってきている。
「え、あの本当に?本当に国家魔道士の如月さんですか?。」
再度確認を取る重。それだけ信じられないことだったのだ。学園長が国家魔道士であるため見たことはあったが本来そう易々と見ることが出来る者ではない。
「あ?そうか…俺はあんまし顔が割れてねーからな。そうだな…あ、ほれ!これを見てみろ。」
そう言い如月が何かを投げる。
「!おっと。…え⁉︎これは…」
重が手にしたのはピンだった。桜の花びらをかたどっており、大きさは2センチ程である。
「そう、それが国家魔道士の証。これは全ての権利を保障し、絶大な権力を示す物だ。だから…そのバッチを奪われたら無条件で国家魔道士から退任することになる。2度目はない。これで俺が本物だって分かっただろ。」
説明する如月。
「…は、はい、これはお返ししますね。」
重は如月の元に返しにいく。自分が手にしているものの価値に体がついていけない。
「そんでよ、俺は今退屈なんだよ。だからよ、ちょっと俺と遊ばねーか?。」
如月が本題を切り出す。学園長を待つ間の暇つぶしに重をつきあわせようとしたのだ。
(…ほ、本物の国家魔道士。学園長以外で初めて見た。さっきこの人が言った通り決勝の戦いは後で映像で観れるだろう。でも…この人に会えるのは今しかない。下手をすればもう2度とないかもしれない。それなら…、剣と澪ちゃんには悪いけど…)
重の心は決勝の観戦よりも如月のことに傾いていた。
「俺でよければ…お願いします。」
「そうこなくっちゃな。さてと、…良いぜどこからでも掛かって来いよ。」
自然体のまま特に構えも取らず重に告げる如月。強者の余裕が感じ取れる。
「…L2『蛍火』×10。」
魔法を放つ重。
「ほうほうこれが…お前の魔法か。面白いな。だけどさ…相手は俺だぜ?。」
右手を横に薙ぐ如月。その右手には大きな扇子が現れていた。
「一の舞『風凪』。」
その扇子を如月が降ると蛍火はたちどころに掻き消えてしまう。
「二の舞『風薙』。」
もう一振りすると嵐のような風が重に襲いかかる。そこで扇子は消えてしまう。
「な⁉︎L2『火炎』×100。」
火炎の質量で壁を張る重。
「すごい数だな。それにしても…二の舞で消えちまうのか。寂しいな。」
自分の手元を見ながら如月が言う。
(なんだあの魔法は?。おそらく…無詠唱か遅延魔法。なら攻めるしかない。相手に攻勢に出られたら手数で押し切られる。)
「L2『火炎』×100。圧縮‼︎。」
右手から火炎を放つ重。×100分を右手からだけに絞った高出力版である。
「お、それは…熱いな。ならこっちにするか。『ドンッ‼︎』。」
如月が地面を踏みしめる。そこから鬼の顔をかたどった盾が現れる。
「そんな盾で…防げると思わないでくださいよ。」
更に出力を上げる重。
「落ち着けよ。一陣『小鉄』。」
盾の口の部分から土の塊が射出される。それが大きくなりながら展開する。
『ゴオォォオ…』
火炎による破壊と小鉄の生成が均衡する。
「くっ、(なんなんださっきからあの人の魔法は?。だけど…推していく。)。L2『火炎』×100。」
更に左手でも火炎を放つ重。二本の熱線は一つになり如月に襲いかかる。
「…2つは無理だな。二陣『虎徹』。」
如月の声を受けまた土の塊が射出される。虎の顔を模した盾が展開される。先ほどの盾より大きさは小さいが密度が高く更に再生もする。だが…
『ゴオォォオ…パラ…パララ…』
綻びが生じ始める。
「…マジかよ、虎徹でもちょい厳しいだと⁉︎。もう潰れちまったしな。しゃあない、唱えるか。L5『断空』。…く〜、キッツい。」
如月の手に盾はもうない。虎徹を出した時点で崩れてしまっていた。その為この戦いで初めて詠唱をする如月。断空によって重の魔法は断ち切られる。
(え、L5⁉︎。当然のように使ってくるな。)
「どうですか?。俺で相手が務まりますか?。」
重が尋ねる。
「…ふぅ、お前なかなか良いぞ。面白い。俺の予想を超えてきている。俺にもっとお前を見せてみろ。」
如月が笑いながら言うのだった。