均衡する戦い それを破る者
「夢坂君‼︎それは…偽者です‼︎。」
澪の声が響く。
『ズシュッ…』
夢坂の肩に穴が開く。後ろからの刺突にかろうじて反応した結果わずかだがずらすことができた。
「…やってくれるじゃないか。さっきのはハッタリだったとはね…。まさか水の帝の前でも幻覚を使ってくるとは。」
夢坂が後ろにいるであろう剣に話しかける。夢坂が魔法を撃ったのは花凛の幻覚によって見えた剣。水帝の前では水属性の魔法は使わないという先入観念を利用されたのだった。
「矢沢が水帝を使えば水属性の魔法は支配される。だが…まだ今なら使えるからな。使えなくなる前にやらせてもらったわけだ。それと…この槍は刺さってからもやっべぇぞ。何せ持ってる俺の腕ごと切り裂くからな。」
剣の持っている槍から風の渦が発生する。それは夢坂の傷口を抉っていった。
「ぐ…た、『体雷化』。」
体を雷に変化させその場を離れる夢坂。
「ち、仕留め損なったか。なら…次はこっちだ。」
その場でステップを踏み槍を投げる。その先にいるのは澪。
「私が迂闊でした。初めからこうしてれば良かった。…L5『水帝』。花凛さん貴方の水ももらいます。L3『水陣壁』。」
澪が水帝を発動する。その場に展開されていた花凛の魔力が支配され水陣壁が形成される。
「あ、剣君持ってかれたよ。帝になったみたい。気をつけてね。」
自分の魔力が持っていかれたことを報告する花凛。
「分かった。だがなそんな魔法で防げるほど俺の槍は甘くねーぞ。」
「いえ、防ぎます。今の私のコントロールを甘く見ないでください。」
水陣壁を網の目のように織り込んで展開する澪。
「ズッ…ズッズズズ…」
絡め取られるように勢いをなくす槍。自らの回転によりさらに複雑に絡まっていく。
「ズ……パァーン。」
そしてついには勢いをなくし消失してしまう。
「…やるじゃねーか。この槍を止めたのは矢沢が初めてだよ。まさか槍の回転自体を使ってくるとはね。」
剣が動揺を隠しながら言う。澪に対しては相殺される可能性は考慮していたがまさか止められるとは思ってもいなかった。剣の想像を超える速度で澪は強くなっていた。
「私だって強くなったんです。」
澪が剣の目を見ながら言う。
「そうだよ。彼女は強くなった。痛た…。…ふぅ、認めるよ。君たちは俺たちに匹敵すると。それでも言おう、この勝負勝つのは俺たちだと。」
夢坂が澪の隣に立ち言う。
「偉い自信だな。だがなこっちだって勝つ気でやってんだよ。L4『風斬りの大剣』いくぞ‼︎。」
剣にが駆け出す。
「サポートは任せてよ。L4『轟の鉄槌』。」
「L4『白浪』。」
澪が姿を消す。
「それが…帝化の能力か。だが俺が何の対策もせずに臨むと思うなよ。花凛やってくれ。」
剣が合図を出す。
「分かった。いっくよー。」
「これは…幻覚の魔法かい?。バカな、彼女が既に帝化してる状態で水属性の魔法を使うなんて。」
「剣君!。右斜め45度!。」
「おう、うぉりゃー!。」
剣が何もない空間に斬りかかる。すると…
「…やられました。まさかそんな方法を取るなんて…」
澪が姿を現す。その顔を苦痛に歪んでいる。
「な⁉︎どうやって…」
「簡単だよ。私の魔法を吸収しにくるところを狙っただけ。そこには見えなくてもいるはずだから。」
花凛が説明する。
「これで矢沢は魔法を支配することができない。してもすぐに対応する。あとはお前の速さを攻略してやるよ。」
剣が夢坂に向かって言う。
「そうかい、出来るものならやってみなよ。『体雷化』。『雷撃』。」
体を雷へと変化させ夢坂が襲いかかる。
『バキッ‼︎』
その拳が剣を捉える。
「ぐっ…」
「…支配ができないだけで何もできないわけじゃありません。」
さらに澪が腕だけを飛ばし追い討ちをかける。
『ドゴッ…』
「これで終わりだ。『雷斧』。」
右手に雷の斧を持つ夢坂が超速で迫る。
「!、今だ花凛‼︎やってくれ。」
「『パチンッ』。」
花凛の指の音だけが響く。
『ドンッ』
剣の左手には花凛の遅延魔法によって生成された槍。その先には右手を貫かれた夢坂がいた。
「がっ…ぐっ、。どうやって…」
「お前は自分の速度に判断能力が追いついてないんだよ。だから…カウンターを避けれない。だから待ったんだよ。お前が必殺をかけて飛び込んでくるのをな。」
「どうだ?これでもまだ自分たちが勝つって言えるのかよ。」
「つっ…夢坂君。今行き…」
澪が夢坂の救出に向かおうとする。
「ダメだよ。行かせない。私が止めるよ。」
その前に花凛が立ちふさがる。
「…いや、良いよ。そこにいて。…本当は隠しておきたかったんだ。あの人たちとやるために。でもね、ここで負けたらそれどころじゃない。」
「は?何を言って…」
「だから成るよ。矢沢さんはそこにいて。まだ…抑えれる自信はないから。これで最後だ。勝つのはこちらだ。L5『雷帝』。」
夢坂が口にする言葉。それは剣達に絶望を突きつける言葉だった。




