矢沢澪の気持ち
矢沢澪。重達と同じ全星寮に住む女の子。稀少な自己変化型であり、体を水に変化させる者。自己評価は低いが歴とした実力者で二つ名持ちである。そんな彼女にも悩みはある。
「重さんと剣さん、大樹さんはいい人なんだけど…やっぱり女の子が私1人なのは少し寂しいな。」
ここ全星寮は元々は若草の第五輝邸であり、そこに入るためには厳格な審査が設けられている、と思われている。しかし実際のところ若草曰く
「強くなりたいって気持ちがあれば良いよ。あ、でもみんなと仲良くできる子がいいね。ここは高め合う場所であって蹴落とす場ではないから。」
ということであって厳格な審査などない。
「…うん!。誰か入ってくれる人を探そう。」
澪の瞳には炎が宿っていた。
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ところ変わって放課後。いつものように特訓が行われていた。しかし現在そこに重と剣の姿がない。
「2人とも連れていかれちゃった。」
澪が少し寂しそうに呟く。2人は今日提出の課題を終えていなかったので連行されたのであった。正確には剣に騙された重も課題をやっていなかった、であるが。
「どうしよう…。」
いつもこの時間は2人といるため戸惑う澪。とそこへ、
「あら?。先に人がいるみたいね。」
女がやって来る。制服を見る限り2年生のようである。
「あ!…今日はもう帰るのでどうぞ使ってください。」
2人がいない為今日のところは帰ろうとする澪。しかし、
「…!。貴女は確か若草君のところにいる1年生ね。」
その女が澪の方を見て少し眉を細める。
「は、はい。そうですけど…。それが何か?。」
澪が戸惑いながら答える。何故この先輩が自分に食いついてきたのかわからなかったためである。
「若草君もこんな子を自分のところに入れるなんてね。私のことは入れてくれなかった癖に。…貴女私と戦ってみない?。私も自己変化型なのよ。それも水のね。」
前半部分は小声で、後半部分は澪に聞こえるように言う。
「え⁉︎あ、あの…はい、お願いします。」
前半部分が聞こえていない為澪はただ先輩から誘いがあったとしか思っていない。その為了承してしまう。
「私の名前は水野舞美。二つ名は『奏水』。」
水野が名乗りをあげる。
「矢沢澪です。ふ、二つ名は『溺水領域』です。」
恥ずかしげに二つ名を言う澪。まだ納得などしていない。
「そう、矢沢さんね。覚えたわ。」
水野が刻み込むように澪の名前を呟く。
「それじゃあ始めましょうか。」
「「体水化」」
2人同時に体を水に変化させる。ここに水の自己変化型同士の戦いが始まる。
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「剣お前この課題の提出来週だって言ってたじゃねーか。」
重が剣に向かって吠える。
「自分で覚えてなかったおめーが悪いんだろ。てか俺に聞くのもミスってんだよ。」
剣も課題をやりながら重に言う。
「黙ってやれ。」
そんな2人に拳骨が落とされた。