使わない女
銀城葵。生来めんどくさがりやな性格で幼少の頃より家族に寄生して生きていく気満々だった。しかし時代が彼女にそれを許さなかった。6歳の時に行った魔力測定の結果は赤。普通の子だったら踊り出しそうなほど喜ぶはずの結果だった。当然銀城の親は喜んだ。娘が国家魔導師になれるかもしれない。しかし
(…興味ない。私は別に魔導師なんてならないし。)
冷めた気持ちでその結果を見つめる銀城。この時すでに世界中の人が喉から手が出るほど欲しい『才能』を放棄するつもりだった。しかしそれでも周りからすれば銀城は圧倒的だった。学年を上がるごとにはっきりとする才能の差。銀城は努力せずに凡才を踏みにじっていく。
(私は何もしない。努力なんてしたくない。…楽に生きたい。)
神は不公平だ。求める者に才を与えるとは限らない。銀城はその才を腐らせるはずだった。
「葵!。お願いだから、ここに行って。」
両親からの懇願。怠惰を極める娘を更生させる最後のチャンスとばかりに入学を勧める。煩わしかったが資料のある文面が目に止まった。
『当校は七星といわれる制度がある。七星にはあらゆる特権が与えられる。』
七星を得ることだけを目標とした銀城。初めてといえる努力をし、半年で七星の座を獲得。そして引きこもる。そんな彼女の二つ名は『暴虐の眠り姫』。
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「むー、かっこいい鎧だねー。それで…まだやらないと駄目?。私お腹空いたんだけど。」
「いや、お前はまだ一つしか魔法を使ってないだろ。『暴虐の眠り姫』の力を見せてくれよ。それが月華亭の条件のはずだ。」
「んー、仕方ないなー。これすっごく疲れるんだけど。…L5『烈火の波動』。」
銀城の体から炎の波動が放たれる。それはリズムを刻み銀城の体から出続ける。
「…来たか。烈火の…ぐっ、波動。確かお前の心音と…同期した継続系の攻撃。」
時折訪れる波動を防ぎながら創士が語る。創士を襲う波動は闘技場全体にまで届いていた。
「攻撃範囲が広い。…それに厄介なのは…心音と同期してるっ…ところ。」
「いくよー、ちょっと動くね。L5『土行脚』。」
銀城がこの戦いが始まって初めて動く。足を踏む出した途端創士の足元から土の槍が生える。この時点では斬大地と変わりは無いようにみえる。
「…っち、来い、狩刺刈刃。」
しかし創士は慌てて狩刺刈刃を錬成。斬岩剣をすて鎌を振るい土の槍を切り裂く。
「ッタ…タッタ…タタタッ…」
走り出した銀城は遅いながらも速度を上げていく。
『ドンッ、ドドンッ、ドドドドッ…』
すると創士の足元から際限なく槍が生えてくる。一本一本は大したことはない。それこそ狩刺刈刃一振りで事なきを得るだろう。しかしその数は増える。銀城の歩数と同期していた。銀城は走っている。当然…
『ドクンッ!、ドクン、ドクドクドクッ…』
その心拍数は上昇を続ける。普段運動を一切しないだけあり、その上がり方は凄まじい。
「くっ、くそ…手数が。」
巧みに盾と鎌を使い銀城の波動と土の槍をいなし、壊していく創士。しかし、彼は気をとられすぎた。
「これで終わりだよ。L5『鳳凰球』。」
銀城が走りながら、息を乱しながら放つ魔法。その両手から放たれた炎は鳳凰の如く姿を変え創士に襲いかかる。
「L3『土門』。…くそ、当たらないだと⁉︎。……。」
創士が一瞬でも時間を作ろうと発動した土門は鳳凰に躱され意味をなさない。覚悟を決める。
(……来た。俺が望んでいた状況。ひりつくような敗北の恐怖。俺は負けたくない。真利谷を守れる男になる。越える。…越えろ!。)
「…L6『神※※※鎧』。…『堅守の型』。」
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「…先程から使う魔法が全てlevel5なのは一体?。」
若草が隣の真利谷に尋ねる。確かにlevel5の魔法は戦局を変えるほどの力があるが逆に小回りが利かないと若草は思っていた。それを多用する銀城に疑問を持ったのだ。
「…強くなる方法は知っていますか?。」
「…?。そうですね、一応は知っているつもりです。」
真利谷の要領を得ない質問に困惑しながらも返答する若草。
「戦略を練り、技を磨き、…更には血の滲むような努力をして人は強くなる。ですが彼女はそう考えなかった。強い魔法を使えばいい、魔法の威力で押し切ればいい。誰もが一度は通り挫折する道。しかしそう考えた彼女はlevel5の魔法を習得しました。その才能のなせる技です。彼女はその破壊的な魔法の力のみで七星の座に就いたのです。」
「故に使わないのでなく使えない。我々にはあった基礎期間が彼女にはないのです。」
真利谷が銀城を重の反対に位置すると言った理由。どれほど望もうとlevel2以下しか使えない重、level4以下を無用と切り捨てlevel5しか使わない銀城。まさに対極といえるだろう。
「…もし、彼女が普通の性格であれば…勤勉でなくとも普通であれば、第一輝は彼女だったかもしれませんね。」
人並みな努力。この学園に通う生徒であれば当然のようにしている努力。彼女がトップに立つのに必要なのはそれだけだった言う真利谷。それは暗に才能は自分や自分の想い人より上だと認める発言だった。
「ですが、会長にはあれがあるでしょう。」
「えぇ、私は信じていますよ。努力の人が強いと。」
新連載始めました。
DKモラトリアム
馬鹿な男子高校生の日常です。
よろしければ読んでみてください。